まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「悲しいうわさ(I Heard It Through the Grapevine)」マーヴィン・ゲイ(1968)

おはようございます。

今日はマーヴィン・ゲイの「悲しいうわさ」を。


I Heard It Through The Grapevine

 

 ”ああ、君は僕がどうやって知ったのか不思議なんだろう

   誰か昔の男と僕を悲しませようとしてるってことを

  そいつと僕じゃあ 僕の方が君を愛してるんだよ

      昨日知ったときには 本当に不意をつかれた気持ちだったよ

  

   わかるだろ?噂を聞いたんだよ

     もうすぐ君は僕のものじゃなくなるって

   ああ、噂を聞いてしまったんだ

      もう頭がおかしくなりそうなんだ ハニー、ハニー

 

   男は泣くもんじゃないってわかってるけど

   あふれる涙を抑えきれないんだ

   君を失ったら僕の人生は終わりさ、わかるだろ

   僕にとって君は大きすぎる存在なんだ

   他に好きな人ができたって

   君から直接聞きたかったよ


   そのかわりに 噂で知るなんて

      もう君が僕のものじゃなくなるなんて

      ああ、噂を聞いてしまったんだ

      もう頭がおかしくなりそうなんだ ハニー、ハニー

 

       見たことを信じるのは半分だけにしておけ

  そして、聞いたことは信じちゃダメだと、人は言う

  でもどうしても混乱してしまうよ

  もしそれが真実なら 教えてよ

  誰か昔愛した男のために 僕を捨てるつもりなの?

  わかるだろ?噂を聞いて知ったんだ
  もうすぐ君は僕のものじゃなくなるって

     ああ、噂を聞いてしまったんだ

        もう頭がおかしくなりそうなんだ ハニー、ハニー  "      (拙訳)

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I bet you're wonderin' how I knew
'Bout your plans to make me blue
With some other guy you knew before
Between the two of us guys
You know I loved you more
It took me by surprise I must say
When I found out yesterday
Don't you know that I heard it through the grapevine
Not much longer would you be mine
Oh I heard it through the grapevine
Oh I'm just about to lose my mind

Honey, honey yeah.
I heard it through the grapevine
Not much longer would you be mine baby

I know a man ain't supposed to cry
But these tears I can't hold inside
Losin' you would end my life you see
'Cause you mean that much to me
You could have told me yourself
That you loved some one else
Instead I heard it through the grapevine
Not much longer would you be mine
Oh, I heard it through the grapevine
And I'm just about to lose my mind

Honey, honey yeah
I heard it through the grapevine
Not much longer would you be mine, baby

People say believe half of what you see
Son and none of what you hear
But I can't help but be confused
If it's true please tell me dear
Do you plan to let me go
For the other guy you loved before?

Don't you know I heard it through the grapevine
Not much longer would you be mine, baby yeah
I heard it through the grapevine
I'm just about to love my mind
Honey, honey, yeah
I heard it through the grapevine,
Not much longer would you be mine, baby yeah 

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  今この曲を耳にする時、ほとんどがマーヴィン・ゲイが歌っているものですが、実は彼より先にグラディス・ナイト&ザ・ピップスが先にヒットさせた(1967年全米2位)ものでした。


I Heard It Through The Grapevine - Gladys Knight & The Pips '1967

 しかし調べてみると、録音したのはマーヴィンが先だったようです(1967年2月と4月、グラディスが1967年6月)。

 

 しかもそれより先にスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズがレコーディングしていました(1966年8月)。

 


Smokey Robinson & The Miracles - I Heard It Through the Grapevine

 モータウンというのは、ベリー・ゴーディーのワンマン・カンパニーですから、定例の新曲試聴会で彼がGOサインを出さないものはリリースされなかったのです。ミラクルズもマーヴィンもOKが出なかったんですね。

 

 作者の一人でプロデューサーのノーマン・ホイットフィールドにしてみたら不本意な結果だったのでしょう、次に彼はモータウンと契約したばかりのグラディス・ナイト&ザ・ピップスに持ち込みます。

 グラディスはこう語っています。

 

「私たちはそれから二ヶ月というもの、家にいるときもツアーに出たときも、食事している時も寝てる時も、その曲のことばかり考えつづけたわ。それである日、自分たちなりに仕上げたものをノーマンのところへ持って行ったわけ。彼ったらまっすぐスタジオに飛んで行って、そこにいたスモーキーたちを追い出して私たちのレコーディングの用意をしたのよ・・・私たちは作曲には全然タッチしてなかったけど、曲の構成っていうのは、プロデュースの仕事の中でもとっても重要な部分でしょ。私たちは曲をばらばらにして、いろんな手を加えていったのよ」 

 (ネルソン・ジョージ 林田ひめじ訳「モータウン・ミュージック」)

 

 確かに、マーヴィンのヴァージョンを聴くと、アレンジは基本的にスモーキーのものと同じです。ノーマン本人が本来イメージしたものだったのでしょう。

 

 それに比べ、グラディスのヴァージョンはガラッと変わっている。ゴスペル調で、その当時大ヒットしていたアレサ・フランクリンの「リスペクト」を意識しているような感じもします。 

popups.hatenablog.com

 曲は大ヒットしたのですが、ホイットフィールドはマーヴィンのヴァージョンの出来に自身があったようで、ベリー・ゴーディーにリリースを訴えたそうですが、すでにグラディス版がヒットしたからという理由で却下されてしまったようです。

 諦めきれないホイットフィールドは、ベリーを説得しこの曲をマーヴィンのアルバムに収録します。そうすると、全米のラジオ局でどんどんオンエアされるようになり、さすがにベリーもシングルとして発売することに同意し、その結果見事全米1位に輝いたわけです。

 

 モータウンは白人にも売れる”ポップ”を作ることを命題に作られたレーベルで、ベリー・ゴーディーの”ヒット勘”というのはずば抜けていたものでした。しかし、1960年代後半、ベトナム戦争の混迷化というのも大きな要因だったのでしょう、大衆はもっと混沌としたダークなものに魅かれるようになっていきます。

 

 その動きにモータウンの中で最もヴィヴィッドに反応したクリエイターがノーマン・ホイットフィールドでした。

 ベリー・ゴーディーはこの頃すでに自身の大ヒットの方程式を確立していたので、その方程式を”アップデート”するのに少し時間がかかったのかもしれません。

 

 しかし、モータウンの”ポップ”を象徴する大ヒットをいくつも作ったソングライター・チーム、”ホランド=ドジャー=ホランド”がこの頃、モータウンを出て行ってしまい、ホイットフィールドの比重がグッと大きくなったことで、かえってモータウンは時流にあった新しいスタイル(ややダークでサイケデリックなファンク)を身につけることができたわけです。

 

 もし、ホランド=ドジャー=ホランドモータウンに残っていたら、モータウンのモデル・チェンジはもう少し無難なものになり、結果として時流にフィットせず、レーベルもパワー・ダウンしていた可能性も大いにあったと僕は想像します。

 

 1960年代後半に起こったモータウンのモデル・チェンジ、その大きな分水嶺となったのがこの「悲しいうわさ」だったのだと思います。

 

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