まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム( A House is Not a Home)」ルーサー・ヴァンドロス(1981)

 おはようございます。

 今日はルーサー・ヴァンドロスの「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム( A House is Not a Home)」です。

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A chair is still a chair
Even when there's no one sittin' there
But a chair is not a house
And a house is not a home
When there's no one there to hold you tight
And no one there you can kiss goodnight

 

A room is a still a room
Even when there's nothin' there but gloom
But a room is not a house
And a house is not a home
When the two of us are far apart
And one of us has a broken heart


Now and then I call your name
And suddenly your face appears
But it's just a crazy game
When it ends, it ends in tears


Pretty little darling, have a heart
Don't let one mistake keep us apart
I'm not meant to live alone
Turn this house into a home
When I climb the stairs and turn the key
Oh, please be there
Sayin' that you're still in love with me


I'm not meant to live alone
Turn this house into a home
When I climb the stairs and turn the key
Oh, please be there, still in love
I said, still in love
Still in love with me

Are you gonna be in love with me?
I want you and need you to be
Still in love with me
Say you're gonna be in love with me
It's drivin' me crazy to think
That my baby couldn't be still in love with me

 

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椅子は変わらず椅子のまま
たとえ誰も座る人がいなくても
だけど、椅子は家じゃない
そして、家は家庭じゃないんだ
強く抱きしめてくれる人がそこにいなければ
おやすみのキスをする相手がそこにいなければ

 

部屋は相変わらず部屋のままさ
たとえ、ただ薄暗いだけだったとしても
だけど、部屋は家じゃない
そして家は家庭じゃないんだ
二人の距離が遠く離れてしまったら
どちらかが傷ついてしまったなら


ときどき、僕が君の名前を呼ぶと
突然君の顔が現れるんだ
だけど、それはただの馬鹿げたゲーム
それが終わる時、涙で終わる


かわいいダーリン、
たった一度のミスで二人を引き離さないで
ひとりじゃ生きていけないんだ
この家を家庭にしよう
階段を登って鍵を回すと
ああ、どうかそこにいてほしい
まだ僕を愛していると言ってほしい


ひとりじゃ生きていけないんだ
この家を家庭にしよう
階段を上がって鍵を回すと
お願いだからそこにいて まだ愛してるって
僕は、まだ愛しているんだ
まだ僕を愛していると言って


君は僕を愛してくれるかい?
僕には君が必要なんだ
まだ僕を愛してほしいんだ
僕を愛していると言ってほしい
君がもう僕を愛していないと思うと気が狂いそうなんだ

                (拙訳)

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”ハウス”は”ホーム”じゃない。モノや器だけがあっても、そこに人や心がなければ意味がない、これはまさに至言だな、などと昔からふむふむ、と勝手にわかったような顔して愛聴してきた歌なんですが、調べてみると、もともとは売春宿を舞台にした映画の主題歌だったんですね。

 

「ハルとわたしが<ウォーク・オン・バイ>を書いた2、3ヶ月後、フェイマス・ミュージックからシェリー・ウィンターズの主演映画「禁じられた家<A House Is Not A Home>」の主題歌を5000ドルで書いてほしいという申し出があった。1920年代のニューヨークで名を馳せたマダム、ポーリー・アドラーの生涯を描いた映画である。ハルは、それが売春宿を描いたものだとは一瞬たりとも気づかせない、すばらしい歌詞を書き上げた」

 (「バート・バカラック自伝 ザ・ルック・オブ・ラヴ」)

 実在した売春宿のマダム、ポーリー・アドラーが引退後に書いた自叙伝のタイトルが「A House Is Not a Home」(1953年)で当時200万部を超えるベストセラーとなるほど有名だったため、映画化(1964年)もされた、ということだったようです。

 

 本は読んだことはありませんが、売春宿が舞台で、有名なマフィアとも交流があった人らしいので、この歌のようなロマンチックなものではないことは十分推測できます。

 

 ちなみに映画はYouTubeにアップされていて、オープニングでこの曲が使われていました。

 歌っていたのはブルック・ベントン。日本では1970年の「レイニー・ナイト・イン・ジョージア」で知られていますが、1960年代初め頃にもたくさんのヒット曲を出している人気シンガーでした。

 

 こちらがブルック・ベントンが歌う「ア・ハウス・イズ・ノット・ア・ホーム」(1964)

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 バカラックの自伝によると、ベントンは譜面どおりの音程で歌えないため、バカラックともめたあげくバカラックはスタジオから締め出され、音程が外れたまま完成してしまったようです。

 

 バカラックはその悔しさから、正しいメロディーのものを世に出そうとして、ディオンヌ・ワーウィックに歌わせ、ベントンと同じ月にリリースします。

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 結局、2つのヴァージョンが牽制しあって、ラジオのオンエアが分かれてしまったため、どちらもヒットせずに終わることになりました。

 

 しかし、曲のすばらしさはすぐに知れ渡っていったのでしょう、たくさんのアーティストがカバーしていきました。

 

 バカラック本人が気に入っているものの中には、彼のTVショーでダスティ・スプリングフィールドと歌ったものがあります。

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  1960年代、バカラックの楽曲はアメリカではディオンヌ・ワーウィックが、イギリスではダスティ・スプリングフィールドがメインになって世に広めていったわけですが、ダスティの歌うバカラックもやっぱりいいですよね。

 

 そして、バカラック本人が

「この曲を真の意味でのスタンダードにしてくれたのはルーサー・ヴァンドロスだ。わたしは彼のやったヴァージョンがベストだと思う」(「バート・バカラック自伝 ザ・ルック・オブ・ラヴ」)

 とまで語っていることもあって、今回はルーサーのヴァージョンを選ばせてもらいました。

 

 1981年リリースの彼のデビューアルバム「ネヴァー・トゥー・マッチ」の最後に収められています。1980年代R&Bの金字塔であるこのアルバムは、当時のニューヨークの最高のサウンドが聴ける作品でもありますが、この彼の圧倒的な名唱で終わることによって、名盤の風格をまとうことができているように思えます。

 もともと、彼に影響を与えたのは男性歌手ではなく、ディオンヌ・ワーウィックアレサ・フランクリンダイアナ・ロスといったシンガーなので、この曲の彼のヴァージョンも、アレサやメイヴィス・ステイプルズといった女性シンガーが歌ったものを参考にしたようにも思えます。

 ブルック・ベントンのヴァージョンのトラウマも、きっとルーサーの歌によって霧散したことでしょう。

 

 ハル・デヴィッドが書いた素晴らしい歌詞に触発されメロディをつけたバカラック本人が出来上がりに興奮したと語るほどの名曲が、十数年後にその曲に最もふさわしい歌い方に出会った、そう言えるのかもしれません。

 

 最後は、アリシア・キーズのカヴァーを。こちらはルーサーのヴァージョンの影響が大きく感じられます。そうやって歌は伝承されていくんですね、きっと。

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