まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「悲しきサルタン(Sultans of Swing)」ダイアー・ストレイツ(1978)

 おはようございます。

 今日はダイアー・ストレイツの「悲しきサルタン」を。

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You get a shiver in the dark
It's raining in the park, but meantime
South of the river you stop and you hold everything
A band is blowin' Dixie double four time
You feel alright when you hear that music ring

And now you step inside
But you don't see too many faces
Comin' in out of the rain
You hear the jazz go down

Competition in other places
Oh, but the horns, they blowin' that sound
Way on down south
Way on down south London town

You check out guitar, George
He knows all the chords
Mind he's strictly rhythm
He doesn't wanna make it cry or sing

They said an old guitar
Is all he can afford
When he gets up under the lights
To play his thing

And Harry doesn't mind
If he doesn't make the scene
He's got a daytime job
He's doin' alright

He can play the Honk Tonk like anything
Savin' it up for Friday night
With the Sultans
With the Sultans of Swing

And then the man
He steps right up to the microphone
And says at last
Just as the time bell rings

"Goodnight, now it's time to go home"
And he makes it fast with one more thing
We are the Sultans
We are the Sultans of Swing

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暗闇の中で君は身震いをする

公園では雨が降っている、だけどそのうち

川の南側で君は立ち止まり、じっと耳を傾ける

バンドがディキシーランド・ジャズをダブル・フォータイムで演奏している

音楽が鳴り響くのを聞くと君の気分は良くなってくる

 

そして店の中に入ってみると

客はそんなにいなかった

雨の中ジャズを聴きにくるなんて客は

 

他の店でもジャズはやっているけど

ああ、だけどホーンがね、

彼らはあんなサウンドを吹いてるんだ

ずっと南で ロンドン・タウンのずっと南で

 

ギターのジョージに注目しな

彼はコードを全部知っていて

厳密なリズムを心がけている

泣いたり歌ったりするようなギターは弾きたくないのさ

自分のプレイをするためにライトの下に出ると

ヤツには古いギターしか買えないのさと彼らは言った

 

ハリーは気にしちゃいない

たとえ成功しなくても

昼間の仕事があって

ヤツにはそれで満足なんだ

 

彼はホンキートンクがすごくうまい

金曜の夜のためにとっておいてるのさ

サルタンズと

サルタンズ・オブ・スウィングでやるために

 

そして、その男は

マイクに向かって足を踏み出すと

ついに言うのさ ベルが鳴るとともに

「おやすみなさい、さあ、お帰りの時間です」

そして、彼はすばやく付け加える


「僕たちはサルタンズ、僕たちはサルタンズ・オブ・スウィングです」

                  (拙訳)

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 原題の”Sultans of Swing”(スウィングの皇帝、君主)とは、この歌の中でデキシーランド・ジャズを演奏していたバンドの名前だったんですね。

 「悲しきサルタン」は、曲のムードでつけちゃった邦題なんでしょうね。そういう邦題は実際多いですし、僕を含めてこの邦題でしっくりしてしまっている洋楽ファンの方も多いでしょう。

 

 ダイアー・ストレイツはギター/ヴォーカルのマーク・ノップラーを中心にロンドンで結成されました。

 建築家の息子として生まれたノップラーは、リーズ大学で英文学を学び、卒業後は英語の教師を始め、夜は”Brewer's Droop”というパブ・ロック・バンドを率いて演奏をしていました。1977年に、マークは弟のデヴィッド(ギター)とルームメイトのジョン・イルズリー(ベース)と一緒に演奏するようになり、そこにドラマーのピック・ウィザースが加わり1977年の夏に一緒にデモを制作しました。

 バンドは当初”カフェ・レーサーズ”と名乗っていましたが、ウィザースのルームメイトが、いつも金に困っているメンバーを揶揄してdire(悲惨な、差し迫った)strraits(窮乏)とつけたと言われています。

 

 彼らはこの「悲しきサルタン」を含むデモ・テープを録音し、BBCラジオ・ロンドンの番組「Honky Tonk」のDJ、チャーリー・ギレットのもとに持って行くと、彼は気に入りこの曲をを番組のローテーションに入れました。

 そしてそのおかげで彼らはレコード会社との契約を手にすることができました。

 この時オンエアされたデモ・ヴァージョンがこちらです。

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 さてこの曲は、マークが実際に体験したことがインスピレーションになっています。

 

 マークと弟のデヴィッドとベースのジョン・イルズレーは、南ロンドンのデプトフォードにあるアパートで一緒に生活をしていて、ある夜、マークとジョンが地元のさびれたパブで軽く一杯飲もうと中に入ると、ジャズバンドが演奏していて、彼らが挨拶で実際に「僕たちは”Sultans of Swing"です」と言ったそうです。彼らはプルオーバーを着たくたびれて小柄な男で、その外見と”スィングの君主”という大げさなバンド名のギャップが面白く、それで曲を作ってみようと思ったそうです。

 ディキシーランド・ジャズの演奏で使っている、ダブル・フォータイムは、4分の4拍子のバリエーションで、初期のレス・ポールジャンゴ・ラインハルトが人気を博したスタイルのようです。

 

 また、"It's raining in the park but meantime "と歌われている公園は、デプトフォードから1マイルほど離れているグリニッジ公園のことを指していて、meantimeは「そのうち」という文字通りの意味とグリニッジ標準時Greenwich Mean Timeがかけられているとのこと

 また、"Competition in other places(他の場所での競争) "というフレーズは、グリニッジにはあと同じように演奏が聴けるパブが3つあったということなのだそうです。

(参考:https://www.jonkutner.com/

 

「『悲しきサルタン』はもともとオープンチューニングのナショナル・スティール・ギターを使って書いたが、そういうスタイルでこの曲を演奏したことは一度もない」

 

 ”ナショナル・スティール・ギター”はこれですね。

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 「退屈な曲だと思っていたんだけど、1977年にはじめてストラトキャスターを買ったら全部が変わったんだ、歌詞だけが前のままで。あの1961年製のストラトで弾くとすぐに曲が生き生きとしてきたんだ。新しいコード・チェンジが自然と生まれてきてそこにハマったんだ。そのストラトは長い間僕のメイン・ギターで、ファースト・アルバムで使っているのは基本的にそれだけだ」

            (Guitar World)

 この曲のギタープレイは、「Guitar World」誌で”史上最高のギター・ソロ”で22位、「ローリングストーン」誌の”史上最高のギター・ソング”で32位に入っている名演ですが、マークが生まれて初めて買ったストラトキャスターを弾くことによって生まれたわけなんですね。

 

 当時、僕はFMで洋楽のヒットチャートをせっせと追いかける中学生でしたが、この曲は他の曲と全然違って聴こえたのをよくおぼえています。

 世界的にはディスコ・ブームで、アメリカでは他にAOR、ポップなハードロックなど、メロディアスな曲が多かったんですよね。

 そんな中でこの曲の、メロディをあまり感じない語るような歌い方にギターが絡まっていくスタイルはあきらかに浮いていました。イギリスではパンクが燃えあがっていましたので、別の意味でやはり浮いていたはずです。

 音楽ビジネスは流行商売ですから、その時に追い風の吹いてるスタイルを選ぶのが常套手段なわけですが、全く流行していないスタイルがハマった時には、格別な成功を収めるという面白さもあるように思います。

 ポップスやロックはアレンジの比重が大きいジャンルで、特にロックはギターの比重が大きいように思います。そしてギタープレイが見事に決まった曲というのは、ものすごい力があるんだなと、冒頭に挙げたMVの再生数が1億回を超えているこの曲を聴くとあらためて思い知らされます。

 

 最後はマーク・ノップラーのギタープレイをより楽しめる1983年のライヴ映像を(こちらは1億8千万回を超えてますね)。

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