まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「マーシー・マーシー・ミー(Mercy Mercy Me (The Ecology))」マーヴィン・ゲイ(1971)

おはようございます。

昨日は命日で、今日は誕生日ということで今日もマーヴィン・ゲイ。曲は「マーシーマーシー・ミー」です。


Mercy Mercy Me (The Ecology)

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Mercy, mercy me
Things ain't what they used to be
Where did all the blue skies go?
Poison is the wind that blows
From the north and south and east
Mercy, mercy me

Things ain't what they used to be
Oil wasted on the ocean and upon our seas
Fish, full of mercury

Mercy, mercy me
Things ain't what they used to be
Radiation underground and in the sky
Animals and birds who live nearby are dying

Mercy, mercy me
Things ain't what they used to be
What about this overcrowded land
How much more abuse from man can she stand

OH,na na

My Sweet Lord,,,No

My Lord,,,My sweet Lord

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ああ、何てことなんだろう

以前とはまったく変わってしまった 

あの青空はいったいどこに行ってしまったんだ

毒物は風になって吹いてくる

北から、南から、東から

神よ、どうかご慈悲を

 

何もかも以前とは違うんだ

廃棄された油が大洋や僕らの近海を汚し

魚は、水銀でいっぱいだ

 

ああ、何てことなんだろう

何もかも以前とは違うんだ

地下にも空にも放射能があり

近くに生息する動物や鳥が死んでゆく


ああ、なんてことなんだろう
何もかも以前とは違うんだ
この人間であふれた土地はどうなってしまうのか
男からの虐待にあとどれだけ女性は耐えられるというのだろう 

 

神よ、、神よ、、

(拙訳)

 

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 「1969年か1970年に、自分の音楽に何を言わせたいかというコンセプト全体を見直し始めたんだ。弟がベトナムから送ってくれた手紙にとても大きな影響を受け、同じように国内の社会情勢からも影響を受けたんだ。人々の魂に届くような曲を作りたいのなら、自分の空想は捨て去らなければならないと思った。いま世界で何が起こっているかを人々に見てもらいたかったんだ」

 マーヴィン・ゲイがこの時期の楽曲制作についてどう考えていたかを「ローリングストーン」誌に語ったときの言葉です。

 空想(Fantasy)を捨て去る、と言い切っているところが印象的です。

 

 そして、当時彼は精神的に不安定な状態だったのですが、その時期にカルロス・カスタネダが書いた「呪術師と私 ドン・ファンの教え」という本を教えられ、大きな影響を受けています。ネイティヴ・アメリカンの呪術師ドン・ファンが語ったという

「私にとって、旅とは心ある道を行く旅しかない。唯一挑戦する価値がある旅とは、その旅の全行程を終えることだ」

 という言葉を見つけ、音楽的な自分の道を模索しようと決意したと彼は語っています。

 そして、まわりの人たちからのインスピレーションや協力も得て、彼の創作はフォーカスが絞られていき、作り上げた曲が「ホワッツ・ゴーイン・オン」でした。

 

 

 「ホワッツ・ゴーイン・オン」を全く評価していなかったモータウンの社長ベリー・ゴーディに反対を押し切ってシングル発売にこぎつけると、曲は大きな反響をうけて大ヒット、驚いたベリーは一転し「ホワッツ・ゴーイン・オン」をタイトル曲としたアルバムを制作するようにマーヴィンに指示を出します。

 ただし30日間で完成させることが条件でした。シングルが勢いのあるうちにアルバムを売ってしまいたいと思ったのでしょう。この段階でも、ベリーは「ホワッツ・ゴーイン・オン」という曲を心から信じてはいなかったのかもしれません。

 

 そして、マーヴィンはベリーの要請よりも早く約10日でアルバムを作ったと言われています。「ホワッツ・ゴーイン・オン」という曲を制作する過程で、いままで彼の内側でグツグツ煮込まれていたさまざまなものが、彼の創作のモチベーションとして一気にスパークしたのだと、僕は捉えています。

 

 そのうちの1曲がこの「マーシーマーシー・ミー」で、「ホワッツ・ゴーイン・オン」の次のシングルとして全米チャート4位(R&Bチャート1位)というヒットになっています。

 

  「ホワッツ・ゴーイン・オン」は当時の社会情勢を反映させたコンセプトアルバムでしたが、この曲は直接、環境問題に切り込んでいます。今でもそういう歌は多くはないですが、当時ではかなりめずらしく、しかも曲のサブタイトルが「エコロジー生態学)」で、しかもそれが大ヒットしたというのはすごいことだと思います。

 

 この曲について彼はこう語っています。

 

「神はライフラインなんだよ。神は癒す者。神の名はマジック。神の模範は永遠だ。

神の希望は灯台の光。神といれば、恐怖も、死もない。神の模範に従わずに、搾取したり、欲深くなったりすると、僕たちは自分たちを滅ぼしてしまう。それが『マーシーマーシー・ミー(Mercy Mercy Me)』の歌わんとするところだ」

 (「マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル」)

 

 

 また、前述したカルロス・カスタネダが書いたドンファンの本を、じっくり読んで勉強したという彼は

 「生き方についての僕の考えは、非の打ち所のない戦士、ワインや女性、服やダイヤモンド、身につける高級品といった世俗的なものを必要としない人間になりたいということなんだ。そういったものにどんどん嫌いになって、時間と努力を注ぐのであれば、この地球が与えてくれる知識と力にのみ興味を持つようになりたい」

「 自然の法則に従うことにこそ、知恵と自由があるんだ」

                     (sounds 1976)

 などと発言しています。

 

 単なる環境問題を提議しているだけではなく、神の信仰や、ネイティヴ・アメリカンの思想などがこの曲には反映されている、ということなんですね。

 (ちなみに、カルロス・カスタネダ細野晴臣にも大きな影響を与えた人です)

 

 最後に、「ホワッツ・ゴーイン・オン」関連の作品について語るとき、どうしてもそのメッセージ性やマーヴィンの精神性ばかり語られるような気がして、それはもちろん当然なんですけど、僕はこのアルバムを聴くとき、なにより音楽性というか、もっと具体的にいえば彼の”ボーカル・ワーク”の素晴らしさに、真っ先に反応してしまいます。

ダイレクトに英語の歌詞が入ってこないせいかもしれませんが、、、(苦笑。

 

 そして、彼の伝記に僕はこういう発言を見つけました。

「ついに僕はどう歌えばいいかわかった感じがした。10年以上も僕はマイクの使い方を勉強してきた。そして突然、今まで僕はそれが間違っていたことに気づいた。僕はあまりに大声で歌いすぎていた。特にあのホイットフィールドの曲ではね。そう歌うのは簡単だった。ある夜、僕はホーン・プレイヤー、レスター・ヤングのレコードを聴いていた。それを聴いてぴんときた。リラックスするんだ。リラックスってことなんだ。そうすればすべてうまくいくんだ、ってね」

 (「マーヴィン・ゲイ物語 引き裂かれたソウル」)

 ホイットフィールドの曲というのは、「悲しいうわさ」や「Too Busy Thinking About My Baby」といった曲のことですね。

 テナー・サックス奏者の演奏を聴いて、自分の歌い方を見出したところがすごいですね。

 

 社会的な強いメッセージをこめた曲を、力を込めるんじゃなくてリラックスして歌っていることがすごく大事なポイントなんじゃないでしょうか。この「マーシーマーシー・ミー」でもそれが良くわかります。

 メッセージも精神性が音楽にこめることももちろんとても重要だと思いますが、それを”音楽として”人に届けるために自分にとって最も適した方法を見出だし、そこを徹底しているところがなにより素晴らしいと、僕は思うのです。

 

モントルーでのこの曲のライヴ。 

www.youtube.com

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