おはようございます。
今日はパンチの「旅する少年(Traveling Boy)」です。
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Wake up my love beneath a midday sun
Alone once more alone
This traveling boy was only passing through
But he will always think of you
One night of love beside a strange young smile
As warm as I have known
A traveling boy and only passing through
But one who'll always think of you
Take my place out on the road again
I must do what I must do
Yes I know we were lovers
But a drifter discovers
That a perfect love won't always last forever
Well I won't say that I'll be back again
But time will tell the tale
So no good-byes from one just passing through
But one who'll always think of you
This traveling boy was only passing through
But I will always think of you
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君は目を覚ますのだろう 太陽が高く昇った頃に
僕はひとり またひとりぼっち
この旅する男はただ通り過ぎるだけ
だけど、いつだって君のことを想っている
一晩だけの愛 僕の傍らの
見知らぬ若い笑顔の
馴染みのあるあたたかさ
旅する男で、ただの通りすがり
だけど、いつだって君のことを想っている
また放浪の日々に戻るのさ
僕はやるべきことをやるなくちゃいけない
そうさ、僕らは恋人同士だった
だけど、放浪者にはわかるんだ
完璧な愛がいつも永遠に続くわけじゃないと
また帰ってくるとは言わない
だけど、時がたてばわかるだろう
だから、さよならは言えない、ただの通りすがりには
だけど、いつだって君のことを想っている
この旅する男はただ通り過ぎるだけ
だけど、いつだって君のことを想っている
(拙訳)
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僕は、この曲を作曲したロジャー・ニコルズや、バート・バカラックとかジミー・ウェッブとか素晴らしいメロディを書く人が好きで、洋楽邦楽問わず、メロディやアレンジばかりに耳がいって、ほとんど歌詞を聞かない人間なんですけど(笑)、このブログで下手くそなりにせっせと和訳し続けていると、バカラックとコンビのハル・デヴィッドやロジャー・ニコルズと組んでいたポール・ウィリアムスとか、本当にいい歌詞書くなあ、と今頃になって気づかされています。
キャロル・キングと組んでいたジェリー・ゴフィンも、バリー・マンのパートナー、シンシア・ワイルとか、ポップス史に残るような大作曲家のパートナーの作詞家はやっぱりみんなすごいですね。
さて、この「旅する少年」は歌詞を書いたポール・ウィリアムス本人が1972年に発表したヴァージョンを僕は昔から聴いていました。
でも、広く知られているのはシングルにもなって「青春の旅路」という邦題がつけられたアート・ガーファンクルのカバーかもしれません。
1974年に全米最高102位と、セールスとしては振るわなかったようです。
調べてみるとこの曲を最初に歌ったのは「パンチ(Punch)」というグループだということがわかったので、聴いてみると思いのほかよかったので、今回はそれをメインに取り上げることにしました。
パンチはチャーリー・メリアムを中心とした男性2人女性2人のグループで、フィフス・ディメンションなどを手掛けたボーンズ・ハウがプロデュースし、A&Mレーベルから1971年に一枚だけアルバムをリリースしていて、ビートルズの「ブラックバード」や「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」、エルトン・ジョンが取り上げたレズリー・ダンカンの「ラブ・ソング」などと一緒にこの「旅する少年」も収録されていました。
また、ハル・ブレイン、ジョー・オズボーン、ラリー・ネクテルといった米西海岸のスーパー・ミュージシャン集団”レッキング・クルー”が演奏しています。
全く売れずに消えてしまったグループのようですが、何年か前に日本だけでCD化されたようで、今はサブスクでこのアルバムを聴くことができます。
ちなみに、中心メンバーのチャーリー・メリアムのその後の活動を追ってみると、なんと、ピンク・レディのシングル「マンデー・モナリザ・クラブ」の編曲なんて仕事をやっていました。
さて、この「旅する少年」に話を戻すと、この”boy”は文字通りの”少年”じゃないですよね。各地を放浪しながら、一夜限りの関係を結んだりしているわけですから。
ただ、若い時から見果てぬ夢を追いかけて放浪し続け、いまだ何も手にしていない男というのは、いつまでたっても"boy”ということなんでしょう。
この歌詞を訳しながら、思い出したのが1968年に同じロジャー・ニコルズとポール・ウィリアムスが作った「ドリフター」という曲です。
ニコルズ自身のグループ、”ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ”やハーパーズ・ビザールなどが取り上げていました。
"だって、まだ行ったことのない場所がある
夕日の中に思いっきり飛び込んで行きたい
たくさんのことはできないとしても
さまよいたい気持ちには勝てないんだ
僕の中には漂流者がいるから ”
まだ見ぬ何かを求めて世界中を放浪しようと決めたこの歌の主人公の3年後が、「旅する少年」なんじゃないかと、思えてきたのです。
「旅する少年」で主人公は自身のことを”a drifter”と称していますし。
他にウィリアムスには1971年に「Waking Up Alone」という曲歌っていて、流浪するのをやめてこれは故郷に帰ろうかな、と夢想する主人公が、でもひょっとしたらまたひとりぼっちで目覚めるかもしれない、と思うという歌で、これも同じ主人公のように思えます。
彼が今まで書いた歌詞をひとつひとつじっくり調べてみると「ドリフター」〜「旅する少年」と共通する主人公の"連作シリーズ"があるのかもしれません。
さて、ニコルズもウィリアムスもこの曲を大変に気に入っているそうですが、意外にカバーは多くありません。
しかし、わりと最近僕が耳にしたカバーは、どちらも素敵でしたのでご紹介させてください。
まずはイギリスの女性シンガーソングライター、ルーマー(Rumer)。キャロル・キングやカーペンターズのポップスに通じるような空気感が魅力です。2012年にリリースされたアルバム「Boy's Don't Cry」に収録されていたカバー。
そして、昨日このブログに登場したフランク・ウェーバー、2019年リリースのアルバム「True Love」の冒頭を飾っていたヴァージョン。ボサノヴァでアレンジしたところが、また素晴らしいです。
アルバムのライナーで彼はこの曲について、こう語っています。
「感情を呼び起こす歌詞と、メロディ、心に訴えるコード進行が、すぐさま僕に影響を与えた。長年に渡って、この曲は僕のソングライティングのプロセスに、しばしば無意識に影響を与えてきたことに気づいたよ」