この曲は彼の三枚目のオリジナル・アルバム「GO AHEAD」(1978)に収録されていた曲です。僕はシングル「愛を描いて –LET'S KISS THE SUN-」のB面の曲として知りました。
この当時の彼はレコードが全く売れず、アーティスト活動が行き詰まっていたようで、アルバム「GO AHEAD」の自筆ライナー・ノーツにはこういうことが書かれています。
「…私自身は、たぶんこのアルバムが最後だろうという悲観的な予測をしていました。
精神的にボルテージが下がっている状態で曲作りもままならず、どうせ最後だからやりたいことをやって終わりにしようと書き下ろした数曲は、それまでのものよりずっと作家性の強い作品で、それは、この先作曲家で生きていこうという意志の表れでもありました。」
その”どうせ最後だからやりたいことをやって終わりにしようと書き下ろした数曲”のひとつにこの「潮騒」もあったのだろうと思います。
同じライナー・ノーツには、こうあります。
「もともとこの曲を作った同期は、トッド・ラングレンのようなコード・プログレッションで1曲やってみたかった、という安易な発想でした」
さすがに、トッド・ラングレン何か1曲のコード進行をそのままなぞったりはしていませんが、曲の空気感が少し近いと僕が感じたのはこの曲です。
Todd Rundgren - It Wouldn't Have Made Any Difference (Lyrics Below) (HQ)
「潮騒」の10年後、1988年のインタビューで山下達郎はこう語っています。
「変な言い方するけど、トッド・ラングレンみたいな人とすごく共通項感じるんですよね」 (「ROCKIN'ON JAPAN FILE」)
これは、当時彼の音楽制作が”一人でやる”方向にどんどん向かっているのではないかという問いかけに対しての返答だったわけですが、彼にとってトッド・ラングレンは自分とスタンスの近い”同胞意識”を感じるアーティストでもあったようです。
トッドもまた、ビーチ・ボーイズの緻密なカバー(「Good Vibration」)をやったり、アカペラをやったりしていますが、何より”ポップな”音楽はやっていても、時流には一切おもねることなく”孤高”を貫いているところが共通しているのかもしれません。
しかし、アレンジとヴォーカル、そして吉田美奈子の歌詞の世界観もあってか、「潮騒」は最終的にはトッド・ラングレンとはそれほどは似ていないように思います。
ただ、「Go Ahead」のボーナス・トラックだったこの曲の英語ヴァージョンのほうを聴くと、少し近づいて聴こえるようにも思えます。
Shiosai by Tatsuro Yamashita (English)