まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ラインストーン・カウボーイ(Rhinestone Cowboy)」グレン・キャンベル(1975)

 おはようございます。

 今日はグレン・キャンベルの全米NO.1ヒット「ラインストーン・カウボーイ」を。


Glen Campbell Rhinestone Cowboy

 

 ”この辺りの通りをずっと歩き続けている

   いつもの古い歌を口ずさみながら

   ブロードウェイの汚い歩道のひびならひとつひとつ知ってるよ

   詐欺がゲームの名前になり

      いい奴らが雪や雨のように洗い流されてしまう場所さ

      俺が目指す道の途中には たくさんの妥協があった

   だけど、俺をライトが照らし出してくれる場所を目指す んだ

 

   ラインストーン・カウボーイみたいに

   星(星条旗)を飾った馬でロデオに登場するのさ

   ラインストーン・カウボーイみたいに

   見ず知らずの人たちからカードや手紙をもらったり

   電話でオファーをもらうんだ

 

      雨が降っても全然平気だし

   辛いことは全部笑顔で隠せるよ

   でも、君がこんなに長い間列車に乗っていたら、うんざりするよね

      僕は地下鉄のトークンと1ドルを靴の中に入れて

   将来を夢見ているんだ

      俺が目指す道の途中には たくさんの妥協があった

   だけど、俺をライトが照らし出してくれる場所を目指すんだ

 

   ラインストーン・カウボーイみたいに

   星(星条旗)を飾った馬でロデオに登場するのさ

      ラインストーン・カウボーイみたいに

   見ず知らずの人たちからカードや手紙をもらったり

   電話でオファーをもらうのさ                                     ”(和訳)

   

  

*****************************

I've been walkin' these streets so long
Singin' the same old song
I know every crack in these dirty sidewalks of Broadway
Where hustle's the name of the game
And nice guys get washed away like the snow and the rain
There's been a load of compromisin'
On the road to my horizon
But I'm gonna be where the lights are shinin' on me

Like a rhinestone cowboy
Riding out on a horse in a star-spangled rodeo
Like a rhinestone cowboy
Getting cards and letters from people I don't even know
And offers comin' over the phone

Well, I really don't mind the rain
And a smile can hide all the pain
But you're down when you're ridin' the train
That's takin' the long way
And I dream of the things I'll do
With a subway token and a dollar tucked inside my shoe
There'll be a load of compromisin'
On the road to my horizon
But I'm gonna be where the lights are shinin' on me

Like a rhinestone cowboy
Riding out on a horse in a star-spangled rodeo
Rhinestone cowboy
Gettin' cards and letters from people I don't even know
And offers comin' over the phone

Like a rhinestone cowboy
Riding out on a horse in a star-spangled rodeo

Like a rhinestone cowboy
Gettin' cards and letters from people I don't even know

****************************

 

 ”ラインストーン”は服や帽子などを飾る模造宝石のことで、それをまとっているということは本物のカウボーイではないんですね。特にカントリー・シンガーが好んで着る衣装にはラインストーンがほどこされているんです。

 

 この曲を書いたラリー・ワイスという人も、カントリー畑の人ではありません。ニュージャージー生まれでニューヨークのクィーンズで育ち、ニューヨークで作曲家として活動していました。彼が師事していたのがウェス・ファレル。ビートルズがカバーしたシュレルズの「BOYS」などを書いた人です。ラリーはナット・キング・コールやシュレルズにも曲を書いていたそうです。

  この人の曲で僕が最も注目したいのは、ジェリー・ロス(このブログにも何度も登場しているプロデューサー。山下達郎が敬愛していることでも知られています)と共作した、ジェリー・バトラーの「ミスター・ドリーム・マーチャント」です。これはR&Bバラードの傑作だと思います。


Mr. Dream Merchant

 彼は1971年にニューヨークからロサンゼルスに引っ越し、「ムーン・リバー」や「ゴッド・ファーザー 愛のテーマ」など数々の映画主題歌の出版を管理する”フェイマス・ミュージック”の専属ライターになったようです。

  そして1974年にシンガー・ソングライターとしてアルバムを制作し(リー・スクラー、リック・マロッタ、ジム・ケルトナー、ディーン・パークスなど錚々たるミュージシャンが参加しています)、そこからのシングルになったのがこの「ラインストーン・カウボーイ」でした。

 彼がある時「ラインストーン・カウボーイ」という言葉をふと耳にしたときに、これは歌のタイトルにいい、と思い、自分が子供の頃に見たカウボーイ映画のヒーローを思い浮かべながら作ったのだそうです。


Rhinestone Cowboy

  アダルトコンテポラリー・チャートで最高24位とセールスは”おとなしい”結果に終わりましたが、この曲をラジオで聴いて”一目惚れ”したのがグレン・キャンベルでした。

 この曲のカセットをすぐに手に入れて、オーストラリア・ツアー中聴き続け、ロサンゼルスに帰ってくるとレコード会社の人間に話してすぐにレコーディングに入りました。

 (ちなみに「恋はフェニックス」も彼がラジオで聴いて、自分が歌えばヒットすると思って取り上げたものでしたね)

popups.hatenablog.com

 

 彼は、1960年代後半にジミー・ウェッブの作った「恋はフェニックス」、「ウィチタ・ラインマン」、「ガルヴェストン」などの大ヒットでスターの座をつかんだのですが、70年代に入ると大きなヒットを出せずにいました。

 この曲はそんな当時の彼を強く動かしました。

 スタジオ・ミュージシャンとして”裏方”で長い下積みを続け、30歳過ぎてからまさに”キラキラの衣装”を着る大スターになった彼は「ラインストーン・カウボーイ」を”自分の自伝が入れ込まれた歌”だと思ったそうです。

 

 ”最適な”歌手と巡り合った「ラインストーン・カウボーイ」は、1975年を代表する特大ヒット(ビルボード年間チャートでは、キャプテン&テニールの「愛ある限り」に続く第2位)になり、グレン・キャンベルも見事に”復活”を果たすことになりました。

 

 それから、この曲のプロデューサーはニューヨーク出身のデニス・ランバートとイギリス出身のブライアン・ポッターのコンビ。都会的なR&Bフィーリングのあるポップスを得意とする人たちでした。

   シンガーも、曲を書いた人も、曲をアレンジしてプロデュースした人も、誰一人カントリー畑で仕事をしてきた人間がいないんです。まさに、”虚飾のカウボーイ”の歌にふさわしい布陣で作られたといえるでしょう。

 (ラリー・ワイス箱の曲の大ヒットの後、ナッシュビルに移って、こういう感じの曲を主に提供し続けたようですが)

 

 「最初にグレン・キャンベルを聴いた時にはちょっと王道すぎるかな、と思ったけど、その後、とても精巧に作られた作品だということに気づいたんだ。彼は本当に歌がうまいし偉大なギタリストだ。年をとるとともにどんどんその音楽にはまっていって、そういう音楽の影響を受けたレコードを作りたいと思うようになったんだ」

 

 こう語っているのはブルース・スプリングスティーン。彼はグレン・キャンベルや、彼の曲を書いたジミー・ウェッブの影響が色濃く出たアルバム「ウェスタン・スターズ」を作っています。そして、その収録曲すべての演奏シーンと、その合間に曲に込めた彼の思い(精神的なさまざまな困難と格闘し続けてきたことがわかるすばらしいものです)を入れた映画「ウェスタン・スターズ」 が昨年公開され、その最後で彼がこの「ラインストーン・カウボーイ」を歌っています。

 

 スプリングスティーンもまた曲の作者のラリー・ワイス同様ニュー・ジャージー出身で本来カントリーには縁のない育ちの、いわば都会から来た”カウボーイに憧れる男”なわけです。

 そんなことを考えていたら、都会と田舎、本物と偽物が同居するような、ラインストーン(虚飾の)カウボーイ、というのはアメリカという国を表すのには、実に”芯を食った”表現だったのかもしれない、とも思いました。 

www.youtube.com

f:id:KatsumiHori:20201019101029j:plain