まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アクロス・ザ・ユニバース」(Across the Universe)」フィオナ・アップル(1998)

 おはようございます。

 今日はフィオナ・アップルの「アクロス・ザ・ユニバース」です。

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Words are flowing out like endless rain into a paper cup
They slither while they pass they slip away across the universe
Pools of sorrow, waves of joy are drifting through my opened mind
Possessing and caressing me
Jai guru de va om


Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world


Images of broken light which dance before me like a million eyes
They call me on and on across the universe
Thoughts meander like a restless wind inside a letter box they
Tumble blindly as they make their way
Across the universe
Jai guru deva om


Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world

 

Sounds of laughter, shades of earth are ringing
Through my open ears inciting and inviting me
Limitless undying love which shines around me like a
Million suns and calls me on and on
Across the universe
Jai guru deva om


Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world
Nothing's gonna change my world


Jai guru deva  Jai guru deva  Jai guru deva  Jai guru deva
Jai guru deva  Jai guru deva  Jai guru deva

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言葉は溢れる 紙コップに注ぐ止まない雨のように
それはずるずる滑りながら通り過ぎ、宇宙の向こうへ消えていく
悲しみのプールと喜びの波は開かれた私の心を漂っている
私を占有し、愛撫しながら

Jai guru de va om

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

 

思考は迷走する、レターボックスの中で落ち着かない風のように
道を作りながら盲目的に転がってゆく
宇宙の向こうへと

Jai guru deva om

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

 

笑いの声、大地の影が鳴り響いている
澄ました耳を通って、私を煽り、誘う
限りのない不滅の愛が、私の周りを照らす
100万の太陽が私を何度も呼ぶみたいに
宇宙の向こう側へと

 

Jai guru deva om

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

何も私の世界を変えられない 何も私の世界を変えられない

 

Jai guru deva  Jai guru deva  Jai guru deva  Jai guru deva

              (拙訳)

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「ぼくはベッドで前の妻の隣に寝ていて、イライラしていた。彼女はどうでもいいことを延々としゃべり続けて、そのうちに眠ってしまった。でもぼくの頭の中ではその言葉がぐるぐる回って、止まることのない水の流れのようにずっと聞こえていた。僕は階下に降りていったするとそれはイライラの歌から、宇宙のような歌に変わったんだ」

(「ジョン・レノンオノ・ヨーコ プレイボーイ・インタヴュー1980完全版」)

 

 この曲の歌詞で”Slither"(ずるずると地を這うようにすべる)なんて単語を使っているのは、歌詞に出てくる”あふれる言葉”は当初は不快な意味のないものだったからなんですね。

 

 さて、この曲は多くの方もご存知の通りビートルズの曲で、ジョン・レノンが一人で書いています。

「純粋インスピレーションから生まれたもので、まさにボン!って感じで思いついた。もともと頭にあったんじゃない」

(「ジョン・レノンオノ・ヨーコ プレイボーイ・インタヴュー1980完全版」) 

 しかし、彼はビートルズはこの曲をレコードとしてうまく仕上げられなかった」と語っています。

 

「ぼくらはいつも、ポールの曲の些細な部分を磨き上げるのに多大な時間を費やしていた。それでぼくの曲になると・・・特に<ストロベリー・フィールズ>や<アクロス・ザ・ユニバース>みたいないい曲のときに、なぜか気持ちが緩んで軽い気分になって、いつの間にか実験が始まってしまうんだ。無意識の妨害工作だと言っていい。もちろん彼’は’否定すると思うけどね。穏やかな顔で妨害工作なんてとんでもないと言うだろう。けれど、実際は今話したとおりなんだ」

(「ジョン・レノンオノ・ヨーコ プレイボーイ・インタヴュー1980完全版」)

 

 僕はずっと、この曲や「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」などビートルズ後期のジョンの曲のアレンジに実験的な要素が多いのは、ジョン本人の好みだと思っていたのですが、どうやらポールが先導していったものだったようですね。

 

 ただし、長編ドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』 を観た感じでは、ポールだけを悪人にするのはどうか?とも僕は思いました。ポールが巧みに誘導したという感じじゃなく、それぞれのパーソナリティやエゴの微妙な兼ね合いがある中で、ポールが”仕切り役”をやらざるを得なかったという面もかなりあったと感じ取れたからです。

 

 さて、ジョンはこの曲をビートルズのシングルにしたかったようですが、そうはならず、世界自然保護基金のチャリティ・アルバム『ノー・ワンズ・ゴナ・チェンジ・アワ・ワールド』に収録されることになります。

 

 最初に披露されたこの曲には鳥のS.Eが入っていました。

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 そして、アルバム「レット・イット・ビー」のプロデューサーのフィル・スペクターがこの曲を引っ張り出してきてオーバーダビングして収録したのです。その際彼は、テープの回転速度が下げています。世の中によく知られている「レット・イット・ビー」のヴァージョンはキーが半音低いんですね。

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 この曲の出来上がりに不満だった彼は、1975年にデヴィッド・ボウイがアルバム「ヤング・アメリカン」でカバーする際には、ギターとバックコーラスで参加していました。

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 ジョン本人は不満でもビートルズのヴァージョンが定着していたせいでしょうか、このカバーの評判は良くなかったそうです。

 

 そして、ジョンの死後18年経って、この曲の優れたカバーとして認められたのがフィオナ・アップル

 彼女のカバーは映画「カラー・オブ・ハート(Pleasantville)」のために録音されたものでした。

 個人的な感想としては、ビートルズのはちょっと加工しすぎ、ボウイはちょっと生々しすぎ、で彼女のヴァージョンはそのちょうどいいんじゃないかと思います。

 

 フィオナ・アップルはニューヨーク出身のシンガーソングライター。

 1996年のデビュー以来25年で5枚しかアルバムを発表していませんが、全て大ヒットしその内容も高く評価されています。

 

 彼女のデビュー曲「シャドウ・ボクサー」

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 この時彼女はまだ18歳ですから驚くしかありません。

 実は、僕は彼女のデビュー・アルバム「TIDAL」の日本のレコード会社の担当A&Rでした。「シャドウ・ボクサー」のMVを見て、すかさず担当をやりたいと挙手しました。

 アルバムがまた素晴らしく、この良さをなんとか表現したいと、アルバムの帯に

「人生の辛苦を知りつくしたようなジャズ・シンガーのようでもあり、少女のあやうさや残酷さを持った詩人のようでもある。

 フィオナ・アップル

 生涯に一度、出会えるかどうかの衝撃的なアーティストだ」

 なんて文を書きましたが、”本物の才能”に対しては、どんな言葉を繰り出してみてもまさに「アクロス・ザ・ユニバース」のように”上滑りしていくだけ”という、ふがいなさを感じるばかりでした。

   

 それでも当時の僕はこのアルバムに思い入れが強くて、彼女の「Sullen Girl」という曲に、当時僕が好きだったフランスの作家セリーヌの代表作「夜の果てへの旅」からとった、「夜の果ての少女」なんて邦題をつけていました。全体は絶望的なトーンなのに、そこから人間の純粋さがにじんでくるせいで、不思議な救済感を感じる、そんな共通点を感じたのかもしれません。

 

 せっかくなので、「TIDAL」からもう1曲。彼女が15歳の時に書いて、デビューのきっかけになったという「Never Is a Promise」を。ジョニ・ミッチェルの「ブルー」が彼女はきっと好きだったんだろうな、と思います。

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  最後に「アクロス・ザ・ユニバース」のカバーをもう一つ。

 YouTubeを見ると、ビートルズっぽいビーディー・アイのカバーや、ボノやスティーヴィー・ワンダーなどすごい人たちがチャリティのステージで歌っているものなどありましたが、個人的にはこれがよかったです。

 宇多田ヒカルのライヴ。歌詞が素晴らしい曲なので、結局はシンプルがいいのかもしれないですね。

 

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