まいにちポップス

1日1ポップス。エピソード、謎解き、勝手な推理、などで紹介していきます

「頬に夜の灯」吉田美奈子(1982)

 おはようございます。

今日は吉田美奈子。僕の選ぶ日本のCITY POPの最高峰はこの曲です。


Minako Yoshida - 頬に夜の灯(Hoho Ni Yoru No Akari)

 日本のポップス史においてユーミン大貫妙子矢野顕子と並ぶ存在でありリスペクトされながらも、彼女は最も”玄人好み”の存在かもしれません。

 曲を書く秘訣に関して質問されたときに彼女はこう答えています。

「秘訣とかではなくて、自分のありのままに書くことしかできないと思っています。いまのポップスの様式はすべて海外のものをお借りしてできているわけですけど、その中で日本人である自分をどう出すべきかとは考えます。ただ、聴く人のことはあまり考えていなかったりするかも(笑)。」 

 (2012年 芸団協HP「PLAZA INTERVIEW」より)

 

 自分のありのままに書き、聴く人のことはあまり考えなかった、というのは正直な言葉でしょう。

 流行や売れ線を強く意識したような作品は彼女のディスコグラフィーには見当たりません。

 日本のR&Bのパイオニアでありながら、R&Bブームのときですら、シーンから距離をとったような作品を作っていました。何かのジャンルやシーンに一切入ってこなかったからこそ、かえって彼女の作品群は今もまったく劣化していない、とも言えます。

 もちろん、音楽ビジネスですから、彼女は自分のやりたいことをやりたいように作り続けられたわけではありません。

 例えば、全曲自作だった「扉の冬」の次の作品から数作は、プロデューサーの意向で”シンガー路線”を歩むことになり、レパートリーがカバーを中心になったことがありました。

 しかし彼女はこう語っています

「自分が犠牲になっているなんて気はなかった。やろうと思えばやれるから、やって見せた。それでわかったことを無駄にするような生き方はしない。何となくでも自分の持っているヴィジョンは守りたい・・・でも、自分で切り開いていかないと自分の場所を確保できない時代だったから・・・目先のことでも、余計なことと思われることでもやって自分の身にしていくっていうね」

           (レコードコレクターズ増刊 日本のロック/ポップス)

 

 彼女の作品は、サウンド的には変化はあるのに一貫したものを感じるのは、彼女のシンガーとしての力量も当然ですが、上に述べた彼女のスタンスが大きく働いていると思います。たとえやらされたものでもとにかく最善を尽くすから、聴き手に向かってくる力が変わらないのです。

 

 あと、彼女の多くの曲がそうですが、この「頬に夜の灯」も聴いた印象が昔から全く変わらない、古びることがない。CITY POPと呼ばれる多くの曲は僕には懐かしさを強く感じさせるのに、彼女の場合それがないんです。当時もその時代の流行に合わせたものを作ろうとしていなかったからかもしれません。ただただ自分の世界を高めていった。すごいことだと思います。

 

 この曲のサウンドについて少し書きます。

まず、ホーンにマイケル(テナー・サックス)とランディ(トランペット&フリューゲルホーン)の”ブレッカー・ブラザーズ”にアルト・サックスでデヴィッド・サンボーンが参加していることがまず注目されます。

 デヴィッドはブレッカー・ブラザーズの最初のアルバム2枚に参加しているオリジナル・メンバーで、この時期はすでに離れてしまっていたのですが、この曲で”リユニオン”していたわけですね。

 そして、この曲のストリングスとホーンのアレンジをしているのがレオン・ペンダーヴィス。彼はキーボーディストとしてボニー・レイットバーブラ・ストライサンドなどのアルバムに参加しています。この大ヒット曲にもキーボードとして参加していたようです。

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 あと、クラプトンの「オーガスト」(1986)というアルバムでホーンのアレンジをやっていて、そこにはブレッカー・ブラザーズも参加しています。


Run (1999 Remaster)

 レオンがバリバリの弦アレンジャーじゃなかったというストリングスの”控えめさ加減”が、結果的にこの曲には絶妙にハマったんじゃないかと僕は勝手に想像しています。

 あと、ホーンとストリングス以外に編曲のクレジットはないので、セッション・ミュージシャンと一緒にスタジオでアレンジを詰めていったのでしょうね。

 プロフェッショナルなミュージシャンの技量が発揮された作品はやはり抗いがたい魅力があります。しかもテクニックが全開になったものよりも、あるひとつのトーンのもとに結集されたようなほうは、味わいがあって、その風味が劣化することは少ないなと思います。

 

 

 

頬に夜の灯

頬に夜の灯