まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ダンシング・イン・ザ・ダーク(Dancing In The Dark)」ブルース・スプリングスティーン(1984)

 おはようございます。

 今日はブルース・スプリングスティーンの「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を。


Bruce Springsteen - Dancing In the Dark (Official Video)

 

 "  夕方になって起き出して 言うことなど何もない

    家に帰るのは朝 いつも同じ気分でベッドに潜り込む

    オレはただ疲れているだけさ ただ疲れて自分自身にうんざりしているんだ

    ヘイ、そこにいるベイビー、ほんのちょっとでいいから助けてくれないか

 

 火はつけられないんだ 火花がなければ火はつけられないものさ

 そのためにこの銃を貸してやるよ

 たとえオレたちは暗闇で踊っているだけだとしても

 

 メッセージがだんだんクリアになってゆく

 ラジオをつけたまま オレは部屋を歩き回る

  鏡で自分の姿をチェックする

    この服も、髪型も、顔も全部変えてしまいたい

  どこにもたどりつけやしないんだよ

  オレはこんな薄汚れたところで生きているんだ

  どこかで何かが起こっている 

  ベイビー、オレにはそこまでしかわからないんだ

 

     火はつけられないんだ 火花がなければ火はつけられないものさ

  そのためにこの銃を借りればいい

  たとえオレたちは暗闇で踊っているだけだとしても

 

     ただ座っているだけで年をとってゆく

     これはこのへんで言われているジョークで、オレのことだよ

  オレの肩にのしかかるこの世界を振り落としてやるさ

  さあ、ベイビー、笑ってくれよ

 

  この街の通りにずっといたら ヤツらはお前を切り刻んでしまう

  ハングリーでいろとヤツらは言う ヘイ、ベイビー オレは飢え死にしそうなんだよ

 

  オレはなにか行動したくてどうしようもないんだ

  ここに座って何か書こうとするのにはうんざりなんだよ

  ほしいのは愛のあるリアクション

     さあベイビー 一目だけでも見てくれよ

 

  火をつけることはできない 

  ただ座ったまま傷ついた心を哀れんで泣くだけじゃ

     この銃を借りればいい

     たとえオレたちは暗闇で踊っているだけだとしても

      火をつけることはできない

     自分のちっぽけな世界が崩れ落ちてしまわないかくよくよ悩むだけじゃ

  この銃を使えばいい

 たとえオレたちは暗闇で踊っているだけだとしても  "  (拙訳) 

 

     

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I get up in the evening
and I ain't got nothing to say
I come home in the morning
I go to bed feeling the same way
I ain't nothing but tired
Man I'm just tired and bored with myself
Hey there baby, I could use just a little help

You can't start a fire
You can't start a fire without a spark
This gun's for hire
even if we're just dancing in the dark

Message keeps getting clearer
radio's on and I'm moving 'round the place
I check my look in the mirror
I want to change my clothes, my hair, my face
Man I ain't getting nowhere
I'm just living in a dump like this
There's something happening somewhere
baby I just know that there is

You can't start a fire
you can't start a fire without a spark
This gun's for hire
even if we're just dancing in the dark

You sit around getting older
there's a joke here somewhere and it's on me
I'll shake this world off my shoulders
come on baby this laugh's on me

Stay on the streets of this town
and they'll be carving you up alright
They say you gotta stay hungry
hey baby I'm just about starving tonight
I'm dying for some action
I'm sick of sitting 'round here trying to write this book
I need a love reaction
come on now baby gimme just one look

You can't start a fire sitting 'round crying over a broken heart
This gun's for hire
Even if we're just dancing in the dark
You can't start a fire worrying about your little world falling apart
This gun's for hire
Even if we're just dancing in the dark
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 これはスプリングスティーンが自身のレパートリーの中で”おれの曲の中では極めてよくできた王道のポップソング”、”ポップ・ミュージックのメインストリームのもっとも遠くまで行った”ものだと語っている曲です。

 当時全米チャートで自身最高の2位まであがり、現在でもYouTubeの動画再生回数やSpotifyの再生回数も1位になっていますので、スプリングスティーンの世界で一番人気のある曲だと言い切ってもいいのでしょう。

 

 確かに彼の曲の中では異例なほど、軽快でポップな感じはありますが、歌詞を読むと思いの外、陰鬱なトーンであることに驚かされます。

 

 これは、この曲の成り立ちに理由があるようです。

 

 この曲は彼の最大のヒットアルバム「ボーン・イン・ザ・USA」からの最初のシングルですが、作られたのは一番最後でした。

 アルバムの曲は一通り出来上がったあとになって、彼のマネージャーであり、プロデューサーでもあるジョン・ランダウからの要請で書かれたものだったのです。

 

「ある日の午後、ジョン・ランダウがニューヨークのホテルにおれを訪ねてきたときに”霊感を受けて”生まれた。ジョンはおれに、アルバムをずっと聴いていたがシングルらしい曲がない、と言った。火にガソリンをかけるような一曲が。それはもっと仕事をしろということだったが、さすがのおれも、仕事だけはもうしたくなかった。穏やかにジョンと言い合いをし、別の曲が必要だと思うなら自分で書けばいい、と言った。

 その夜、おれは「ダンシング・イン・ザ・ダーク」を書きあげた。自分の疎外感と疲労と願望を歌った曲、スタジオからも部屋からもアルバムからも逃げ出して・・・人生を楽しみたいという曲だ。」

        (「ボーン・トゥ・ラン ブルース・スプリングスティーン自伝」)

 

 このアルバムのために彼はすでに70曲も書いていたそうです。相当疲弊していたはずで、ジョンの言葉に逆上しても仕方がないでしょう。

 

 レコーディングが終わって朝ホテルの部屋に戻り、夕方起きてスタジオに向かう。

ホテルにいるときは眠るか曲を書くか、そんな日々が延々と続いていたわけで、歌詞にそれが直接反映されています。

 疲れて、追い込まれて、自暴自棄になったり自虐的になっている、彼の心境が包み隠さずぶつけられています。

 

 ジョン・ランダウが言ったという”火にガソリンをかけるような”と言う表現が、彼の頭の中に残っていたのでしょう。

 そうは言うけれど、まず火がついていなければガソリンは役に立たないわけで、そこから”火花がなければ火はつかないんだよ”という歌詞につながったのかもしれません。

 火花=スパーク(Spark)は”ひらめき”と言う意味もあります。ですから、何かひらめきがなければ曲なんて書けないんだ、という風に読み取ることができる気がします。

 

 そして"This Gun's For Hire”=この銃は貸し出しできる、というフレーズから、火花を起こすのにこの銃の力を借りれるぜ、という風に受け取れます。

 ちなみに"This Gun's For Hire”は、アメリカの古い犯罪映画に「This Gun For Hire」(邦題は「拳銃貸します」1942年)というのがあるのですが、”殺し屋”(Hired Gunとも言うようです)を指す言葉でもあります。

 

 

  また、この「ダンシング・イン・ザ・ダーク」というタイトルは、フレッド・アステア主演のミュージカル映画の大定番「バンド・ワゴン」の主題曲でアメリカン人にはよく知られているものです。

 古き良きアメリカのハッピーなミュージカル曲と同じタイトルで、フラストレーションが爆発しそうな若者の歌にしているわけです。

 

 かなり追い込まれた心境で曲を書いていたはずなのに、巧みに引用を交えて作家的な表現にしっかり落とし込んでいるわけですね。

 

 そして、この曲もまた、このブログで数多く登場している”短時間で書かれた大ヒット曲”のひとつということになるのかもしれません。

 

 この曲の発売前、シングルの見本盤ができあがったばかりのとき、彼は地元の行きつけのクラブに行ってこっそり店のダンスフロアで流してもらったと言われています。そして、この曲に合わせてお客さんが大盛り上がりするのを見て、彼はこの曲をシングルにしたのは間違いなかったと確信したそうです。

 

 

 さて、今年公開された「カセットテープ・ダイアリーズ(Blinded By The Light)」と言う映画は、イギリスに住むパキスタン移民の若者がスプリングスティーンの歌に出会って人生が変わってゆくというものでしたが、主人公が最初に聴いて衝撃を受けたのが、この「ダンシング・イン・ザ・ダーク」でした。


ブルース・スプリングスティーンの音楽との衝撃的な出会い!映画『カセットテープ・ダイアリーズ』本編映像

 まあ彼の1番のヒット曲だしなあ、ぐらいに僕は思っていたのですが、この曲のプロフィールを知ると、わかりやすい曲調に彼自身の切羽詰まったリアルな心情がダイレクトに反映されていて、それが聴き手にダイレクトに伝わりやすくさせているのかもしれないと思いました。

 

 彼はロック界の”アメリカ代表”みたいなイメージが強いんじゃないかと思うのですが、その長いキャリアを通して一貫して、現実に打ちのめされることの多い社会的弱者を楽曲で描き、その閉塞し挫折しそうな心を鼓舞させ続けてきたわけで、そういうことは、国や人種を超えて心の芯の部分に響くんだなあと、僕は映画を見て思いました。

 十代の頃の僕もその一人だったのですが。

 

 

 

 

 

 

 

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