まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ルール・ザ・ワールド(Everybody Wants To Rule The World)」ティアーズ・フォー・フィアーズ(1985)

 おはようございます。

 今日はティアーズ・フォー・フィアーズの「ルール・ザ・ワールド」を。


Tears For Fears - Everybody Wants To Rule The World (Official Video)

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Welcome to your life
There's no turning back
Even while we sleep
We will find you


Acting on your best behaviour
Turn your back on Mother Nature
Everybody wants to rule the world


It's my own design
It's my own remorse
Help me to decide
Help me make the


Most of freedom and of pleasure
Nothing ever lasts forever
Everybody wants to rule the world


There's a room where the light won't find you
Holding hands while the walls come tumbling down
When they do, I'll be right behind you

 

So glad we've almost made it
So sad they had to fade it
Everybody wants to rule the world


I can't stand this indecision
Married with a lack of vision
Everybody wants to rule the—
Say that you'll never, never, never, never need it
One headline, why believe it?
Everybody wants to rule the world
All for freedom and for pleasure
Nothing ever lasts forever
Everybody wants to rule the world

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君の人生へようこそ
もう後戻りはできない
僕たちが眠っている間でも
君を見つけるだろう


最高の行動をする
母なる自然に背を向けて
誰もが世界を支配したがっている


それは僕だけのデザイン
それは僕だけの悔恨
決心するのを手伝って
作るのを手伝って


ほとんどの自由とほとんどの快楽を
永遠に続くものなんてない
誰もが世界を支配したがっている


光が君を見つけられない部屋がある
壁が崩れ落ちる間手をつないでいよう
その間、僕は君のすぐ後ろにいるよ

 

すごくうれしいよ、僕たちほとんどやりとげそうだ
ひどく悲しいことに、彼らはそれを消さなくちゃいけなかった
誰もが世界を支配したがっている


我慢できないんだ
ビジョンの欠如と結ばれたこの優柔不断に
誰もが支配したい...
決して、決して、決して、必要ないと言うんだ
1つの見出し、なぜそれを信じるのか?
誰もが世界を支配したがっている
すべては自由と快楽のために
永遠に続くものなどない
誰もが世界を支配したがっている

           (拙訳)

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 ティアーズ・フォー・フィアーズは、1981年にローランド・オーザバルとカート・スミスによって結成されたイギリスのポップバンドです。

 

 ローランドとカートは1980年に5人組バンド”Graduate”というニュー・ウェイヴ・バンドを組んでいました。バンド名は、彼らが映画「卒業(The Graduate)」で使われたサイモン&ガーファンクルの「ミセス・ロビンソン」をカバーしていたからだそうです。

 デビュー曲は「Elvis Should Play Ska」。エルヴィス・コステロはスカを演るべきだ、ってことらしいです。それにしてもこのサウンド、この時代のイギリスのロックに馴染んでいた人には懐かしいですよね。

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 そして、その後二人はイアン・スタンリーと マニー・エリアスを加えて「ティアーズ・フォー・フィアーズ」を結成します。

 彼らは当時、ロック・バンド、プライマル・スクリームのバンド名の元にもなっている『原初からの叫び(The Primal Scream) 』で有名で、ジョンとヨーコも彼の療法を受けていたという心理療法士アーサー・ジャノフの作品に心酔していて、彼の本『Prisoners of Pain』の章題に”Tears For Fears”があったそうです。

 

 音楽的にも大きく方向転換しますが、この頃彼らはピーター・ガブリエルの3rdアルバムやトーキング・ヘッズの『リメイン・イン・ライト』なども聴いて影響を受けていたそうですが、一番の衝撃についてローランドはこう語っています。

「何かが変わりつつあることを痛感していたら、突然ゲイリー・ニューマンがナンバーワンになった。ボウイを聴いていて、そのスタイルは知っていたけれど、彼が1位になったのはショックだった」

 (VICE January 22, 2014)

  ゲイリー・ニューマン、1979年の全英1位「Cars」。確かに衝撃でした。

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 そして、彼らは1982年に発売した3枚目のシングル「Mad World」で全英チャート3位の大ヒット、デビュー・アルバム「The Hurting」も全英1位になりました。しかし、イギリス以外はそれほどブレイクしませんでした。

 彼らを世界的な成功に導いたのは1985年にリリースされたシングル「シャウト」でした。(全英4位、全米1位) 


Tears For Fears - Shout (Official Video)

 

 ”叫べ、思ってることみんな吐き出すんだ、

 そんなものなくたって平気なものばかりじゃないか?

 オレはおまえに言ってるんだぜ、なあ”

 

 これは、長く抑制された幼い頃の心の痛みを、絶叫することで吐き出させる、というアーサー・ジャノフの原初療法(絶叫療法)に通じる歌詞ですね。

 

 アメリカとロシアの冷戦の重苦しい空気を感じて作ったそうですが、この曲の制作には何か月もかかって相当苦しんだようです。

 そして、「シャウト」の制作に終わりが見え始めたあるとき、ローランドがスタジオに入って、アコギでシンプルな2コードを弾き始め、そこからこの曲が”するするっと”あっという間に出来上がっていったそうです。

 重い曲調がメインの彼らにとっては異色な軽快なものだったので、メンバーはアルバムには合わないと思ったそうですが、プロデューサーに意見などで収録することになります。

 ローランドは頭のなかはまだ「シャウト」のモードだったからでしょうか、それとも他の曲と歌詞だけでもトーンを合わせようと思ったのでしょうか、東西冷戦のイメージをこの曲にも投入したようで、最初の歌詞は”Everybody Wants To Go To War"だったそうです。

 ただ、このフレーズを歌っていくうちに、ローランドはよくないと思い始め、”Everybody Wants To Rule The World"に変え、それによって曲全体も当初より軽快になっていったようです。

 とはいえ、”母なる自然に背を向けて、みんな世界を支配したがっている

 永遠に続くものなんてないのに みんな世界を支配したがっている”

 と、基本的に当時のアメリカやロシアを非難する内容になっていますが。

 

 優れたポップソングは、悩みに悩んだ結果、あるときあっという間に出来上がることが多いという法則的なものがあります。

 あの有名な「ムーン・リバー」は作曲したヘンリー・マンシーニが30日間悩み続けて、あるとき30分で出来たと言います。

 この「ルール・ザ・ワールド」の場合は、「シャウト」というヘヴィーな曲で長く悩み続けた結果、ぽっと生まれてきたわけです。

 

 優れたポップソングは、聴き手を暗闇から光のあるほうへ引っ張っていってくれるような力がありますが、それが、作り手自身が暗闇から抜け出した瞬間に作られたものである場合、そのパワーは一段と増すものなのかもしれません。

 

 さて、本国イギリスやヨーロッパ、日本では「シャウト」「ルール・ザ・ワールド」の順番でリリースされましたが、アメリカだけは「ルール・ザ・ワールド」のほうがアメリカ向きだということで先にリリースされNO.1ヒットになり、その勢いを受けて「シャウト」も1位になるという実にうまい結果になっています。

 

  ローランドは、本物のティアーズ・フォー・フィアーズのアルバムと呼べるのは「The Hurting」であり、「シャウト」は「The Hurting」のエッセンスが色濃く出ていると語っています。そして、個人的な意見から政治的な見解へと曲は変わっていったといいます。

 政治的な見解を最も表しているのが、サードアルバムのタイトル曲「The Seads Of Love」です。この曲でのビートルズ感、けっこう好きです。

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 ティアーズ・フォー・フィアーズの本来の持ち味とは違っていましたが、ローランドが「この曲はその曲自体が生命をもっている」というほど、”一人歩き”をはじめ、あるサイトを見るとカバーが150近く作られ(パティ・スミスウィーザーなど)、そのほとんどが21世紀に入ってからのものです。

 

 追記:2022年2月に彼らは新しいアルバム「The Tipping Point」をリリースする予定です。先行シングルの「The Tipping Point」を。

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