まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「小さな願い(I Say a Little Prayer)」ディオンヌ・ワーウィック(1967)

 おはようございます。

今日はディオンヌ・ワーウィックの「小さな願い」。愛する人のことを思って、日常の何気ないタイミングで小さく祈る、という歌で、バート・バカラックとハル・デヴィッドの作品です。


Dionne Warwick I Say A Little Prayer 1967 Original Million Seller

 

  ”朝目覚めたとき お化粧する前に

    あなたのためにそっと祈るの

      髪をとかしながら どのドレスを着ようかと考えている時も

      あなたのために小さく祈るの

 

 *いつまでも いつまでも あなたが私の心にいますように 

 そしてずっと愛し続けます、と

 いつまでも 決して離れない 愛し続けるの

 一緒に 一緒に  そうじゃなくちゃダメ

 あなたなしで生きるなんて この胸が張り裂けてしまうだけ

 

 バスに向かって走っているときも

 バスの中で二人のことを考えている時も

 あなたのために小さく祈るの

 仕事の手を止めて コーヒー・ブレイクする時もずっと 

 あなたのためにそっと祈るの

 

 *繰り返し

 
 愛しい人 私を信じて

 私にはあなたしかいないの

 私のことも愛して 愛しているから

 この祈りにこたえて そして、愛してるって言って

 どうしてこたえてくれないの

 毎日あなたのために祈っているのよ ”      (拙訳)

 

 

 ディオンヌはバカラックドリフターズに「メキシカン・ディヴォース」という曲を書いた時に、そのバックアップ・シンガーの一人として出会っています。

 彼女と妹のディーディー、おばのシシー・ヒューストン(ホイットニーのお母さん)、いとこのマーナ・スミスの4人だったそうですが、それぞれ実力は甲乙つけがたかったそうですが、ディオンヌには特別な気品と優雅さがあって、スターになれる存在だとバカラック思ったそうです。

 その後、ディオンヌのほうから一緒にデモを作りたいと連絡をして、彼らは一緒に仕事をするようになります。

 そして最初のシングルが「ドント・メイク・ミー・オーヴァー」です。


Don't Make Me Over

 8分の12拍子から8分の6拍子に移ったり、1オクターヴと6度の音域があるこの曲を彼女は何の苦もなく歌ったそうです。また彼女は音楽大学で音楽教育とピアノを学んでいて譜面にも強く、そういうシンガーは当時珍しかったようでバカラックにとって非常にやりやすかったようです。

 「ディオンヌは高い音も低い音も歌えた。力強く、朗々と歌うこともできれば、そっと、優しく歌うこともできた。音楽的な関係が深化していくにつれて、わたしは彼女のポテンシャルを知り、より多くの挑戦や冒険が可能になることに気づいた。彼女の声は、ボトルの中の船が持つ繊細さ神秘性をすべて兼ね備えたものだった。」

          (「バート・バカラック自伝 ザ・ルック・オブ・ラヴ」)

 

 彼女はバカラックの曲をメインにリリースを続けこの「小さな願い」は19枚目のシングルにして、初のミリオンセラー(全米4位)になりました。

 

 そして、その翌年この曲をカバーしてヒットさせたのがアレサ・フランクリンです。

   アレサがディオンヌの、そしてバカラックの曲をカバーするのは2回目で、以前には「Walk On By」という曲をやっています。


Dionne Warwick - Walk On By


Aretha Franklin- Walk On By (Dionne Warwick)

   昨日のブログで書きましたが、

popups.hatenablog.com

 この頃のアレサはコロンビア・レコード時代の”覚醒前”のものなので歌も保守的にまとめられています。ディオンヌのオリジナルに準じた仕上がりですね。

 

 しかし、今回の「小さな願い」はアトランティック・レコード移籍後の”覚醒した”アレサです。完全に自分のスタイルでやっています。


Aretha Franklin - I say a little prayer

 ディオンヌとの大きな違いは、まず、コーラスとの掛け合いで構成していることでしょう。コーラスを担当しているのは女性コーラス隊、スウィート・インスピレーションズ。

 実は彼女たちは、バカラックドリフターズの曲のコーラスをやった、ディオンヌもいたバックアップ・シンガーの集まりだったのです。この頃には当然ディオンヌ、そして妹のディーディーもやめてしまっていましたが、シシー・ヒューストンとマーナ・スミスは残っていました。

 ディオンヌのかつての同僚たちが、アレサのヴァージョンで大きくフィーチャーされているわけですから、ディオンヌの胸の内も穏やかではなかったかもしれません。

 

 アレサとスウィート・インスピレーションの掛け合いから感じるのは”ゴスペル感”です。

 アレサは牧師の父親とゴスペルシンガーの母親の間に生まれ、幼いころからゴスペルを歌い続けることで鍛えられたシンガーです。その強みが効果的に演出されているんですね。

  

 しかも、”Prayer”という神への”お祈り”を指す言葉を、男女間の”願い事”として使っているのが面白みでもあるので、アレサは意図的にゴスペル感を出したのでしょう。

 

  それに対してディオンヌのヴァージョンは、あくまでもラヴ・ソングとして完結している感じがします。

 髪をとかしながら、とかコーヒーを飲みながら、しているんですから、”祈り”というより”願い”に近いですよね。手を合わせたりしているわけじゃないですし。

 日本語のタイトルも「小さな祈り」じゃなく「小さな願い」としたのは正解だと僕は思います。ただ、日本語だと”念じている”が一番近い気もしますが(苦笑。

 最後にディオンヌがアドリブ的に歌うフレーズ

"Why don't you answer my prayer?  You know, every day I say a little prayer"

 (どうして私の祈りにこたえてくれないの 毎日あなたのために祈っているのよ)

 も女性の切ない心情が出ています。

 

 しかし、アレサはこのくだりはカットしていて、それも二人のヴァージョンの違いを鮮明にするポイントだと思います。

 

 いろいろ総合した結果、ディオンヌが”切なく願っている”のに対して、アレサは”けっこう強く祈っている”気がするんですよね。

 

 そう考えると、ディオンヌは「小さな願い」、でもアレサのヴァージョンは「小さな祈り」かなあ、とも思います。あくまでも僕の私見ですが、、。

 

 ポップ・ミュージック史上でも双璧と呼べる女性シンガーが同じ曲を同じ時期にヒットさせ、それを聴き比べできるのは貴重なことだと思います。

 ただし、様々な音楽誌で史上最高のシンガー・ランキングで1位、最低でもベスト3には入っているアレサに比べると、ディオンヌの評価はずいぶん低いようです。

 アレサのようにゴスペル、R&B、ブルースと黒人音楽のルーツがはっきり見えるわけでもなく、圧倒的なパワーがあるわけでもないので仕方がないこととは思いますが、バカラック作品のようなとてもハードルの高い曲を難なくさらっと、しかも気品を持って歌える彼女の技能というのは実に稀有なものです。

 実際、彼女のようなスタイルのシンガーは他に誰も思い浮かびません。かえって、シナトラやナット・キング・コールの上手さに近いようにも僕には思えます。

  

 

 さて、最後に、この二人がこの歌を共演しているという貴重な映像を紹介します。

ディオンヌが2歳年上らしいですが、なんなんでしょうこの静かなのに半端ない緊張感は、、、、

 


SOLID GOLD | Dionne Warwick and Aretha Franklin sing "I Say A Little Prayer" | 1981

 

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