おはようございます。
今日もグレン・キャンベル。「ウィチタ・ラインマン」。僕の大好きな曲です。
Wichita Lineman (Remastered 2001)
I am a lineman for the county
And I drive the main road
Searchin' in the sun for another overload
I hear you singing in the wire
I can hear you through the whine
And the Wichita lineman
Is still on the line
I know I need a small vacation
But it don't look like rain
And if it snows that stretch down south
Won't ever stand the strain
And I need you more than want you
And I want you for all time
And the Wichita lineman
Is still on the line
And I need you more than want you
And I want you for all time
And the Wichita lineman
Is still on the line
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”オレはこの郡の架線作業員 幹線道路を運転しながら
太陽に照らされて 不具合がないかチェックしている
君の歌が聞こえる 電線を通して ひゅうっという風の音にまぎれて
ウィチタの架線作業員はまだ作業中さ
短い休みでもとったほうがいいんだろうな
でも雨は降りそうもないし もしこっちに雪が降ったりしたら
電線は重みに耐えられないだろう
君が欲しいというより、君が必要さ いつだって君が恋しい
でも、ウィチタの架線作業員はまだ電線の上”
君が欲しいというより、君が必要さ いつだって君が恋しい
ウィチタの架線作業員はまだ電線の上”
(拙訳)
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日本では昔「電線音頭」って大ヒットしましたけど、電線の作業員が主人公の歌が、しかもそれが”労働歌”でもなくラヴ・ソングのスタンダードとして長く愛されているというのは、かなりめずらしいことでしょう。
ウィチタは地名。アメリカのほぼ真ん中に位置する、カンザス州最大の都市です。
フェニックス、アルバカーキ、オクラホマと具体的な都市名を歌詞に入れた「恋はフェニックス」が大ヒットしたグレン・キャンベルは、作者のジミー・ウェッブに、次のヒットを狙って、また都市の名前の入った曲を作って欲しいと連絡をしてきたそうです。
そして、その日の午後にこの曲を書いたといいます。彼が特定のシンガーに向けて曲を書いたのはこの時が初めてだったといいます。
彼のイメージには以前オクラホマを車で走っている時に見た電線作業員の姿があって、そのとき作業員は電話を手にしていたそうで、誰と話しているのだろう?ガールフレンドだろうか?などとイメージが膨らんだのだそうです。
グレンはレコーディングを急いでいたらしく、一時間おきに”まだか?”と催促してきたそうで、仕方がないのでジミーは曲の3番が出来上がっていないまま、この曲で決定になって最後まで仕上げる必要があればやるから言ってくれ、と伝えたそうです。
しかし連絡がこないまま数週間後にグレンにあった時に聞いたら、「もうレコーディングしちゃったよ」と答えたんだそうです。
この歌、本来は3番があったはずだったんですね。。。
しかし、グレンと長い付き合いの凄腕ミュージシャン”レッキング・クルー”によって、そんなことを全く感じさせない仕上がりになっています。
特に、冒頭のベース・ラインが印象的で。”レッキング・クルー”のベーシストのキャロル・ケイがその場で考えたそうですが、数え切れないほどのヒットレコードで演奏してきた彼女自身の中でも、最も気に入っているもののひとつなのだそうです。
ヒット曲にはいろんな都市の名前が出てきますが「ウィチタ」なんて他に聞いたことはないですし、電線の作業員の歌なんて本当にレアなのに、アメリカ国民に広く長く愛されています。
かつてビリー・ジョエルはこの曲について語っていて、それがジミーにとって核心を突いた言葉だったといいます。
”「ウィチタ・ラインマン」は本当にありふれた考えを持った普通の男について簡潔に歌った歌なんだ”
そして、それこそが彼がやってきたこと、これからもやろうとしていることだと思ったそうです。労働者階級に属する普通の男の歌。
カンザス州ウィチタの電線作業員というものすごく具体的な設定の歌にすることで、かえって、あらゆる都市のいろんな業種の労働者階級の人々の心情に”通底する”ことになるんですね。
(日本でもご当地ソング「長崎は今日も雨だった」「函館の女」が地元や、その土地を訪れたことのある人にだけ愛されている、なんてことないですしね)
日々地道な仕事に従事している多くの人たちにも、愛する人がいて大事な生活がある、そういうことへのささやかな誇りを持たせてくれるような歌なんでしょう。そして、ポップス、ポピュラー・ソングというのは本来そういう不特定多数の”普通の人たち”のために従事するものかもしれません。
これだけの名曲になると、カバーも多いのでいくつか紹介します。
ジェイムス・テイラー。2008年の「Covers」から。
作者ジミー・ウェッブの2010年のアルバム「Just Across River」から。ビリー・ジョエルが参加しています。
Wichita Lineman (feat. Billy Joel & Jerry Douglas)
歌詞に重きを置いて紹介しましたが、メロディーも素晴らしいことがわかるインスト・ナンバーを。盲目のギタリスト、ホセ・フェリシアーノのヴァージョン。
Jose Feliciano - Wichita Lineman
このブログでも紹介しました「アム・アイ・ザ・セイム・ガール」のオケを使った「ソウルフル・ストラット」で有名なヤング・ホルト・アンリミテッドもカバーしています。
the Young Holt Unlimited Wichita lineman
グレン・キャンベルはLAの凄腕スタジオ・ミュージシャン"レッキング・クルー”のスーパー・ギタリストとしてキャリアを磨いた後、歌手として大成功したわけですが、他に俳優としても数多く映画に出演し、自分がメインのTVショーを持つなど司会業もお手の物でした。まさに”芸能の申し子”だったんですね。
そんな彼が2011年にアルツハイマーを発症し、その後の彼を”容赦無く”撮影した映画が「アルツハイマーと僕 グレン・キャンベル音楽の奇跡(原題 I'll Be Me)」です。
大事な人の記憶さえなくして、彼からいろんな能力が剥ぎ取られていくのに、歌とギターの技量だけがしぶとく彼の中に残っていく様子がはっきり伝わってきて、なんとも言えない気持ちにさせられる作品でした。
最後は、グレンとジミーの貴重な共演ヴァージョン。
Glen Campbell and Jimmy Webb: In Session - Wichita Lineman
ジミー・ウェッブの傑作