まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ラヴィン・ユー(Lovin' You)」ミニー・リパートン(1974)

 おはようございます。

 今日はミニー・リパートンの「ラヴィン・ユー」を。最初の邦題の表記は「ラヴィング・ユー」でしたが、最近は「ラヴィン・ユー」のほうが多いですよね(当然ですね、原題が「Lovin' You」なんですから、、)。

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Lovin' you is easy 'cause you're beautiful
Makin' love with you is all I wanna do
Lovin' you is more than just a dream come true
And everything that I do is out of lovin' you
La la la la la la la la la la la la la la la
Do do do do do

No one else can make me feel
The colors that you bring
Stay with me while we grow old
And we will live each day in springtime
'Cause lovin' you has made my life so beautiful
And every day of my life is filled with lovin' you

Lovin' you, I see your soul come shinin' through
And every time that we, ooh
I'm more in love with you
La la la la la la la la la la la la la la la
Do do do do do

No one else can make me feel
The colors that you bring
Stay with me while we grow old
And we will live each day in springtime
'Cause lovin' you is easy 'cause you're beautiful
And every day of my life is filled with lovin' you
Lovin' you, I see your soul come shinin' through
And every day that we, ooh
I'm more in love with you
La la la la la la la la la la la la la la la
Do do do do do


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 ”あなたを愛することは簡単なこと だってあなたは美しいから

   あなたと愛し合うことだけが私の望むこと

     あなたを愛することは 夢を叶える以上のこと

   私のやること全ては あなた愛するがため

 

  他の誰も、私に感じさせることはできない

  あなたが運んでくれたこの音色を

  ずっと一緒に年を重ねていきたい

     そしていつも春のような毎日を生きていくの

 

 それは あなたを愛することで人生がすごく素晴らしくなったから

 そして、私の毎日が愛することで満たされる

 あなたを愛することで あなたの魂の輝きが射し込んでくるの

 一緒にいればいるほど もっと愛していくの  ”(拙訳)

 

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「ラヴィン・ユー」の楽譜はこちら

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    ミニー・リパートンはシカゴで生まれ育ち、15歳からThe Gemsというグループに参加し注目を集め、地元のブルース、R&Bの名門レーベル”チェス・レコード”でエタ・ジェイムズやチャック・ベリーなど著名なアーティストのバック・コーラスもやっていたそうです。

 そして1967年に、チェス・レコードから”ロータリー・コネクション”というグループのメンバーとしてデビューを果たします。

 ロータリー・コネクションのメンバーとして地元のナイト・クラブで歌っているミニー・リパートンに”一目惚れ”したのが、クラブのマネージャーだったリチャード・ルドルフです。

 そして二人は恋に落ちます。

 リチャードは正式の音楽は学んでいなかったのですが、ミニーがきっかけになって音楽にハマるようになり、ギターでオリジナル曲を作るようになりました。そのテープをミニーが、ロータリー・コネクションのプロデューサーであるチャールズ・ステップニー(のちにプロデューサーとしてアース、ウィンド&ファイアーのブレイクに大きく貢献します)に渡したことがきっかけで、リチャードはロータリー・コネクションの曲の歌詞をいくつか書くようになりました。

 

 1970年にミニーはアルバム「カム・トゥ・マイ・ガーデン」でソロデビューを果たします。プロデュースはチャールズ・ステップニーで、リチャードもソングライターとして深く関わりました。

 このアルバムにはリチャードが作ってミニーがこっそりチャールズに聴かせたという曲も収録されています。タイトル曲の「カム・トゥ・マイ・ガーデン」です。


Minnie Riperton - Come to my garden

 

  子供が生まれ二人目も妊娠していたミニーとリチャードは、子育てを優先したいという彼女の希望でシカゴを出て暮らすことを決意します。移住先を探して彼らはフォードのバンに乗ってアメリカ中を旅したそうです。

 そして温暖な気候を気に入って彼らはフロリダに住むことに決めます。

 チャールズは週末にラジオ局のDJをやったり、花を売る仕事や「便利屋」の広告を出していろんな仕事を請け負いながら、ミニーと曲を作っていたそうです。

 そんなとき、ミニーがフロリダに住んでいるという情報をつかんだレコード会社の関係者が会いにきて彼らの曲を聞いたことがきっかけで、レコード契約を結ぶことになります。

 レコード会社の人間から誰にプロデュースしてほしいか尋ねられた彼女はスティーヴィー・ワンダーの名前を挙げたそうです。

 彼女のマネージャーの知り合いを介して、スティーヴィーにコンタクトすると、彼はミニーのファンでもあったらしく、すぐに自分のスタジオに来るように言われます。

 スタジオに到着すると彼女はスティーヴィーがちょうど作業中だった曲にバックコーラスを入れることになったそうです。

 それが「Creepin'」です。


Creepin'

 ミニーからのプロデュースの依頼もスティーヴィーは是非やりたいと答えたそうですが、モータウンとの契約の関係でクレジットは出さず、別名でやることになりました。

 

 スティーヴィーがプロデュースをしたうちのひとつにこの「ラヴィン・ユー」もありました。

 これはもともと彼らの二人の子供達に向けられた子守歌でした(この曲のアルバム・ヴァージョンのエンディングでは彼女の下の子供である”マーヤ”の名前を呼びかけるように歌っています、シングル・ヴァージョンのエンディングでも若干聴こえますが)。

 

 ミニーがメインのメロディを書き、リチャードがブリッジのメロディと歌詞を書いたそうです。

 

 当初はバンド・アレンジで、3〜4ヴァージョン録音されました。そのうちの一つがこちら。


Minnie Riperton - Lovin' You (Alternate Band Version / Audio)

 

 僕の印象ですが、”リアルタイムではヒットせずに、1990年代になってロンドンのクラブのDJたちに再発見され人気になる音源”という感じがします。

 

 スティーヴィーも出来上がりに納得できなかったようで、最初のデモをもう一回聴いてみよう、と提案します。それは、チャールズのギターにミニーが歌っているだけのシンプルなものでした。

 

「この感じで行ってみよう」スティーヴィーはそう提案します。

 

   しかし、スティーヴィーのバンドのギタリスト、マイケル・センベロ(1980年代に映画「フラッシュダンス」で使われた「マニアック」を大ヒットさせましたね)がちょうど手首の手術をしたばかりでギターが弾けない状況もあって、スティーヴィーはチャールズにデモと同じ感じで弾くようにリクエストしたそうです。

 チャールズが弾き終わるとスティーヴィーが自らフェンダー・ローズのパートをダビングすると、もうそれで素晴らしい出来上がりになったそうです。

 

 そして、ミニーたちの自宅に戻って録音したものを全員で聴き直している時に、窓の外から鳥の鳴き声が聞こえてきたそうで、

 

それを聞いたスティーヴィーは「鳥の声を入れよう」と発案します。

 

 そして彼らは鳥の鳴き声を録音するためにUCLA植物園に行きます。ちなみにミニーは鳥たちの鳴き声を誘うために、自分でもハイトーンの声を出して呼びかけたそうです。

 

 黒人のシンガーでベースとドラムが入ってない曲というのは前代未聞だったと思いますから、「ラヴィン・ユー」をシングルにしたいというミニーたちの希望は当初退けられたそうです。

 

 その後、彼らは様々なアーティストの前座としてライヴをやっていたそうですが、ある吹雪の寒い夜にミニーがステージ上からお客さんに前の方に集まるように声をかけ「ラヴィング・ユー」を歌い始めると、お客さんがみなお互いを温め合うように体を寄せ合い腕を回しあったのだそうです。

 

 この曲には何か特別なものがあると確信した彼らは、後日スタジオに行き、バンドのキーボードに頼んで、シンセサイザーでストリングス・パートを新たにダビングしました。

 

 そして、この曲は無事にシングルとしてリリースされると全米1位の大ヒットになったわけです。

 

 「ラヴィン・ユー」はミニーとリチャードが子供たちのために書いた本当にピュアなものでした。そして、スティーヴィー・ワンダーは自分の世界には引き込まずに、彼らの世界観を最大限に生かす絶妙なアイディアとアレンジを加えることで(リチャードにギターを弾かせ、それをサポートするようなローズを弾き、鳥の声を重ねた、、)それまでのポップ・ミュージックでは聴いたことのないような雰囲気を持つ作品ができあがったわけです。まさに”奇跡の1曲”と言っていいでしょう。

 

 ミニー・リパートン残念ながら1976年に乳がんを発症し、1979年に31歳という若さで亡くなってしまいます。

 彼女の碑銘にはこの曲の

 ”LOVIN' YOU  IS EASY  'CAUSE YOU'RE BEAUTIFUL"

 という冒頭の歌詞が刻まれています。

 

 

最後に、自分の子供”マーヤ”に呼びかける彼女の歌声がしっかり聴けるアルバム・ヴァージョンを。

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 「ラヴィン・ユー」収録のアルバム「パーフェクト・エンジェル」に、シングル・ヴァージョン、バンド・ヴァージョンなどレアトラックをプラスした二枚組。

 

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