おはようございます。
今日はクリスマスの大定番「クリスマス・イヴ」を。
今月の朝日新聞で山下達郎本人がこの曲についてあらためて語っていました。
それによると、この曲はもともと、竹内まりやのアルバムにと1981年ごろに書いた曲で、使われなかったので自分でやることにしたそうです。竹内まりやのアルバムとは、タイミング的に「ポートレイト」だと思われます。
「バロック音楽に多い「クリシェ」のコード進行から、クリスマスというテーマが浮かび、間奏にはパッヘルベルの「カノン」を使うことを思いつきました。
僕は曲の色合いが見えてから詞を考えるタイプです。「雨は夜更け過ぎに…」のフレーズは、僕がデビューしたバンド「シュガー・ベイブ」(73~76年)時代に作った未発表曲の歌い出しがふいに頭に浮かんで、それを使うことにしました。僕はペシミスティック(悲観的)な詞が好きなので、失恋とクリスマスを合体させる形で、歌詞は短時間で書けてしまいました」
(朝日新聞)
間奏のパッヘルベルの「カノン」について、彼のベストアルバム「トレジャーズ」の解説ではこうあります。
「スウィングル・シンガーズのスタイルを一人アカペラでやろうというのですから、難しいなんてもんじゃありません。あそこの8小節で半日費やしました」
ちなみに、スウィングル・シンガーズとは、アメリカ生まれのウォード・スイングルが1963年にバッハの鍵盤音楽を歌うために、パリのセッション・シンガーたちを集めて結成したボーカル・グループ。メンバーを変えながら現在もロンドンを拠点に活動を続けています。
Swingle Singers - Canon in D - Johann Pachelbel
エンディングの”ぱ〜ぱぱぱ〜”というコーラスワークについては
「エンディングのコーラスは一転してアソシエーション風のアプローチですが、これは当時一世を風靡していたオフコースへの対抗意識から出たアイディアです」
(「トレジャーズ」ライナーノーツから)
と語っています。
アソシエーションは1960年代後半「チェリッシュ」や「ウィンディ」などの大ヒットを飛ばしたアメリカ西海岸のコーラス・グループ。
さて、この曲はもともとは彼の「メロディーズ」というアルバムの最後に収録されていた曲でした。
「メロディーズ」の最大の特徴はオリジナル曲の全ての作詞を彼自身で行うようになったことでしょう。
その以前の「RIDE ON TIME」「FOR YOU」という大ヒットアルバムの作詞は主に吉田美奈子が手がけていて、数曲だけ彼が書くというバランスでした。
彼は当時30歳で、自分で歌詞を書くようにしたことについて、当時のインタビューではこう語っています。
「30になったら、もう社会的には青年じゃないから、10代後半から20代前半の記憶を叩き台にしたフィクションで構成しよう、と。つまり、ティーンエイジャーの歌じゃなくて、30の自分からの観点というか、振り返って、また前に向かって進むというニュアンスを織り込んで。そういうコンセプトにしたことによって、自分で詩を書くという必然性が出てきたわけ」
「今までのLPは、作家的なLPというか、プロデューサー山下達郎がタレント山下達郎に「こういうものを作れ」と言って、やっていたわけ。今度のLPは、もっとシンガー・ソングライターに近い。決して私小説ではないんだけど、自分の考え方を表出しているからね。従って、それに付随するような曲想が出てくるわけ」
(「ミュージックステディ」1983年8月号)
「希望という名の光」にファイ評されるような現在の彼のシンガー・ソングライターとしてのスタイルの出発点が「メロディーズ」であり、そこに収められていたのが「クリスマス・イヴ」だったわけです。
(僕個人は、それ以前、デビュー作から「FOR YOU」までを今だに愛聴しているのですが、、、)
そして、この曲は彼にとって会心の作品でもあったようです。
「いままでに書いてきた270曲くらいのなかで、あの曲は詞・曲、編曲、演奏、歌唱、ミックスなどあらゆるファクターにおいていちばん上手く出来た5本の指に入る曲なんです。」
「ベストヒット=ベストソングと言えるのは、幸福ですよ」
(「ぴあ」山下達郎”超”特集)
また、朝日新聞のインタビューで彼はこのように語っています。
「僕は時代の試練に耐える普遍的なサウンドが好きなので、流行とか最先端には、あまり魅力を感じません。最先端なものほど時が経てば時代遅れとなり、古色蒼然(そうぜん)たる響きになっていく。僕にとって音楽は、耐用年数がすべてです。古びない、言い換えればいつ作られたかわからない。そんな音楽が僕の理想なので、「クリスマス・イブ」は発表から37年たっても変わらず聞き続けていただけていることが、何よりうれしく感じています」
(朝日新聞)
まさに、今現在この「クリスマス・イヴ」を聴いても、古色蒼然とはまったくしていないですね。
そして、今の流行している音楽と並べて聴くと、いかに現在のポップ・ミュージックにおいて、歌詞が過剰な方向へとエスカレートし、いかに、コーラスやハーモニーが廃れ、いかにサウンドが”耐久性”がなってきているかが、はっきりわかるように僕は思います。それは、曲の”耐用年数”ではなく、”即効性”がひたすら求められているということなのかもしれません。
ともかく、ポップ・クラシックでいながら、常に”異端”のポジションにあるというが、この曲の最大の特徴でしょう。
あと、たくさんのカバー・ヴァージョンがあるのに魅力的なものがほとんどない、というのも僕の印象なんですが、どうでしょうか。
オリジナルがあれだけ緻密な完成度を持っているので、普通にカバーしてしまうと、なんか物足りなくなるのはしょうがないことかもしれませんが。詞曲はシンプルですし。
ただ、個人的にはオリジナルが完璧すぎて、もっとリラックスして聴きたいなあと思うことがあって、そんな時は僕はこのヴァージョンを愛聴しています。
名アレンジャー、ニック・デカロが1990年にリリースした山下達郎のカバーアルバム「LOVE STORM」に収録されているカバー。
Nick DeCaro - Silent Night, Lonely Night (Christmas Eve)