まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「クリスタルの恋人たち(Just the Two of Us)」グローヴァー・ワシントン・ジュニア(1981)

 おはようございます。

 今日はジャズ・サックス奏者グローヴァー・ワシントン・ジュニアがヴォーカルにビル・ウィザースをフィーチャーした大ヒット曲「Just the Two of Us」。邦題は「クリスタルの恋人たち」です。


Grover Washington Jr. - Just the Two of Us (feat. Bill Withers) (Official Audio)

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I see the crystal raindrops fall
And  the beauty of it all
Is when the sun comes shining through
To make those rainbows in my mind
When I think of you some time
And I want to spend some time with you

Just the two of us
We can make it if we try
Just the two of us
Just the two of us
Building castles in the sky
Just the two of us
You and I

We look for love, no time for tears
Wasted waters's all that is
And it don't make no flowers grow
Good things might come to those who wait
Not to those who wait too late
We got to go for all we know

 

Just the two of us
We can make it if we try
Just the two of us
Just the two of us
Building castles in the sky
Just the two of us
You and I

I hear the crystal raindrops fall
On the window down the hall
And it becomes the morning dew
Darling, when the morning comes
And I see the morning sun
I want to be the one with you

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クリスタルの雨粒が降るのが見える

それが美しく見えるのは

僕の心に虹を架けるために

陽が差し込んでくるときなんだ

時々君のことを思う

すると、一緒に過ごしたくなるんだ

 

たった二人っきりでも やってみたらできるはずさ

たった二人っきりでも

たった二人っきりでも 空に城を建てることもできる

たった二人っきりでも 君と僕なら

 

僕らは愛を探しているから 涙を流す暇はないんだ

そんなのは水の無駄遣いさ 花を育てているわけじゃないから

待てば良いことが起こるのかもしれないけど

それは、手遅れになっても待つ人のことじゃない

みんながよく知っているもののために僕たちは前に進まなきゃ

 

たった二人っきりでも やってみたらできるはずさ

たった二人っきりでも

たった二人っきりでも 空に城を建てることもできる

たった二人っきりでも 君と僕なら

 

クリスタルの雨粒が

廊下の先の窓にあたる音が聞こえる

そして、それは朝露に変わって 

ダーリン、朝がやって来て

朝陽を見ると 君と一緒にいたいと思うんだ

 

たった二人っきりでも やってみたらできるはずさ

たった二人っきりでも

たった二人っきりでも 空に城を建てることもできる

たった二人っきりでも 君と僕なら          (拙訳)

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 邦題が「クリスタルの恋人たち」。の冒頭に”crystal raindrops”という言葉が出てきますが、それと、当時大ブームになった田中康夫AORのバイブル的小説「なんとなくクリスタル」にあやかったのは間違いないでしょう。

 

 調べてみると「なんとなくクリスタル」は1981年1月に出版されていて、「クリスタルの恋人たち」は、この曲が収録されたアルバムが1980年後半に、シングルは1981年2月にアメリカで発売されています。当然、当時はアメリカより国内盤発売は遅かったでしょうから、「なんとなくクリスタル」の盛り上がりをうけて日本の担当者が邦題をつけたのでしょう。

 それにしても、歌詞に”crystal"と入っていて小説のイメージともよく合う曲が、ほぼ同時期に発売されていたというのは、なかなか興味深い偶然だと思います。

 

 そういえば、どうして”クリスタル”なんだっけ?と久しぶりに小説をひらいてみたら、こういった文章がありました。

 

「クリスタルなのよ、きっと生活が」

「頭の中は空っぽでもないし、曇ってもいないよね、醒め切っているわけでもないし、湿った感じじゃもちろんないし」     (「なんとなく、クリスタル」)

 

 この曲はデートにぴったりな雰囲気のあるバーの鉄板曲として長きにわたって君臨し、男性の下心の応援をしてきたわけですが、あらためて歌詞を読んでみると朝の透き通った風景とピュアな恋愛感情を歌っていて、下心指数(?)はかなり低い曲ですね。今さらなんですが、、。

 

 

 さて、グロヴァー・ワシントンJRはジャズのサックス奏者ですが 、1970年代後半から80年代にかけて人気のあった”スムース・ジャズ”の第一人者と言われ、この曲はまさにその象徴の1曲とされています。

 

  彼の最初のソロ作品はマーヴィン・ゲイの「インナー・シティ・ブルース」や「マーシーマーシー・ミー」が収録されたアルバム「インナー・シティ・ブルース」。マーヴィンなど当時”ニュー・ソウル”と呼ばれたアーティストのレパートリーをよく取り上げていて、このアルバムには、ビル・ウィザースの「エイント・ノー・サンシャイン」も収録され、次のアルバムでは「リーン・オン・ミー」を取り上げています。

 


Lean On Me

 グローヴァーは「Just The Two of Us」でビル・ウィザースを招く10年も前からビルの曲が好きだったのかもしれません。

 

  彼はジャズ・シーンでは最初から人気者でしたが、ポップ・シーンにまで名前が知られるようになったきかっけが1975年「Mister Magic」です。表題曲がインストながらポップ・チャートで54位、アルバムは10位まであがりました。


Mister Magic

 この「Mister Magic」を書いたのがパーカッショニストのラルフ・マクドナルドでした。

 そして、この「Just The Two of Us」は基本的にはラルフと彼のソング・ライティングのパートナーであるウィリアム・ソルターが書いています。

 

 ビル・ウィザースはこう語っています。

「グローヴァーと僕は一緒に何かをやったわけじゃないんだ。僕の友情関係は作曲家でプロデューサーのラルフ・マクドナルドとの間にあった。で、彼にはビル(ウィリアム)・ソルターというパートナーがいたんだ。彼らはすでに曲を書き上げていた、で、僕はちょっと歌詞にうるさかったから、彼らは僕に曲を送ってきてこう書いてあった”これをグローヴァーとやりたいから、これを歌うのを検討してくれないか?”で、”いいよ、もし君たちが僕を仲間に入れてくれて、少し歌詞の手直しをさせてくれればね”って、僕は言ったんだ」

                      (Songfacts)

 

 ただビルは自分の曲を一番最初にカバーしてくれたのがグローヴァーだったから、昔から敬愛していたと語っています。

 

「歌詞のいくつかはもともと書かれていたものだ。確か僕は、もともとの歌詞と対照的な”crystal raindrops"のような言葉を入れたんだ。元の歌詞がなんだったか忘れたけどね。"Just The Two of Us"なるものはすでにあったんだ。僕は"Just The Two of Us"に繋がってゆくところの歌詞が好きじゃなかったんだよ」

                       (Songfacts)

 

 この曲の日本だけで重要なフレーズ(?)”crystal raindrops”はビル・ウィザースが後になって変えたものなんですね。

 

 ラルフが作った元曲そのままの歌詞でもしビルが歌っていたら「クリスタルの恋人たち」なる邦題も生まれなかったかもしれません。今では日本でもみんな「Just The Two of Us」と呼んでいるので大差ないのかもしれませんが、、。

 

 ちなみに、ビルはこのインタビューでこういうことを語っています。

「僕にとって、世界で最大のチャレンジは、複雑なものごとを大勢の人がわかるように

シンプルにすることだ」

 だからこそ、自分の曲は長きにわたって繰り返し聴かれているんじゃないかと彼は語っています。

 まさに、ソングライティングの奥義、のような言葉だと思います。

 

 

 

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