まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「RAINY WALK」山下達郎(1979)

 おはようございます。

 今日は山下達郎

    今はさすがにそうでもないですが、昔は”夏”を象徴するアーティストの一人でしたね。スカッと晴れた夏空と海をイメージさせるような。でも、彼の雨の歌にもすごくいい曲があるんですよね。「雨は手のひらにいっぱい」や「2000トンの雨」とか「Rainy Day」とか「スプリンクラー」とか。

 

 今日セレクトした「RAINY WALK」は、静かな雨が降る明け方、まだ人気のない街を一人歩く、そんな情景をサウンドとして見事に表現したものです。

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 聴き直したのは久しぶりだったんですが、何故かすうっとリラックスした気分になりました。メロディ、サウンド、ボーカル・ワークに歌詞が自然に溶け合っています。しかも、歌詞は情景描写とイマジネーションだけで構成されています。心情や思いは一切ない。これが、すごく新鮮でした。

 

 この歌詞を書いた吉田美奈子は、確か当時、色彩やサウンドをいかに言葉で表現するかにこだわっている、そんなことをインタビューで語っていたと思います。

 

 「RAINY WALK」が発表された1979年はまさに、洋楽色の強い日本のポップスがどんどん生み出されお茶の間にまで浸透し始めた時代。原田真二ゴダイゴサザンオールスターズ、、当時中学生だった僕は、それまで主流だった叙情的なフォークソング、歌謡曲に比べ、明らかに”カッコいい”と感じて迷わず飛びつきました。

 

 あえて、感情をダイレクトに歌わない歌詞というのは、その当時の”洋楽的な”ポップスのソングライティングとしては、とても効果的なアプローチだったと思います。歌詞に強く主観や主義主張が反映されると、”サウンド”に没頭しづらくなりますから。

 

 それを考えると、この時代から40年ほどたった今の音楽がどれだけ「自分語り」で満ちているか思い知らされます。「自分語り」の歌は、共感や感情移入はできても、決してリラックスさせてはくれないと僕は感じます。 きっと音楽にリラックスする効果などなど求めてられていないのかもしれませんが。

 

 SNSをはじめとして、僕たちは24時間年がら年中「自分語りモード」になっているのかもしれません。今の歌がほとんど「自分語り」なのも、時流なんでしょう。でも、リラックスというのは「自分が、自分が」というモードから”心の視線”がいったん離れて客観的になれるときに初めて訪れるものだと思います。

 僕が、久しぶりに「RAINY WALK」を聴いてリラックスできたのも、普段の僕自身がSNSなどで、かなり「自分語りモード」になっていたからに違いありません。

 

 この曲を初めて聴いた十代の頃は、はっきり言って、歌詞はサウンドと一緒に”心地よく”聴き流してしまっていました。でも、その”心地よく”聴き流す行為が、実は、”自分が自分が”モードから自分自身を離れさせてくれて、それによって日常の様々なプレッシャーとの心の距離感を作ってくれる、そんな働きをしてくれていたことに僕はあらためて気づいたわけです。

 

達郎のレパートリーでは異色な< 細野晴臣高橋幸宏>のリズム隊の、洗練されたグルーヴが最高!

 

 この曲はもともと彼がプロデュースしたアン・ルイスのアルバム用に書いたストック曲だったそうですが、達郎本人が気に入ったため譲ってもらったと、この曲が収められたアルバム「MOONGLOW」の自身によるライナーノーツに書かれています。

 

 後に彼は自身のラジオ番組で、アウトテイクになったため”原盤を買い取った”と語っています。

 アン・ルイスの為にレコーディングされた演奏をそのまま使ったため、「MOONGLOW」の中でこの曲だけ演奏メンバーが違うということになったんですね。そのメンバーとはリズム隊が当時YMOを結成していた細野晴臣高橋幸宏コンビにパーカッションのPECKER、そしてギター松原正樹、エレピが佐藤博確かに、複雑であるのに都会的な軽やかさと不思議な余韻を感じさせる素晴らしいグルーヴは細野、高橋コンビならでは、という気がします。

 

 ちなみに彼がプロデュースしたアン・ルイスのアルバムは「ピンク・キャット」(1979)。後に彼がセルフカバーする「シャンプー」が収録されていることでも有名です。

 最後にそのアルバムから1曲。当時はまだ無名、しかし80年代半ばあたりから一気にアメリカNO.1のヒットメイカーになるダイアン・ウォーレンが書いた「Just Another Night」という曲を。


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