まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「雨にぬれても(Raindrops Keep Fallin' On My Head)」B.J.トーマス(1969)

 おはようございます。

 今日はB.Jトーマスの「雨にぬれても」。

   雨の歌の中でもスタンダード中のスタンダードでしょう。発売されて今年でなんと50年もたつというのに、今でも日本のCMでも使われていますね。僕が世界で一番好きな曲でもあります。


B. J. Thomas - Raindrops Keep Falling On My Head (with Lyrics) (🎧)

 

Raindrops are falling on my head
And just like the guy whose feet
Are too big for his bed
Nothing seems to fit
Those raindrops
Are falling on my head
They keep falling.

So I just did me some
Talking to the sun
And I said I didn't like the way
He got things done
Sleeping on the job
Those raindrops
Are falling on my head
They keep fallin'

But there's one thing I know
The blues they send to meet me
Won't defeat me, it won't be long
Till happiness
Steps up to greet me

Raindrops keep falling on my head
But that doesn't mean my eyes
Will soon be turning red
Crying's not for me 'cause,
I'm never gonna stop the rain
By complaining,
Because I'm free
Nothing's worrying me

It won't be long
Till happiness
Steps up to greet me

Raindrops keep falling on my head
But that doesn't mean my eyes
Will soon be turning red
Crying's not for me cause,
I'm never gonna stop the rain
By complaining,
Because I'm free, 'cause nothing's worrying me

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  ”雨粒がオレの頭に降ってくる

   まるで足がデカくてベッドにおさまらない男さ

   なにもかもがしっくりこないんだ

      こんな風に、雨粒がずっと頭に落ちてくる ずっと落ちてくるんだ

 

   それで オレはお日様にちょっと話してやったんだ

   あんたのやり方は好きになれないなあ

      仕事中に眠っちまうなんて

   こんなに、雨粒がずっとオレの頭に降ってるのに ずっと降ってるのに

 

   でもひとつだけわかってることがある

   あいつらが憂鬱ってやつを送り込んできて挨拶されても

   オレを打ち負かすことなんてできないよ

   もうすぐ幸せが挨拶にやって来るはずさ

 

    雨粒がずっとオレの頭に降っている

       だからって、オレの目がすぐに真っ赤になるわけじゃない

  泣くなんてガラじゃないさ

  文句を言って雨を止めようなんて思わない

  だってオレは自由だから

  オレを悩ませるものなんて何もないんだ

 

  遠くないうちに 幸せがオレに挨拶にやって来るさ

  

        雨粒がずっと頭に降っている

       だからって、オレの目がすぐに真っ赤になあるわけじゃない

  泣くなんてガラじゃないさ 

  文句を言って雨を止めようなんて思わない

  だってオレは自由だから 

  何だってオレを悩ますことなんてできないんだ      ”(拙訳)

 

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「雨にぬれても」の楽譜はこちら

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 作曲はバート・バカラック、作詞はハル・デヴィッド。数々の名曲を生み出したソングライター・コンビです。

 

 ポール・ニューマンロバート・レッドフォードが主演の映画「明日に向かって撃て」で使われ、世界的に大ヒットしました。

 

 バート・バカラックはこの映画の監督ジョージ・ロイ・ヒルに呼び出され、この映画の音楽を依頼されました。

 ジョージが音楽をつけてほしいと考えていたシーンのひとつが、この曲が使われ有名になる、ポール・ニューマンキャサリン・ロスを自転車に乗せて走る場面でした。

 

 映画の仮編集の段階というのはだいたい別の既存の曲があてられているものなのだそうですが、このシーンにはサイモン&ガーファンクルの「59番街橋の歌」が仮に使われていてそうです。


Simon & Garfunkel - The 59th Street Bridge Song (Audio)

 

 そのシーンを何度も見ながらバカラックは曲を考えました。彼は作曲するときに同時にアレンジも浮かぶのだそうで、イントロのウクレレ、ホンキー・トンクっぽいピアノなども最初からイメージしていたものでした。

 そして、仮の歌詞をはめることもこの時期彼はよくやっていたそうで” Raindrops Keep Fallin' On My Head"というフレーズはバカラックの頭に最初から浮かんで離れないものだったそうです。

 

 バカラックからメロディーと仮の歌詞を渡された、相方の作詞家ハル・デヴィッドは、映画では晴れのシーンなので、雨のタイトルは合わないと思って別の案を考えたそうですが、これよりしっくり来るものが見つからなかったそうです。

 そして2日かけて2種類の歌詞を書き、両方の良いところを合わせて完成させたといいます。

 

 そして出来上がった映画のシーンがこれです。今まで見た映画のあらゆるシーンの中で僕が最も好きなシーンでもあります。  


Butch Cassidy and the Sundance Kid (1969) - Butch's BikeScene (2/5) | Movieclips

 

  さて、この映画で使われているヴァージョンですが、シングル・ヴァージョンに比べてトーマスの声がハスキーで歌うのがちょっと辛そうですよね。

 

 実はこのとき彼は二週間のツアーの後で咽頭炎を起こしてしまってドクターストップがかかった状態だったと言われています。しかし、なんとかレコーディングに臨み、バカラックが満足するまで5回歌ったそうですが、それが限界だったと本人は後に語っています。

 しかし、そのバカラックはそのハスキーな声がかえって気に入ったようです。

「B・Jはまさにわたしが希望していた通りのフレージングでうたってくれた。全部で5テイク録理、わたしは最高の曲ができたと思っていた」

            (「バート・バカラック自伝 ザ・ルック・オブ・ラヴ」)

 映画制作の関係者もハスキーな声がポール・ニューマンのイメージに合っていると好意的に解釈したそうで、いったい何が吉と出るか、わからないものですね。

 

 そして、みなさんお馴染みのシングル・ヴァージョンのレコーディングはその2週間後、ニューヨークのA&Rスタジオで再びバカラックディレクションで行われました。

 

 そして、そこでトーマスは歌い終わりの「ミィ〜ィ〜〜ィ〜」というあの有名なフレージングを生み出すのです。

 トーマスはこう語っています。

  「3回しか録音していないんだ。そこには100人くらいの人がいて、もちろんバカラックディレクションとか全部やっていた。そこに参加できたことは素晴らしいことだった。私はできる限り決められた通りにきちんと歌わなければいけなかった。3回目が終わった (と思って) 「最後に何かやろう」 と、思ったままにそれをやったんだ。私が歌うと、コントロールルームのみんなが盛り上がった。それを聴いたバカラックは、ディレクションしていたんだけど、止まったまま、体感で10分くらい私を見ていた。彼はエンディングの作業を続けて、そのフレーズがすごく気に入ったわけではなかったが、最終的には採用してくれた。彼はその数年間後、カバーしたものを含めて最高の出来だったと言ってくれた。素晴らしい経験だった。私は彼を愛していたし、今でも彼をとても尊敬しているよ」

                                       (THE TENNESSEAN. 2001. March)

  あれはトーマスのアドリブだったんですね。バカラックは最大限自分のイメージ通りにレコーディングしたい”完全主義者”として知られていますから、その彼をも納得させてしまう不思議な魅力があの”節まわし”には合ったわけです。(僕もあの”節まわし”の魔法にかかっている一人です)

 

 また、バカラックはトーマスの歌ったテイク2つをどちらかにするかギリギリまで迷っていたそうで、レコードのプレスに待ったをかけたこともあったといいます。

 

「ふたつのテイクを前に、私は迷いに迷っていた。いかにも心地よく聞こえるヴァージョンと、それに比べてずっとエネルギッシュなヴァージョンだ。けっきょくこのふたつをまんなかでつないで、スローからアップテンポに移行するヴァージョンをつくりだし、それがシングルとしてリリースされた」

 (「バート・バカラック自伝 ザ・ルック・オブ・ラヴ」)

 

 なるほど、シングルは前半と後半でテイクが違ったんですね。

 

 

 

 ちなみにB.Jトーマスはこの曲を歌う第一候補じゃなかったそうです。

 最初に依頼されたのはレイ・スティーヴンスでしたが、彼は断ったのだそうです。

 

 1969年全米8位 レイ・スティーヴンス「Gitarzan」

www.youtube.com

 またボブ・ディランにも交渉したという話もあります。

 なぜ、B.Jトーマスになったかというと、彼がセプター・レコーズに所属していたからなんです。セプターは、バカラックが”がっつり”仕事をしているディオンヌ・ワーウィックがいるので仕事がやりやすかったんですね。映画の公開に合わせて急いでレコーディングしなければいけなかったですから。

 (ディオンヌ本人がバカラックにトーマスの曲を聴かせたという説もあります)

 

 急なオファーで、しかも咽頭炎だったのに断らずにトライした彼に、幸運の女神が微笑んだわけですね。

 

 

 

 さて、「雨にぬれても」は歌詞がまた本当に素晴らしいんです。

 バカラックが考えた”Raindrop Keep Fallin' On My Head”と言うフレーズを基に、ハル・デヴィッドが 膨らませていったと言われています。ハル・デヴィッドの書く言葉がバカラックをインスパイアさせる、というまさに名コンビだったんですね。

 

 個人的な話で恐縮ですが、この歌詞は、僕にとっての究極の”人生訓”というか”処世術”のようなものになっています。

 

 今も日本のCMでこの曲が使われていて、それはうれしいことなのですが、CMではそこに「止まない雨はない」「いつか光が差す」「それまで走り続ける」といった言葉が載せられていて、日本人って本当に生真面目だなあ、と思ってしまいます(全然、非難するわけじゃないですが)。

 

 僕が「雨にぬれても」の歌詞から感じとるのは、ついてないことばかりだ、世の中に自分が全然フィットしてない気がするといった状況の中にあっても、そこで自分を追い詰めないという、いい意味での「ゆるさ」です。

 

 降り止まない雨に文句を言ったり嘆いたりせず、しょうがねえなあ、そのうちいいことあるだろ、というスタンスなんですね。いいことがある確証なんてないのに、です。

 

 逆境にあるとき、もちろん僕もそうですが、みんな心に余裕がなくなります。そして力んだままあがいてしまうと、また別のいやなことが雪だるま式でくっついてくるパターンにハマってしまいます。

 

 そういうときは、なんの根拠もなくても、とにかく一度肩の力を抜くことが大事だなと思うんです。

 

 この曲の主人公も、歌詞を読むと、内心雨を嫌がっていないことはない、全然平気じゃない、ただ平気だって自分に言い聞かせてるだけなんですね。

 「雨にぬれても」は

 ”逆境にあるときに、自分をリラックスさせる暗示をかける歌”

 なんだと思います。

 

 そして、そのためにはこの歌詞にある通り

 ”Because I'm free” 自分は自由だって思えることが大事なんだと思います。

 

 組織のような何か大きなものに自分が100%依存していたりする状況だと、もし何かあったときに切羽詰ってしまうんじゃないか、とも思います。ほんの少しでも、自分の自由な場所、時間を確保することはすごく大事なことなんだと思います。そして、それは意識的にやらないとできないことでもあると思います。

 

 最後に、B.JトーマスがTV番組で歌っている動画を二つ。

 雨なんて平気さ、文句は言わないよ、って歌っているB.Jトーマスだけに雨が降ってきて、他のみんなは傘に入れてあげないという演出が、面白いですね。


B.J. Thomas - Raindrops Keep Falling On My Head (Butch Cassidy and the Sundance Kid Soundtrack)

 

 そして、「雨にぬれても」のオファーを蹴った(!)レイ・スティーヴンスとB.J.トーマスの共演の動画がありますので最後に。(レイは歌っていませんが、、)

www.youtube.com

 

追記:2021年5月29日にB.J.トーマスがなくなりました。それに合わせて、1970年に彼とグレン・キャンベルがTV番組で歌っている動画がアップされました。この顔合わせ、いいですよね。

www.youtube.com

 

 追記:2023年2月8日バート・バカラックが亡くなりました。94歳、自然死だったそうですから、その天から与えられた才能を余すところなく発揮し、この世界に捧げてくれたのだと思います。


www.youtube.com

 

 

The Very Best Of B.J. Thomas

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