まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン(Tears Dry on Their Own)」エイミー・ワインハウス(2007)

 おはようございます。

 今日はエイミー・ワインハウスの「ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン」です。


Amy Winehouse - Tears Dry On Their Own

 

 ”あなたにとって私は 暗闇にしかなれないのね

  こんな後悔にも慣れてきた

  二人が最高潮だったころは すべてうまくいっていた

  夜ホテルであなたを待ちながら 運命の人じゃないとわかっていた

  だけど つかの間会うたびに  なぜだかすごく離れられなくなる

  それは私の責任 あなたは私に借りなんてない

   だけど立ち去ってゆくなんて 耐えられそうもないわ

 

      彼は立ち去って 太陽が沈んでゆく

   彼は1日を使ってしまうけど そのかわり私は成長するの

   あなたの邪魔しながら 青い夕闇の中で

   涙は勝手に乾いてゆく

  

   私にはわからない どうしてその男を強く思ってしまうのか

   他に大事なことはいくらでもあるのに

   全部を手にすることなんてありえなかった

      壁にぶつかるしかなかった だからこれは避けられない撤退だったの

   たとえあなたを求めることをやめて 前途がひらけてきても

   私はすぐに誰かの不倫相手になるわ

   また自分を欺くなんてできない

   自分自身が自分の一番の友達になるべきなの

   バカな男のことを考えながら満足するんじゃなくてね

 

      彼は立ち去って 太陽が沈んでゆく

   彼は1日を使ってしまうけど そのかわり私は成長するの

   あなたの邪魔しながら 青い夕闇の中で

   涙は勝手に乾いてゆく

 

      だから私たちはもう終わったの

   あなたの影が私を覆う   空は燃えるように輝く

 

   彼は立ち去って 太陽が沈んでゆく

   彼は1日を使ってしまうけど そのかわり私は成長するの

   あなたの邪魔しながら 青い夕闇の中で

   涙は勝手に乾いてゆく

 

   後悔だとか 負債感だとか 

   これからそんなことを歌にしたくない

    だって、二人がサヨナラのキスをしている間に日が沈んだから

 

   だから私たちはもう終わったの

   あなたの影が私を覆う   見上げた空には恋人たちだけが見る光

 

  彼は立ち去って 太陽が沈んでゆく

    彼は1日を使ってしまうけど そのかわり私は成長するの

    あなたの邪魔しながら 青い夕闇の中で

    涙は勝手に乾いてゆく

 

       彼は立ち去って 太陽が沈んでゆく

    彼は1日を使ってしまうけど そのかわり私は成長するの

    あなたの邪魔しながら 私の深い闇の中で

     涙は勝手に乾いてゆく     ”    (拙訳)

 

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All I can ever be to you is a darkness that we knew
And this regret I got accustomed to
Once it was so right
When we were at our height
Waiting for you in the hotel at night
I knew I hadn't met my match
But every moment we could snatch
I don't know why I got so attached
It's my responsibility
You don't owe nothing to me
But to walk away, I have no capacity

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  In this blue shade
My tears dry on their own

I don't understand
Why do I stress the man
When there's so many bigger things at hand?
We could've never had it all
We had to hit a wall
So this is inevitable withdrawal


Even if I stop wanting you
And perspective pushes through
I'll be some next man's other woman soon
I cannot play my self again
I should just be my own best friend
Not fuck my self in the head with stupid men

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  In this blue shade
My tears dry on their own

So we are history
Your shadow covers me
The sky above ablaze

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  In this blue shade
My tears dry on their own

I wish I could sing no regrets
And no emotional debt
'Cause as we kissed goodbye, the sun sets


So we are history  Your shadow covers me
The sky above ablaze That only lovers see

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  In this blue shade
My tears dry on their own

 

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  My deep shade
My tears dry on their own

He walks away  The sun goes down
He takes the day, but I'm grown
And in your way  My deep shade
My tears dry

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  2003年にデビューし、わずか二枚のアルバムを残しただけで27歳の若さで他界してしまったエイミー・ワインハウスですが、彼女はその短い期間でシーンに大きな影響を与えています。

 アデルはエイミーのファースト・アルバム「フランク」を聴いていなかったら今の自分はいなかったと語り、レディ・ガガは「私が売れ出した頃、彼女が唯一の希望だった」と彼女への敬意をことあるごとに示しています。

 (エイミーはアデルの存在を脅威に感じていたと証言する人もいるようですが)

 

 異端でありながら、その個性を貫くことでしか、今の時代で突き抜けた存在になることはできないように思いますが、それは想像を絶するタフなことのような気がします。

 エイミーがその道を切り開いたことが、アデルやガガの大きなブレイクを導いたという面は間違いなくあったように僕は思います。

 

 さて、この「ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン」でサンプリングされているのはマーヴィン・ゲイとタミー・テレルの「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」です。

 


Ain't No Mountain High Enough

 「どんな山だって川だって 僕らの愛は超えられるさ」と

歌う”至福のラヴ・ソング”のトラックを引っ張り出して、そこに、壁にぶち当たった愛人関係の歌を載せるというのは、なんとも皮肉な話ですが、オリジナルをこよなく愛する僕が、エイミーのヴァージョンに不思議な説得力を感じてしまいました。

 

 調べてみるとこの曲は、もともとは「エイント・ノー・マウンテン・ハイ・イナフ」のトラックは使わず、「ティアーズ・ドライ」というタイトルで一度完成されていたものだったようです。彼女の死後に未発表曲、別ヴァージョンなどを集めて作られたアルバム「Lioness:HIdden Treasures」に収録されています。

 


Tears Dry (Original Version)

 

    このヴァージョン、とてもいいんですよね。1960年代後半の女性R&Bシンガーのムードを感じます。

 この曲はエイミーがギターの弾き語りで作ったもので、プロデューサーのサラーム・レミによると、普通彼女が曲を書くとこういう感じでこういうテンポになるのだそうです。

 そして冒頭の「あなたにとって私は 暗闇にしかなれないのね こんな後悔にも慣れてきた〜」という歌詞は、こういう曲のムードから生み出されたものだったのだとレミは語っていて、確かにそれは納得できるものです。

 

 ヒットした「ティアーズ・ドライ・オン・ゼア・オウン」は「ティアーズ・ドライ」の言わば”リッミクス・ヴァージョン”のようなものだったわけですね。

 オリジナルが未発表だったので、リミックス・ヴァージョンのほうがオリジナルになってしまいましたが。

 

 

 それから、僕が特に興味を持ってしまうのは、彼女がカバーする古いポップスです。ジャズに大きな影響を受けながらも、1960年代のガール・ポップスも彼女は大好きだったようで、その髪型(ビーハイブ)を見てもあきらかなのですが。

  そのラフで退廃的な歌い方の奥に、ティーンの少女のような純粋さと儚さも感じ取れるような気がします。

 21世紀のアーティストで、彼女ほど60年代ポップスを”懐古”ではなく、説得力のある歌としてカバーできた人は他にいないように思えます。

 

 レスリー・ゴーアの「イッツ・マイ・パーティ」。オリジナルのプロデューサー、クインシー・ジョーンズのアルバムに客演したもの。


Amy Winehouse - It's my party.

 ゴフィン&キング作の名曲「Will You Still Love Me Tomorrow」(シュレルズ)。


Will You Still Love Me Tomorrow? (2011)

 フィル・スペクターのグループ”テディ・ベアーズ”の全米NO.1ヒット「TO KNOW HIM IS TO LOVE HIM」邦題は「会ったとたんに一目ぼれ」。レターメンやピーター&ゴードン、モコ・ビーバー&オリーヴなどのカバー・ヴァージョンには「つのる想い」という邦題がついていました。


To Know Him Is To Love Him (Live)

 

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この曲でサンプリングされた名曲。 

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そしてその曲を書いたのがアシュフォード&シンプソン

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