まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「マッカーサー・パーク(MacCarthur Park)」ドナ・サマー(1978)

 おはようございます。

 今日はポップス史に残る名曲であり”奇曲”、ドナ・サマーによるディスコ・ヴァージョンが全米NO.1になった「マッカーサー・パーク」です。


MacArthur Park Donna Summer

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Spring was never waiting for us, dear
It ran one step ahead
As we followed in the dance
Between the parted pages, we were pressed
In love's hot fevered iron
Like a striped pair of pants


MacArthur's Park is melting in the dark
All the sweet, green icing flowing down
Someone left the cake out in the rain
I don't think that I can take it
'Cause it took so long to bake it
And I'll never have that recipe again, again


I recall the yellow cotton dress
Foaming like a wave
On the ground beneath your knees
The birds like tender babies in your hands
And the old men playing
Chinese checkers by the trees


MacArthur's Park is melting in the dark
All the sweet, green icing flowing down
Someone left the cake out in the rain
I don't think that I can take it
'Cause it took so long to bake it
And I'll never have that recipe again, again

 

There will be another song for me
And I will sing it
There will be another dream for me
Someone will bring it


I will drink the wine while it is warm
And never let you catch me looking at the sun, yeah
And after all the loves of my life
After all the loves of my life, you'll still be the one


I will take my life into my hands and I will use it
I will win the worship in their eyes and I will lose it
I will have the things that I desire
And my passion flow like rivers from the sky
Oh, and after all the loves of my life, yeah yeah
After all the loves in my life
You'll still be the one
And I'll ask myself whyy, yeah yeah

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春は私たちのことなんて待っていなかったのよ、あなた
一歩先を走って行ったわ
私たちがダンスについていく間にね
別れたページの間で、
私たちはプレスされた愛の熱いアイロンにね
まるで、ストライプのズボンみたいに


マッカーサー・パークは闇に溶けていく
すべての甘く緑のアイシングが流れ落ちる
誰かがケーキを雨の中に置いていった
私はそれを取ることができるとは思いません。
だって、焼くのにとても時間がかかったから
そして、そのレシピはもう二度と手に入らないの


黄色い綿のドレスを思い出す
それは泡立つ波のように揺れていた
地面の上で、あなたの膝下で
鳥たちはあなたの手の中のやわらかい赤ん坊のよう
そして、老人たちは
木のそばでチャイニーズ・チェッカーで遊んでいる


マッカーサー・パークは闇に溶けていくと
甘い緑の糖衣が流れ落ちる
誰かがケーキを雨の中に置いていった
私はそれを自分のものにはできない
それを焼くのにとても時間がかかって
そのレシピはもう二度と手に入らないから

 

私のための歌があるはず
それを歌おう
私のための夢があるはず
誰かが運んでくれるの


暖かいうちにワインを飲もう
太陽を見つめる私を、決してあなたにつかまえさせはしない。
この人生で愛した人すべての中で
いろんな愛を経験した後でも、あなたがたった一人の人でしょう


私は私の人生を手にとり、使ってみよう
私は彼らの目の前で崇拝を勝ち取り、それを失うだろう
私は私の望むものを手に入れるだろう
私の情熱は流れる、空から流れる川のように
ああ、そして、この人生で愛した人すべての中で
いろんな愛を経験した後でも、あなたがたった一人の人でしょう
そして自分に問いかける、なぜ、、、

           (拙訳)

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   僕はこの曲が大好きなんですが、 以前このブログでオハイオ・エクスプレスの「ヤミーヤミーヤミー」が「マイアミヘラルド」誌のデイヴ・バリーというコラムニストが選んだ史上最悪の曲第2位、「TIME」誌が選ぶ”バカげた歌詞の曲”10曲にも選ばれたと紹介しましたが、この「マッカーサー・パーク」はデイヴ・バリーが選ぶ史上最悪の曲ランキングの堂々1位、「TIME」誌”バカげた歌詞の曲”の10曲にも当然入っています。

 

 確かによくわからない歌詞ですね。

 

 この曲を書いたのジミー・ウェッブ。フィフス・ディメンションの「ビートでジャンプ」他、数々の名曲を書き、アメリカ”ソングライターの殿堂”の会長まで務めている人です。彼の代表曲でもある「恋はフェニックス」、「ウィチタ・ラインマン」などを聴けば、本当に素晴らしい歌詞を書く人だということもわかるんですよね。

 

 それじゃあ、なぜ?って話になりますが。

  

   四部構成で7分半の大曲で、メロディは美しくアレンジはドラマティック、それが故に歌詞が意味不明だと余計それが際立ってしまう、ということはあるかもしれません。

 これがサイケデリックな曲調だと、ああ、きっとラリっちゃってたんだな、なんて勝手に納得することはよくありますし(苦笑。

 

ウェッブはこう語っています。

サイケデリックなトリップだと思われてるんだ 。でも、この歌の中に出てくるものはすべて現実さ。ロサンゼルスにはマッカーサー公園があり、僕のガールフレンドが生命保険をセールスをしていた会社の近くにある。僕らがそこでランチを食べると、歌詞にあるように、木のそばでチェッカーをしているおじいさんたちがいたものさ」

 

「"雨の中に残されたケーキって何のことですか?" って、数え切れないほど訊かれたよ。それは、僕が見たものなんだ。そして、僕たちがケーキを食べて、それを雨の中に放置しておくというのをイメージした。でも、人生の一章を失うことの比喩としては、あまりにも出来すぎた話だと思った。彼女と別れたとき、私はその傷みを歌に注ぎ込んだんだ。曲の長さは最初から7分くらいで、マスコミで書かれているみたいに22分はなかったよ」

       (The Gurdian 11 Nov 2013)

 

 マッカーサー・パークはロサンゼルスにあって、あのGHQ総司令官ダグラス・マッカーサーの名前がつけられた公園です。別のインタビューで彼は、雨の中に残されたケーキは、公園で誰かのバースデー・パーティをやっているときに見たと語っています。

 

 ちなみに、この彼女、リンダ・ロンシュタットのいとこで、やはりウェッブが書いた「恋はフェニックス」のモデルでもあったそうです。

 

 もともとはアソシエーションのプロデューサー、ボーンズ・ハウに”クラシカルな要素の入った、異なる曲調が含まれて、テーマが変わってゆくような曲”という依頼を受けて書いたそうですが、結局、アソシエーション側はレコーディングしなかったそうです。

 

 

  歌うことになったのは俳優のリチャード・ハリスでした(映画ハリー・ポッター・シリーズの最初2作でダンブルドア校長を演じた人ですね)。ウェッブはその頃ハリウッド・スターたちと反戦のページェントをやっていて、ハリスとも仲良くなったそうです。ハリスが映画「キャメロット」で劇中歌を見事に歌いこなしているのを聴いたウェッブから、一緒にレコードを作ろうと持ちかけました。そして、ロンドンがベースであるハリスから彼に”ロンドンに来て、レコードを作ってくれ”という電報が届き、彼はロンドンに向かいます。

 そして自分の持ち曲を順番に演奏してハリスに聴かせますが、彼が気にいるものはなかったそうです。

「僕はビビりながら下を見た、あと1曲しか残っていなかったからね。「マッカーサー・パーク」しかなかったんだ」

(Los Angels Times  JUNE 10, 2007)

 そして、彼が演奏すると、ハリスは目を見開き、「これがいいよ、これにするよ!」と言ったそうです。

 

 オケはLAでレッキング・クルーの面々で録音し、ボーカルはロンドンでレコーディングしました。そして、発売されると1968年に全米2位の大ヒットになったのです。

 


Richard Harris MacArthur Park

 この曲が収録されたハリスのデビュー・アルバム「A Tramp Shining」は全曲ウェッブが曲を書き、アレンジ、プロデュースもした傑作です。

 

 そして、この曲のディスコ・ヴァージョンに挑んだのがイタリア人のプロデューサー、ジョルジオ・モロダーです。ディスコ・ミュージックのパイオニアとして近年も再評価されてダフト・パンクなどとも仕事をしている人です。

 ドナ・サマーを大ヒットさせていた彼は60年代のポップスをダンス・ミックスにするかディスコ・アレンジでリメイクさせたいと考えていたようで、あるとき車のラジオから流れてきたリチャード・ハリスマッカーサー・パーク」を聴いてこれだ!と思ったそうです。英語ネイティヴじゃないジョルジオには、「マッカーサー・パーク」の不思議な歌詞はさほど気にならなかったのかもしれませんね。

 そして、「マッカーサー・パーク」を何度も聴いていくうちに、彼はこの曲をドナ・サマーに歌わせることに決めます。

 

 イタリア出身でドイツで音楽活動していたジョルジオは、アメリカで成功できずにやはりドイツをメインに活動していたドナと出会い、「Love To Love You baby」というセクシーなディスコ曲を作りました。

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 これがオランダで小ヒットとなり、そのテープをアメリカのカサブランカ・レコードに送ったところ社長のニール・ボガートが気に入り、アメリカでリリースすると大ヒットになります。それをきっかけに、モロダー自身もアメリカ進出を果たし、ドナ・サマーの大ヒット曲を手がけていくことになるのです。

 

 そして、ドナ・サマーの「マッカーサー・パーク」は3週連続全米1位の大ヒットとなり、その後「ホット・スタッフ」「バッド・ガール」と彼女の快進撃が続きます。

 

 英国俳優がブリティッシュ・イングリッシュで渋く歌ってしまうと歌詞が陳腐に聞こえてしまって、かえってセクシーな女性シンガーがノリノリのディスコで歌ったら、歌詞なんか気にならなくなる、ということもあったかもしれません。

 

  そして、これが数々の名曲を書いたジミー・ウェッブにとってこれが、唯一の全米1位曲だといいますから、不思議なものです。

 ジミー・ウェッブの新しい自伝のタイトルは「The Cake and the Rain」と言うそうで、どれだけこの曲の歌詞が全米で有名で、そのことでいかに彼が辟易していたかがよくわかります。

 

 最後はこの曲のディスコ向けロング・ヴァージョン”MacArthur Park Suite”を。この時代のディスコの最高峰のノリをどうぞ!

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 この曲同様、”史上最悪の曲リスト”の常連さんはこの曲。

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 ジミー・ウェッブの代表作。どれも名曲。

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