まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「セクシャル・ヒーリング(Sexual Healing)」マーヴィン・ゲイ(1982)

 おはようございます。

 今日はマーヴィン・ゲイの「セクシャル・ヒーリング」です。

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Ooh, now let's get down tonight


Baby I'm hot just like an oven
I need some lovin'
And baby, I can't hold it much longer

It's getting stronger and stronger
And when I get that feeling
I want Sexual Healing
Sexual Healing

Makes me feel so fine
Helps to relieve my mind
Sexual Healing baby, is good for me
Sexual Healing is something that's good for me

Whenever blue tear drops are falling
And my emotional stability is leaving me
There is something I can do
I can get on the telephone and call you up baby, and

Honey I know you'll be there to relieve me
The love you give to me will free me
If you don't know the things you're dealing
I can tell you, darling, that it's Sexual Healing

Get up, Get up, Get up, Get up, let's make love tonight
Wake up, Wake up, Wake up, Wake up, 'cause you do it right
Baby I got sick this morning
A sea was storming inside of me

Baby I think I'm capsizing
The waves are rising and rising
And when I get that feeling
I want Sexual Healing

Sexual Healing is good for me
Makes me feel so fine, it's such a rush
Helps to relieve the mind, and it's good for us

Sexual Healing, baby, is good for me
Sexual Healing is something that's good for me
And it's good for me and it's good to me
My baby 

Come take control, just grab a hold
Of my body and mind soon we'll be making it
Honey, oh we're feeling fine
You're my medicine open up and let me in

Darling, you're so great
I can't wait for you to operate

Get up, Get up, Get up, Get up, let's make love tonight
Wake up, Wake up, Wake up, Wake up, 'cause you do it right
When I get this feeling, I need Sexual Healing...

I can't wait for you to operate

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さあ、今夜は楽しもうよ

 

ベイビー、僕はホットなんだ、オーブンみたいにさ

愛が欲しいんだ

だからベイビー、これ以上我慢できないよ

 

どんどん強くなるばかりさ

こういう感じになったときは

セクシャルな治療がほしいんだ

セクシャルな癒しがね

 

僕をすごくいい気持ちにさせて

心を和らげてくれて

セクシャルな治療は僕にはよく効くんだ

セクシャルな治療は僕に効く特別なものさ

 

 

悲しい涙が溢れる時はいつも

そして感情の支えがきかなくなった時

僕にできることがあるのさ

電話を手にとって、君を呼び出すんだ、ベイビー、そして

 

ハニー、僕を安心させてくれるためにそこにいてくれるのさ

君が与えてくれる愛が僕を解放してくれる

もし、君が自分がやっていることが何かわからないなら

僕が教えてあげるよ、それがセクシャルな治療だって

 

起きて、起きて、始めよう、愛し合おうよ

目を覚まして、目を覚まして、君はちゃんとやれるから

ベイビー、今朝は気分が悪かった

僕の中で海が荒れ狂っていた

 

ベイビー、僕は転覆しそうだ

波がどんどん高くなる

そんな感覚になった時

僕はセクシャルな癒しがほしくなるんだ

 

セクシャルな治療は僕によく効くのさ

気分がすごく良くなって

あっという間に、僕の心を和らげてくれる

僕には良く効くのさ

 

セクシャルな治療は僕にはよく効くんだ

セクシャルな治療は僕に効く特別なものさ

よく効くんだ、僕にぴったりなんだ ベイビー

 

ここへ来てコントロールしてほしい、

ただ、僕の体と心をしっかりとつかむだけで

すぐにできてしまうのさ

ハニー、僕たち最高な気分さ

君は僕の薬さ ドアを開けて僕を中に入れて

 

ダーリン、君は最高さ

君の施術が待ちきれない

起きて、起きて、始めよう、愛し合おうよ

目を覚まして、目を覚まして、君はちゃんとやれるから

 

こんな感覚になったときは、セクシャルな治療が必要なんだ

君の施術が待ちきれない、、

                 (拙訳)

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「もう本当に僕の人生は行き詰まって終わっていた。僕のレコードは出たけど僕はそれが大嫌いで、ベリー(ゴーディ)は僕さの作品はもうずっと何年も売れなくなったと言っていた。モータウンと僕はもはや終わったんだ」

 (「マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル」)

 

  1980年ごろのマーヴィン・ゲイの発言です。

 1970年代後半にモータウンの社長ベリー・ゴーディの姉アンナと離婚することで多額の慰謝料をかかえていた彼は、うつ病、コカイン中毒などさまざまな問題が重なり、国税庁との財政トラブルから逃れるためもあって、1980年代に入るとヨーロッパ・ツアーで訪ねたのをきかっけに、アメリカからイギリスに移住してしまいます。

 そこでレコーディングしたアルバム「イン・アワ・ライフタイム」は、完成しきっていない曲も収録してモータウンが強引にリリースしたものだったようで、それが売れなかったことが決定打となって、ずっと不信感を抱いていたモータウンと彼は決別する決意しました。

 しかし一文無しで、精神面も体調面も悪い状態であった彼は、自力で何かできる状況ではありませんでした。

 そこで出会ったのが、ベルギーでクラブ経営やプロモーターをやっていたフレディー・クーサートという人物で、昔からマーヴィンのファンだったらしく、彼をベルギーに移住させ、財政面でも援助し彼の音楽活動をサポートするようになります。

 

 そしてモータウンと契約を解消し、あらたにCBSと契約した彼が作ったのがこの「セクシャル・ヒーリング」が収録されたアルバム「ミッドナイト・ラヴ」だったのです。

 

 冒頭にあげた彼の発言の引用元である「マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル」の作者、デヴィッド・リッツが、当時マーヴィンの自叙伝を書くためにベルギーにいる彼を訪ねた時にこの曲のきっかけが生まれたそうです。

 

「マーヴィンは、キーボード奏者のオデル・ブラウンが作ったレゲエ風のリズムトラックに夢中になっていた」

「彼はこのトラックに可能性があることをわかっていた。彼のコーヒーテーブルには、アヴァンギャルドなフランスのSM本が置かれていて、そこには性的な仕打ちを受けている女性の漫画がたくさん描かれていた。私はマーヴィンに、『これは病気だ。君に必要なのはセクシャル・ヒーリング、セックスと愛が結びついた一人の女性との愛だよ』。マーヴィンはセクシャル・ヒーリングのコンセプトを気に入ってくれて、このコンセプトに沿った歌詞を書いてほしいと頼まれたんだ」

 

 「僕がすべてのAメロとサビを含むほとんどの歌詞を書いた、マーヴィンはメロディとブリッジの歌詞を書いた」

 「僕は詩のように歌詞を書き、30分くらいで歌詞が全部完成した。マーヴィンはすぐにこの曲を気に入り、ヒットするだろうと考えた。彼は、『これこそ僕が探していたものだ 』と言ってくれたんだ」

 (Songwriter Universe

 

 リッツが書いたのは曲のタイトルだけという説もあるようですが、この曲がリリースされ大ヒットしたのに、作者としてクレジットされなかった彼は、マーヴィンに抗議しましたが解決しなかったため最終的に訴訟を起こし、のちにこの曲の作者としてクレジットされるようになっています。

 

  曲の方はオルガン奏者のオデル・ブラウンがなんとなく弾いていたものをマーヴィンが気に入り、ハミングして歌いながら”2分でできた”とブラウンは回想しています。

 

 

  しかし、最も注目されるべきは、この曲でリズム・マシーンやシンセサイザーを使っていることでしょう。特に当時発売されて間もないローランドの<TR-808>というリズム・マシーンを使った最初期のヒットソングのひとつとして、この曲は記憶されています。

 

 「僕は精神的にも経済的にもプレッシャーを感じていた。だから、ミュージシャンと一緒にやるという考えは捨てて、シンセサイザーを使って始めたんだ」

 (Art of Sound Production)

 <TR-808>と、同じくローランドの<ジュピター8>というシンセサイザーを、CBSレコードから支給され、それを使って彼は楽曲を作っていったのです。

 製作費用を抑えられ、神経質な彼が他のミュージシャンたちとのコミュニケーションのストレスからも解放される、最適な選択だったのでしょう。それに加えて、彼がベルギーに住んでいたので、クラフトワークなど当時の新しいテクノロジーを使った音楽を耳にする機会も多く、興味を持ったのではないかと推測する人もいます。

 彼が機械にどれだけ強かったのかは不明ですが、もともとドラマーであった(マーサ&ザ・ヴァンデラス「ダンシング・イン・ザ・ストリート」のドラムは彼です)というのは、かなりアドバンテージがあったように推測します。

 

 TR808は日本では通称”やおや”と呼ばれ、1980年代のポップ・ミュージックのサウンドのアイコンとなりました。

    ちなみに、音楽プロデューサーの佐久間正英氏が、プラスティックスというバンドをやっていたときにTR808に開発に加わりアドバイスしていて、その一号機を使ってナッソーで録音したのが「Welcome Back」(1981)というアルバムだったそうです。

 

「丁度隣のスタジオでレコーディングしてたエリッククラプトンが、TR-808をプログラミングしてる僕のことを後ろから覗き込んで来たんです。「お前何やってんの?」みたいな感じでずっと見てました。だからクラプトンが、部外者でTR-808を初めて見た人物なんですよ(笑)。日本人でも、知ってたのはプラスチックスのメンバーだけでしたから」

(Rock On” People of Sound”)

 佐久間氏の次に、一号機を使ったと思われるのがYMOです。プラスティックスの「Welcome Back」と同じ月に発売されたアルバム「BGM」でTR808が大活躍しています。

 海外では、「セクシャル・ヒーリング」とともにTR808に最初期の代表曲と呼ばれているのが、アフリカ・バンバータ&ソウル・ソニック・フォースの「プラネット・ロック」です。

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 YMOでもプラスティックスでも「プラネット・ロック」でも、TR808を使って新時代感、近未来感みたいなものを演出しているわけですが、マーヴィンだけは自分が固執する愛とSEXの世界に逆に取り込んじゃっているところがすごいです。

 

 そして、この曲の大ヒット後に、リズム・マシーンを使ったミディアム・テンポのトラックに、スムーズな曲調で愛を歌う男性シンガーが1980年代のR&Bシーンを席巻するようになるのです。

 そういう意味ではマーヴィンの復活曲であるだけでなく、R&Bシーンの潮目を大きく変えた曲だったわけです。

 

  さて、今日僕がTR808にこだわったのは、今日がこのブログの808日目だったからで(しょうもなくてすみません、、)、最後もTR808を使ったことで有名なヒット曲を。

フィル・コリンズ「ワン・モア・ナイト」

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