まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「アセンション(ASCENSION(Don't Ever Wonder))」マックスウェル(1996)

 おはようございます。今日はマックスウェルの「アセンション」です。

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It happened the moment, when you were revealed
Cause you were a dream that you should not have been
A fantasy real
You gave me this beating baby
This rhythm inside
And you made me feel good and feel nice and feel loved
Give me paradise


So shouldn't I realize
You're the highest of the high
If you don't know, then I'll say it
So don't ever wonder (don't ever wonder)
So shouldn't I realize (shouldn't I realize)
You're the highest of the high
If you don't know, then I'll say it
So don't ever wonder


So tell me how long
How long it's gonna take until you speak, babe
Cause I can't live my life
Without you here by my side
You gave me the feelin', feelin' in my life


So shouldn't I realize
You're the highest of the high
If you don't know, then I'll say it
So don't ever wonder wonder (don't ever wonder wonder)
Shouldn't I realize shouldn't I realize
You're the highest of the high
You're the highest of the high
If you don't know, then I'll say it
So don't ever wonder wonder
So don't ever wonder wonder
Shouldn't I realize
You're the highest of the high
If you don't know, then I'll say it
So don't ever wonder wonder (don't ever don't ever wonder)
(don't ever wonder)
(don't ever wonder)
(don't ever wonder)
Never wished that
(don't ever wonder)
(without you, don't ever wonder)
(don't ever wonder)
(can't you see don't ever wonder)
(can't you see don't ever wonder)

 

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その瞬間に起こったんだ 君が現れた時さ
君は夢のような人だったから
ファンタジーであるべきじゃなく、現実のね
君のせいでこんなに鼓動が高鳴るんだ ベイビー
この胸のリズム
そして、君は僕を気持ちよく、素敵に
そして愛されていると感じさせてくれた
僕にパラダイスをくれた


気づくべきじゃなかったのか
君はは最高の中の最高だってことに
もし君が知らないのなら、僕が言うよ
だから、不思議に思わないで
だから、気づくべきじゃなかったのか
君は最高の中の最高の人だってことに
君が知らないなら、僕が言うよ
だから、不思議に思わないで


だから教えてほしい
君が話してくれるまでどれだけの時間がかかるのか、ベイブ
君がそばにいなきゃ僕は生きていけないから
君は僕に生きる実感を、喜びを与えてくれた


気づくべきじゃなかったのか
君はは最高の中の最高だってことに
もし君が知らないのなら、僕が言うよ
だから、不思議に思わないで
だから、気づくべきじゃなかったのか
君は最高の中の最高の人だってことに
君が知らないなら、僕が言うよ
だから、不思議に思わないで

   (拙訳)

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 1990年代半ばのR&Bシーンの大きな潮流として、”ニュー・クラシック・ソウル”というものがありました。その後”ネオ・ソウル”と言う言葉に集約されることが多くなりますが、あと、結局定着はしませんでしたが”ソウル・ルネッサンス”と表現していたメディアも当時アメリカではありました。

 

 1970年代前半のマーヴィン・ゲイダニー・ハザウェイカーティス・メイフィールドスティーヴィー・ワンダーといった”ニュー・ソウル”と呼ばれていた、都会的で内省的かつ社会的な意識の高いR&Bの影響を受けながら、ヒップホップ世代らしいセンスもしっかり反映させたアーティストたちが続々デビューしていったそんな時代でした。

 

 その中心にいたのがディアンジェロです。「Brown Sugar」(1985)

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 女性ではこの人、エリカ・バドゥ「On& On」1997

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 そして、ディアンジェロの対抗馬として現れたのがこのマックスウェルでした。

 実は当時僕はレコード会社の洋楽部で、彼のデビュー・アルバム「アーバン・ハング・スイート」の担当者でした。ディアンジェロとはかなり違う音楽性だなと思いましたが、ディアンジェロより全然僕の好みの音楽でもありました。メロウなグルーヴが大好物でしたので。。

 

 ディアンジェロエリカ・バドゥは1970年代のニュー・ソウルの影響がダイレクトに現れていますが、マックスウェルの場合は、1980年代前半から半ばにイギリスでニュー・ソウルの再評価があったのですが、その感覚も感じました。70年代から”直”じゃなく、70年代のアメリカから、80年代のイギリスで”一回バウンドしてきたような音楽でした。

 

 マックスウェルは本名をジェラルド・マクスウェル・リビエラといい、1973年ニューヨークでプエルトリカンの父とハイチ出身の母との間に生まれています。

 最初はバプティスト教会で歌い始めたそうですが、本格的に音楽に取り組むようになったのは17歳になってからで、友人からもらった安いカシオのキーボードを使って自作の曲を作り始めたといいます。

 19歳になった彼は、昼間はウェイターをしながら、ニューヨークのクラブでパフォーマンスを始め、デモテープを友人たちに配り始めます。当時は歌手としてやる自信がなくソングライターとして売り込みをしていました。 このデモが関心を呼び、マンハッタンのナイトクラブでパフォーマンスをすると、それを見た黒人向けカルチャー誌「Vibe」のライターが彼を「次のプリンス」と呼美、業界内で噂になっていったようです。

 そしてレコード会社が決まると、R・ケリーの「12Play」のエンジニアだったピーター・モクランを共同プロデューサーに作業が始まり、そこからまた別のプロデューサーに声がかかりました。

 

 シャーデー・アデュとともに、”シャーデー”を始めたスチュワート・マシューマンでした。

 レコード会社の人間から聴かされたデモは驚嘆するべきものでしたが、”もうすでに完成されている”とも思ったそうです。

 マシューマンは、シャーデーのパーカッションをやっていたカール・ヴァンデン・ボッシェやシャーデーのエンジニアだったマイク・ペラとマックスウェルの作品を3曲手がけることになります。

 マックスウェルはその当時シャーデーのアルバム『Love Deluxe』(1992)に夢中になっていたそうで、その意図が反映された人選だったのかもしれません。

 

 当時アメリカのレコード会社から送られてきたプロフィールには彼のことを”男性版シャーデー”と表記していたように記憶しています。この辺りの人選がディアンジェロエリカ・バドゥと大きく違うところでしょう。

 

 アルバムからのファースト・シングルは「ノックはやさしく(...Til the Cops Come Knockin)」で、現在に至るまで彼の制作パートナーであるホッド・デイヴィッドと共作し、ピーター・モクランがプロデュースとミックスを手がけています。

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  螺旋のようなファルセットで押し通すすごい曲なんですが、無名の新人のデビュー曲としてはハードルが高すぎたんですね、全米ヒットチャート入りせず、R&Bチャートでも79位と惨敗でした。

 そこで次のシングルは、ノリのいい聴きやすいものにしようということになったのでしょう、選ばれたのがこの「アセンション」でした。

 マックスウェルとこの曲を共作したのが、イタール・シュール。サンタナの超特大ヒット「スムース」をのちに書く人です。彼は当時”グルーヴ・コレクティヴ”というアシッド・ジャズ・バンドに参加していました。

 「僕とマックスウェルは、”ジャイアント・ステップ”というクラブでよく遊んでいたんだ。”ジャイアント・ステップ”は、90年代前半から半ばにかけてニューヨークでウケていたアシッド・ジャズ、ファンク、ソウル、をやっているとてもクールなクラブだった」

 「マックスウェルと一緒に僕が以前住んでいたブルックリンの小さな部屋で何曲か作って、その中のひとつが「Ascension」だった、ぴったりなベースラインができるまで2~3回変更したよ。それから、スタジオに入って、トラックを流して、グルーヴ・コレクティヴのベーシストであるジョナサン・マロンが弾いてくれたんだけど、最も印象的なベースラインのひとつだよ。また、シャーデーのギタリストであるスチュアート・マシューマンがギターを弾いてくれた。僕はキーボードを弾き、ドラムプログラミングをやった。マックスはあの曲のAメロw作っていて、サビはまだ作っていなかった。彼は、最終的にうまくいくものを思いつくまで3つか4つのサビを試したよ」

   (Songfacts)

 「アセンション」は”アシッド・ジャズ”系のミュージシャンたちで作られた曲なんですね。そう思うと、当時のアメリカのR&Bのトラックとちょっと違うことがわかります。

 この曲は全米36位、R&B8位、イギリスでも28位とスマッシュヒットを記録します。

 

 そしてこの曲の次のシングルが「ソウル・シティ・グルーヴ(Sumthin' Sumthin')」。この曲を彼と共作したのがレオン・ウェアでした。マーヴィン・ゲイの「アイ・ウォント・ユー」というアルバムは、本来レオンが自分用のアルバムとして録音したトラックにマーヴィンが歌ったという逸話はファンからはよく知られています。

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 ”90年代のマーヴィン”とも呼ばれたマックスウェルはマーヴィンについてこう語っています。

 「僕はもちろんマーヴィン・ゲイ氏に会う機会はなかったけれど、彼が「アイ・ウォント・ユー」でやった全てのアドリブやすべての音楽的な要素を知っているし、「離婚伝説(Hear、 My Dear)」に至るまでの曲、有名な曲も。だけど僕が最も惹きつけられるのは、いつだって彼のあまり評価されていない音楽なんだ、僕にとってはそれが彼がアーティストであり続けた時期だったからさ。こう言うのは悲しいけど、僕はそれと闘ってきたんだ。「アーバン・ハング・スイート」のパート2を求める人たちと闘ってきた、そんなこと(パート2を作ること)はあり得ないというのに。」

 (The Believer  January 31st, 2020)

 

 この時代というのはマーヴィンの「ホワッツ・ゴーイン・オン」の神格化が進んでいた頃で、いろんなアーティストがその影響を口にし、何かにつけアンセムのように歌っていた時代です。

 そんな中で彼は「アイ・ウォント・ユー」から「離婚伝説」の頃の、人間的にはダメダメ(?)で、性的な愛情に溺れていたころのマーヴィンにどうしようもなく惹かれ、肩身の狭い思いをしていたのかもしれませんね。

 

 しかし、そういった彼の特異な個性は、時とともに際立っていき、当時は後塵を拝していたディアンジェロエリカ・バドゥに全くひけを取らないアーティストになっています。この「アセンション」はネオソウルのアーティストの曲でYouTubeで最も再生されているのではないでしょうか。

 

 最後は「アセンション」のリミックスを。ジャム&ルイスがプロシュースしたSOSバンドの「No One's Gonna Love You」のトラックを使っています。

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Love Deluxe

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  • アーティスト:Sade
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