まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「世界は愛を求めている(What the World Needs Now Is Love)」ジャッキー・デシャノン(1965)

 おはようございます。

 2日にわたってジャッキー・デシャノンの書いた曲を紹介してきましたが、今日はシンガーとしての彼女の代表作です。バート・バカラックとハル・デヴィッドの作品です。


Jackie DeShannon - What The World Needs Now Is Love

 

 世界にいま必要なものは愛、 甘く優しい愛

 あまりに少なくて たったひとつのもの

 いま世界が求めているのは愛、甘く優しい愛

 ただ誰かのためだけじゃなく みんなのために

 

 神様 もう山は必要ありません

 登りきれないほどの山や丘があるからです

 渡りきれないほどの海や川も

 人生の時間を最後まで使っても足りないほどの 

 

 世界にいま必要なものは愛、 甘く優しい愛

 あまりに少なくて たったひとつのもの

 いま世界が求めているのは愛、甘く優しい愛

 ただ誰かのためだけじゃなく みんなのために

 

 神様、もう牧草地は必要ないのです

 トウモロコシ畑も小麦畑も十分にあるのですから

 陽の光も月の光も十分に届いています

 どうかお聞きください、神様、もしお知りになりたいのなら

 

 世界にいま必要なものは愛、 甘く優しい愛

 あまりに少なくて たったひとつのもの

 いま世界が求めているのは愛、甘く優しい愛

 ただ誰かのためだけじゃなく みんなのために”  (拙訳)

 

 この曲はハル・デヴィッドが先に詞を書いた”詞先”の曲なのだそうです(デヴィッドとバカラックの曲作りは詞先、曲先、二人で同時に考える、という3パターンあったそうです)。

    当時デヴィッドはニューヨーク郊外のロスリンと言うところに住んでいて、毎日マンハッタンのブリルビルディングに車で通ってバカラックと曲作りをしていました。家では子供達がバンドの練習をやっていていつもうるさくて仕事ができず、車の中でいつも歌詞のアイディアを考えていたそうです。

 そしてある時、この曲のサビの歌詞をふと思いつきます。

 ”What the world needs now is love, sweet love
 It's the only thing that there's just too little of”

 

 しかし、ヴァース(Aメロ)の歌詞で彼は苦労することになります。

 最初思いついたのは、”私たちにこれ以上早く飛べる飛行機はいりません、もっと深く潜れる潜水艦はいりません”というものでしたが、しっくりせず、その後も何度もトライしますが思い浮かばなかったのでついにあきらめて、2,3ヶ月放っておいたのだそうです。

  そして、再度トライした時に彼は気づきます。”愛”と比較できるものを書かなくてはいけないし、今まで自分が考えていたのは歌の主人公が話しかけている相手(神様)と関係のないものばかりだった(飛行機とか潜水艦とか)、と。

 そして、もう必要のないもの、すでに神様から与えられている”自然”を書くことを思いつき、山や海、トウモロコシ畑などを歌詞に反映させていきました。

 たくさんの名曲の歌詞を書いた彼ですが、一番時間がかかったのがこの曲だったと語っています。

 

 そして、そこにバカラックが素晴らしいメロディをつけました。自伝で彼はサビの歌詞とメロディは2年前にできていたと語っています。デヴィッドのコメントでは時間軸が確認できなかったのですが、とにかくAメロの歌詞で大変苦労したのは間違いないようです。

 

 この当時はベトナム戦争が激化してきたタイミングで、デヴィッドもそれがこの歌詞を書いた動機ではないかと推測されるのですが、バカラックの方は”政治的な心情に折り合いがついていなかった”そうで、この曲の歌詞が”説教くさくないか?”と思っていたそうです。

 そして、彼らの作品を象徴するシンガーであるディオンヌ・ワーウィックに最初に聴かせたところ、彼女は”決して私のお気に入りとは言えないわ”と言ったらしく、バカラックはやはり彼女は説教くさく感じたのではないかと語っています。

 その後、ジーン・ピットニーやティミ・ユーロといったシンガーにも断られ、この曲は”引き出しにしまわれた”状態になりました。

 

 そのあと、彼らはジャッキー・デシャノンと一緒に仕事をやることになり、彼女に自分たちのデモを聴かせる時にデイヴィッドが「世界は愛を求めている」を聴かせようと強くいってきたのだそうです。

 バカラックはそのアイディアには懐疑的だったらしいのですが、この曲を聞いたジャッキーが一目惚れならぬ”ひと聴き惚れ”したそうです。そして、ジャッキーがこの曲を歌うのを聴いたバカラックは、まるで彼女のために書いた曲に聞こえると思ったというほど興奮して”ニューヨークに行くぞ、ニューヨークでレコーディングするぞ”と叫んだのだそうです。

 そして曲はバカラックがアレンジし、ディオンヌのいとこでホイットニーの母、シシー・ヒューストンがコーラスを務めているそうです。

 そして、この曲は全米7位とジャッキー初のトップ10ヒットになります。

    これに怒ったのはディオンヌ・ワーウィック。すぐさま翌年この曲を取り上げています。(全米最高87位でした、、)

 

 

 さて、僕がこの曲の歌詞で印象的に思うのは、

 ”What the world needs now is love, sweet love”の”sweet love"という言葉です。

 

 神様に向かって願う歌詞ですから、確かに教会っぽい、説教っぽい解釈は当然だと思うのですが、loveに続けてsweet loveというを付け加えていることによって、loveとい

う人類愛、博愛、友愛といった高尚なものだけじゃなく、普通の女性が憧れるような”優しく愛し合うこと”というニュアンスが加わるように僕は感じるんです。そういう繊細な配慮ができるのがハル・デヴィッドなのだと思いますし。

 ただ、このsweetという言葉の和訳は難しくて、僕のボキャブラリーではうまく落とし込めませんでした、、。”甘い”だと、男女のムーディーな感じがして”世界に必要なもの”と言う主題と合わないと判断されたのでしょう、甘い愛と訳されている方はいないようです。強いて言えば、やさしい、がいいのでしょう。

 でも、僕のイメージでは、主人公の女性のイメージの中には”甘い”も決してなくはないんじゃないか?と思うのです。若い女性なんですから。

 それで”sweet"一語に”甘く優しい”とダブルにするヘボな結果になってしまいました、、、。

 

 

  さて、この曲もたくさんカバーを生んでいますが、中でも異色なのはラジオDJのトム・クレイの1971年の作品。リンカーンマーティン・ルーサー・キングジョン・F・ケネディのことを歌った「アブラハム・マーティン&ジョン」というディオンの曲と「世界は愛を求めている」を交互につなげ、そこにスピーチやニュース音声、ナレーションなどをコラージュしていったもので、あきらかにベトナム戦争への反対の声明となる作品で、全米8位でミリオンセラーになっています。


Tom Clay..What The World Needs Now (Abraham,Martin and John)

 

   ディオンヌ・ワーウォックはその後もこの曲を再演していて、昨年リリースされた最新作「She's Back」でも。この歌は”私のお気に入りじゃないわ”なんてもう思ってないでしょうね。


Dionne Warwick - What The World Needs Now

 そして、今回のコロナ・ウィルスに対する世界的な動きの中で、やはりこの曲も大きくクローズアップされているようです。

 リモートでの共演映像は数多くアップされています。


What the World Needs Now - for Virtual Orchestra

 

 

 

世界は愛を求めている(紙ジャケット仕様)
 

 

シーズ・バック

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