まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「時よ」山下達郎(1978)

 おはようございます。

 今日は、ドラマーの村上秀一さんが亡くなったということで彼の演奏した曲の中から選びました。山下達郎のライヴ・アルバム「イッツ・ア・ポッピン・タイム」から、吉田美奈子の作品「時よ」です。


山下 達郎 - 時よ (1978)

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 「イッツ・ア・ポッピン・タイム」は1978年に六本木ピット・インで行われたライヴです。同じビルにあるCBSソニーのスタジオと回線がつながっていて、いつでもライブ・レコーディングが可能だったことが、選ばれた理由の一つでした。

 メンバーは

 村上”PONTA"秀一(ドラムス)、岡沢章(ベース)、松木恒秀(E.ギター)、坂本龍一(キーボード)土岐英史(サックス)、そしてコーラスが伊集加代子、尾形道子、そして「時よ」の作者吉田美奈子、という素晴らしい布陣でした。

 

 「時よ」は経緯はわかりませんが、吉田が作った曲を本人がレコーディングするより先に山下達郎がライヴでとりあげ、これが最初に世に出た録音物となったのです。他のアーティストがライヴ盤で歌ったものがオリジナルというのはかなりレアなケースじゃないでしょうか。

 

 吉田美奈子は達郎のファースト「サーカス・タウン」から彼の多くの作詞を委ねられていましたので、新しく書いた曲を聴かせ合う、ということもあったんじゃないかと思います。

 

 そして、吉田本人も同年のアルバム『LET'S DO IT -愛は思うまま-』でこの曲をやっています。

www.youtube.com

 LAレコーディングのアルバムですが、日本でしっかりヘッド・アレンジしたものを向こうに送ってから作ったそうで、出来上がったものを聴いた村上秀一は”なんだ、デモ・テープに弦とホーンが入ってるだけじゃない!と言ったそうです。

      (参考「レコード・コレクターズ増刊 日本のロック/ポップス)

 

 そして興味深い音源がアップされていました。吉田美奈子の1980年の六本木ピット・インでのライヴ。正確ではないですが、ネットによるとメンバーは達郎と同じ、岡沢章(ベース)、松木恒秀(E.ギター)が参加、他は渡嘉敷祐一(ドラムス)、冨樫春生(キーボード)、清水靖晃(サックス)と、こちらも豪華な布陣。


Minako Yoshida (吉田美奈子) - 時よ (Live At The Roppongi Pit Inn 1980)

 ここからは妄想タイムです(笑)。

 吉田美奈子の歌う「時よ」から僕が最初に思い浮かべるのはローラ・ニーロです。

彼女がデビュー時に”和製ローラ・ニーロ”という呼ばれ方をしたことがあったと何かで読んだことがありますが、特にこの曲からは彼女の中でも特にR&B色の強い(フィラデルフィア・ソウルのギャンブル&ハフがプロデュース、アレンジにトム・ベルも参加)アルバム「ゴナ・テイク・ア・ミラクル」、具体的には例えば「The Bells」。 


Laura Nyro & Labelle "The Bells"

 しかし、こういう曲調は、吉田美奈子のその前のアルバム「Twilight Zone」に入っている「メロディー」という曲ですでに披露されています。こちらのほうがよりローラに近い感じがします。

 「時よ」は「メロディー」の発展形のような気がしますが、そこに新たな要素が加わっている気がします。

 この曲の主題といっていいサビのメロディーの情感は、僕にはスタイリスティックスの「誓い」(トム・ベルのプロデュース)のサビの情感に、近いように思えます。


The Stylistics - You Make Me Feel Brand New (Official Lyric Video)

   そして許されない恋人との密会、というテーマと共鳴するのは意外にもこの曲なのかもなどと、妄想はどんどん膨らんでいきます。こちらもギャンブル&ハフ作品。


Billy Paul - Me and Mrs. Jones (Official Audio)

 こういったフィラデルフィア・ソウルっぽさを取り入れた曲だからこそ、彼女は達郎氏に聴かせ、彼が先にとりあげることにも同意したんじゃないでしょうか。そして、達郎氏もまた、この曲のフィラデルフィア・ソウル感、スウィート・ソウル・グループ感を、自分で表現したいと思ったのかもしれません(ご当人たちからは一笑されて否定されそうですが、、)。

 彼らのヴァージョンの最もわかりやすい違いは

 サビの1回目の「時が、戻せたならば」の「戻せたならば」の節回し、メロディ、リズムの切り方でしょう。

 達郎氏のほうがR&Bヴォーカルらしさが強く出ているような気がします。彼女の方は、「時が戻せたならば」という言葉のニュアンスを重んじている感じがします。

乱暴に言ってしまうと達郎氏は「誓い」感が強く、美奈子氏はローラ・ニーロ感がやはり強い。

 のちに達郎氏は自身のヴァージョンを「今聞くと解釈がちょっとひかえめ」とライナー・ノーツで書いています。”ひかえめ”だったからこそ、スウィート・コーラス・グループっぽさを僕は感じたのかもしれません。

 

 美奈子氏はアルバム・ヴァージョンはちょっとさらっとやりすぎたと思ったのかもしれません、ピット・インのライヴ音源は、やり足りなかった思いをぶつけている感じがします。

 YouTubeには彼女の他のライヴ・ヴァージョンもいくつかあって、セリフを間に挟んで、より”ドラマ”を演出しているものもありますので、興味がある方は是非。

 

 最後は僕のブログの読者の方から教えてもらった、久保田利伸吉田美奈子のデュエットを(山下達郎吉田美奈子のヴァージョンの比較という今日のお題もいただきました)。両者ともに絶品。この歌は男女のデュエットが実は一番合っていたかもしれませんね。

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