まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「リスペクト(Respect)」アレサ・フランクリン(1967)

 おはようございます。

 今日はアレサ・フランクリンの「リスペクト」。「ドック・オブ・ザ・ベイ」のオーティス・レディングの作品です。

 まずはオーティス・レディングのオリジナル(1965年)を最初に聴いてみましょう。


OTIS REDDING-respect

 

 ”お前の欲しいもの もう持ってるだろ?

  お前の欲しいもの ちゃんとあげただろ?

  オレが頼んでるのはさ、

     家に帰ったときはもうちょっとオレを尊重してくれよ

     なあ、おい、おい、おい

 

  ひどく扱えばいいさ そうしたいなら

  オレを悪く言えばいいさ オレがいない間なら

 でもオレが言ってるのは

  家に帰ったときくらい 少しは大事にしてくれよ

  なあ、おい、おい、おい

    

     なあ、かわいこちゃん、

  お前は蜂蜜よりもずっと甘くとろけるような女だ

  だから、お前にオレの金全部あげるつもりなんだよ

  でもさ、これだけは頼みたい

     家にいるときは、もうちょっとオレを尊重してくれ

 

     リスペクト、それがお前に望むもの

  リスペクト、してくれなきゃイヤなんだ

  リスペクト、してほしいんだ

  リスペクト、してくれなきゃイヤなんだ ”        (拙訳)

 

 世界中のあらゆる夫のシンパシーを集めそうな歌詞です。さすが、オーティス・レディング、人間の本質の芯をみごとに喰っていますね。

 

 そして、その2年後”キング・オブ・ソウル”のこの曲をカバーして、容赦無く”打ち返したのが”クィーン・オブ・ソウル”アレサ・フランクリンです。

 


Aretha Franklin - Respect [1967] (Original Version)

 ”あんたの欲しいもの わかってるわ

  あんたに必要なもの わかってるってば

  私が言いたいのは 家に帰って来たら私をすこしは大事にしてほしいってことよ

  ねえ、あんた 家に帰って来たらね 少しはね 旦那さん

 

 あなたがいない間も あなたのことを悪く言ったりしない

 悪く言わないわよ そんなことしたくないんだから 

 言いたいことはただ 少しは大事にしてってこと 家に帰って来たら

 ねえ、あんた 家に帰って来たら ねえ 少しでいいの 少しで

 

 私はあんたのために何だってするつもりだけど

 見返りもちゃんと求めるわよ 私に見合ったリスペクトよ

 あんたが家に帰って来たら 少しはね

 あんたが家に帰って来たら 少しはね

 

 ああ、あんたのキスは蜜より甘いわ

    で、いい? わたしのお金だってそう

 あんたにしてほしいことはただ

 帰って来たら それをちょうだい

 ベイビー、私にちょうだい あんたが帰って来たら

 

 リ・ス・ぺ・ク・ト

 それが私にとってどういうことかわかってよ

 リ・ス・ぺ・ク・ト ちゃんとやるべきことをやるのよ

 

 ちょうだい ちょうだい  ちょっとしたリスペクトを

 疲れちゃったけど もっと続けましょ

 あんたはもうバカじゃないわ 私も嘘はつかない

 帰って来たらリスペクトするのよ

 そうじゃないと 家に入ったら私がいなくなってることに気づくことになるわ

 私は ちょっとリスペクトされたいのよ ”    (和訳)

 

 完全に男より上手、ということで、オーティス、いや世界中の旦那が打ち負かされてしまいました、、、(苦笑。

 

 オーティスの曲を聴いてカバーしたいと思ったのはアレサ本人だったそうです。

 アレサのヴァージョンには”Sock It To Me"というオーティスのヴァージョンにはないフレーズが強いインパクトになっていますが、これは彼女が妹のキャロリンと二人でデトロイトの小さなアパートのピアノで一緒に歌っている時に思いついたそうで、当時女の子が普通に男子に対して使うスラングだったそうです。

 Give It To Meのような意味らしいですが、性的な意味でも使われるようになったので、この「リスペクト」を男女間の性的なものとする解釈も生まれたそうですが、アレサ曰く、まったく性的なものじゃなく、日常の決まり文句として使った、ということです。

 また、1960年代半ばから後半にかけては、キング牧師に象徴される”公民権運動”が盛んな時期だったので、この曲を女性としての社会的に当然な権利を主張する歌として拡大解釈されるようになりましたが、それはアレサ本人の意図とは違ったようです(あくまでも男と女の問題を歌っているのだと語っています)。

 しかし、作り手の意図を超えて聴き手が様々に解釈できるというのは、優れた作品だという証かもしれません。

 

 さて、オーティスのヴァージョンも全米最高35位、R&Bチャート4位というまずまずのヒットでしたが、アレサのヴァージョンは全米1位、R&Bチャートも1位になり、彼女を一躍時代の寵児にまで押し上げたほどの大ヒットになったのです。

 

 その彼女のブレイクを大きくバックアップしたのは、強力なバンド・サウンドでした。

 デトロイト出身の彼女は地元のモータウンを選ばず、大手のコロンビア・レコードでコンサバティヴなジャズ・テイストのシンガーとして活動しますが結局売れず契約を切られ、そこをアトランティック・レコードが声をかけます。

 アトランティックは本来彼女の持つソウルフルな歌唱を引き出すべく、アラバマ州の片田舎マッスル・ショールズにあるフェイム・スタジオで、スタジオのハウス・バンド

通称”マッスル・ショールズ・リズム・セクション”(ちなみに全員白人です)とレコーディングを行いました。

 フェイム・スタジオはまったくのインディペンデントだったのですが、そこから生み出されるサウンドが業界で評判になりアトランティックも頻繁に使うようになっていました。

 それまでの彼女は、前もってきちんとアレンジされた演奏に合わせて、コントロールしながら歌っていたのですが、フェイム・スタジオではメンバーとセッションしながらその場でアレンジするというスタイルに挑むことになりました。その、やり方とメンバーの力量が、彼女の中で眠っていた才能を引き出したのです。

 アレサ本人もフェイム・スタジオに行ったことが”人生最大のターニング・ポイント”だったと語っています。

 「リスペクト」の迫力のある生々しい演奏は、メジャー・レーベルでは作れなかったものだったのです。

 

    サウンド的には、オーティスのヴァージョンはブッカーT&MGs、アレサはマッスル・ショールズ・リズム・セクションと、この時代きってのR&Bバンドのサウンドを聴き比べできるのも楽しいことです。

 

 さて、アレサのヴァージョンが大ヒットして、オリジナルのオーティスはどうだったかというと、正直あまり気にってなかったようですが、潔く認めたようです。

 アレサがヒットした後、彼がモントレー・ポップ・フェスティバルでこの曲を歌っている動画がありますが、前説で

 ”この曲はある女の子(Girl)が僕から奪い取ったんだ”と言っています、、


Otis Redding - Respect (10/14)

 Girlといっても、アレサはオーティスのたった一歳下なだけですが、、。

   (ちなみに、このときアレサは25歳、オーティス26歳と若かったのですが、ともに配偶者はいました)

 

 僕がこの曲を思い浮かべたのは、自宅待機が続く中で夫婦の諍いや離婚が問題になっているというニュースを目にしたからで、相手を少しでも尊重することが必要とされているんだろうな、と思ったわけです。

 そして、オーティスとアレサのヴァージョンの違いのように、奥さんに押され気味くらいのバランスがちょうどいいんじゃないかと、、。

 

 この曲は男女の掛け合いで見てみたいところですが、アレサが大ヒットした年の年末にオーティスは亡くなってしまいましたので二人の共演は実現しませんでした。しかし、ライバル会社であるモータウンが自分たちのレーベルの看板グループを使ってちゃっかり掛け合いを実現させていました。

 

 

 


Diana Ross & The Supremes and The Temptations - Respect (Live on TCB, 1968)

 

貴方だけを愛して +3

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オーティス・ブルー

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