まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「RAINY WALK」山下達郎(1979)

 おはようございます。

 今日は山下達郎。今はさすがにそうでもないですが、昔は”夏”のイメージが強いアーティストでしたね。でも、雨の歌にもいい曲があります。「雨は手のひらにいっぱい」や「2000トンの雨」とか「Rainy Day」とか。

 

 今日セレクトした「RAINY WALK」は、静かな雨が降る明け方、まだ人気のない街を一人歩く、そんな情景をサウンドとして見事に表現したものです。

 

 聴き直したのは久しぶりだったんですが、何故かすうっとリラックスした気分になりました。メロディ、サウンド、ボーカル・ワークに歌詞が自然に溶け合っています。しかも、歌詞は情景描写とイマジネーションだけで構成されています。心情や思いは一切ない。これが、すごく新鮮でした。

 この歌詞を書いた吉田美奈子は、確か当時、色彩やサウンドをいかに言葉で表現するかにこだわっている、そんなことをインタビューで語っていたと思います。

 それを考えると、今の音楽がどれだけ「自分語り」で満ちているか思い知らされます。「自分語り」の歌は、共感や感情移入はできても、決してリラックスさせてはくれないと僕は思います。 

 SNSをはじめとして、僕たちは24時間年がら年中「自分語りモード」になっているのかもしれません。今の歌がほとんど「自分語り」なのも、時流なんでしょう。でも、リラックスというのは「自分が、自分が」というモードから”心の視線”がいったん離れて客観的になれるときに初めて訪れるものだと思います。

 僕が、久しぶりに「RAINY WALK」を聴いてリラックスできたのも、普段の僕がかなりの「自分語りモード」になっていたからに違いありません。

 この曲を初めて聴いた十代の頃は、はっきり言って、歌詞はサウンドと一緒に”心地よく”聴き流してしまっていました。でも、その”心地よく”聴き流す行為が、実は、”自分が自分が”モードから自分自身を離れさせてくれて、それによって日常の様々なプレッシャーとの心の距離感を作ってくれる、そんな働きをしてくれていたことに僕はあらためて気づいたわけです。

 

 この曲はもともとアン・ルイス用に書いたストック曲だったそうですが、達郎本人が気に入ったため譲ってもらったと、アルバム「MOONGLOW」の自身によるライナーノーツに書かれています。

 それから、この曲のリズム隊は彼のレパートリーの中では珍しいのですが、当時YMOを結成していた細野晴臣高橋幸宏コンビなんですね。確かに、都会的な軽やかさと不思議な味わいのあるグルーヴはこの二人ならでは、という気がします。

 


Tatsuro Yamashita - Rainy Walk

 

MOONGLOW (ムーングロウ)

MOONGLOW (ムーングロウ)