まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「DRESS DOWN」秋元薫(1986)

 おはようございます。

 今日は秋元薫の「DRESS DOWN」です。

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   ここのところ、日本のシティポップをとりあげていますが、どれも有名なアーティストばかりでしたので、この辺りで最近のブームの中で”発掘”されたアーティストも紹介させていただきます。

 (なんて言いつつ、僕もリアルタイムでは彼女のことはまったく知らなかったのですが、、)

 

 秋元薫は1983年にまだ彼女が大学生の時に松任谷由実のバック・コーラスに抜擢されて、プロの世界に入っています。

 同じ頃にユーミンのライヴのバンマスになっていた武部聡志に認められ、彼のバックアップでソロ・シンガーとしてデビューすることになり、1985年のデビュー・シングルに続いて1986年にリリースされたのが、この「DRESS DOWN」が収録されたアルバム「Cologne」で、今のところこれが彼女の唯一のアルバムになっています。

 

 武部と彼女が共同でプロデュース。作詞は全て彼女が出がけています。作曲は当時、作曲家として活動して間もなかった崎谷健次郎(「もう一度夜を止めて」)がメインで、当時のヒット請負人、来生たかおが2曲、吉田美奈子も1曲書いています。また、コーラスで同じ年にデビューしたばかりの久保田利伸も参加しています。

 

 シティポップ・ブームで火がついたこの「DRESS DOWN」を作曲したのは松本晃彦。後に「踊る大捜査線」の音楽で有名になりますが、この頃はユーミンEPOなどのツアーのキーボーディストをやり、作曲家として活動を始めたばかりでした。

 また、大学時代に松本と崎谷は”VISION"(ベーシストの有賀啓雄も在籍)というバンドを組んでいて、やはり同じバンドのメンバーだった大竹 徹夫がシンセサイザーのオペレーターとして参加しています。

 

 さて、このアルバムは昔から海外のコレクターから高価で売買されるレア・アイテムだったようですが、それに加えて、この「DRESS DOWN」が、「プラスティック・ラヴ」人気の火種となったヴェイパー・ウェイヴ〜フューチャー・ファンクのムーブメントで大人気になり(Spotifyでは800万再生)、2016年にCD化されています。

 

 さて、このアルバムにはもう1曲、シティポップ・シーンで人気の曲があります。ギタリストの鳥山雄司が作、編曲した「わがままなハイヒール」です。

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 武部、鳥山両氏ともに、この当時のアメリカの”打ち込みR&B”のサウンドを見事に再現していると思います。だからこそ、海外のリスナーにもアピールしているのではないのでしょうか。

 

 ただ、歌詞はの世界は、今聴くとすごくバブリーですし、打ち込みのサウンドもいかにも1980年代後半という感じもして、その頃まさに青春期を送った僕みたいな人間には少し気恥ずかしくなるものでもあります。

 

 しかし、ふと思ったのは、この頃をまったく知らない若い層にとっては、そういうところがかえって、全くリアリティのない、100%イマジネーションの世界で、そこがかえって興味深いのかもしれない、ということです。

 

 今のシティポップ・ブームは、1970年代のすべて楽器の演奏によるヒューマンな作品より、1980年代の打ち込みとミックスしたキラキラしたサウンドの方が人気がある、というのも、そういう現実離れしたファンタジーの度合いが強いということなのかもしれません。

 シティポップには欠かせないレトロなアニメーションとの親和性も、こういうサウンドの方がしっくりします。

 

 そして、いまの時代は、世相を反映して、人間のややダークで屈折した内面をつきつめて反映させた曲が多く作られている中で、人間の内面性に深入りしないというか、ノータッチという、正反対のベクトルを持つシティポップは、今の時代を生きる若者の内面にとってある種の解毒剤としても機能し始めているんじゃないか、なんて思ったりもします。

 とにかく、今のシティポップ再評価は、単なるレトロのムーヴメントとか、昔の日本の音楽は良かった、みたいな文脈で理解するのは間違っている、と僕は思います。

 

 

 さて、話を秋元薫に戻します。アルバム「Cologne」のセールスが芳しくなかったからでしょう。彼女のシンガーとしてのリリースは途絶えてしまいます。

 

 そして、1989年にカシオペアのリズム隊、櫻井哲夫(B)と神保彰(Dr)を中心として結成されたバンド”シャンバラ(SHAMBARA)”に、やはり昨今のシティ・ポップ・ブームで注目を集めている国分友里恵とともにボーカルとして参加しています。

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 こちらも、YouTubeを見てみるとコメントのほとんどが海外からのもので、シーンから注目されているのだと思います。

 しかし、このシャンバラも長く続かず、彼女はソロとして1991年にシングルを一枚リリース。それが現在のところ、彼女の最後の作品です。作詞作曲ともに彼女が出がけています。

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 彼女同様、シティポップ・ブームで再評価された女性シンガーの曲を2曲ほど紹介します。

 彼女と一緒にシャンバラに参加した国分友里恵の「Just a Joke」

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 こちらもたった一枚しかアルバムがをリリースしていないシンガー。間宮貴子「真夜中のジョーク」(1982年)。

 期せずして2曲とも”ジョーク”。そういえば、ジョークって言葉、使わなくなりましたね(笑。

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 追記:「DRESS DOWN」は日本でも少しずつ評判になり、冒頭のアニメのMVも新たに制作され、今のシティポップ・ブームを牽引している韓国のDJNight TempoによるMIXも作られています。(2022年4月13日)


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Cologne (+2)

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  • アーティスト:秋元薫
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