まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「セット・ゼム・フリー ( If You Love Somebody Set Them Free )」スティング(1985)

 おはようございます。

 今日はスティングの「セット・ゼム・フリー」です。


Sting - If You Love Somebody Set Them Free (Official Music Video)

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If you need somebody, call my name
If you want someone, you can do the same
If you want to keep something precious
You got to lock it up and throw away the key
If you want to hold onto your possession
Don't even think about me

If you love somebody If you love someone
If you love somebody
If you love someone set them free
(Free, free, set them free)
Set them free

If it's a mirror you want, just look into my eyes
Or a whipping boy, someone to despise
Or a prisoner in the dark
Tied up in chains you just can't see
Or a beast in a gilded cage
That's all some people ever want to be

If you love somebody If you love someone
If you love somebody If you love someone set them free
(Free, free, set them free)
Set them free
(Free, free, set them free)

You can't control an independent heart
Can't tear the one you love apart
Forever conditioned to believe that we can't live
We can't live here and be happy with less
So many riches, so many souls
Everything we see that we want to possess

If you need somebody, call my name
If you want someone, you can, you can do, you can do the same
If you want to keep something precious
You got to lock it up and throw away the key
Wanna hold onto your possession
Don't even think about me

If you love somebody If you love someone
If you love somebody If you love someone set them free
(Free, free, set them free)
Set them free

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もし誰かが必要だったら 僕のことを呼べばいい

もし誰かが恋しいのなら 同じようにすればいい

大切なものをずっと持っていたいなら

それを何かに閉じ込めて その鍵を捨てればいい

自分の所有物にしがみつきたいなら

僕のことなど思い浮かべなくていい

 

もし誰かを愛しているなら もし誰かを愛しているなら

相手を自由にしてあげるんだ

 

もし君が欲しいのが鏡なら 僕の目を見ればいい

もしくは、身代わりに鞭打ちされる少年を 

軽蔑する誰かを

もしくは、君には見えない鎖に繋がれた

闇の中の囚人を

もしくは、金の鳥かごの中の獣

どれだって、そうなりたいと望む人もいるものさ

 

もし誰かを愛しているなら もし誰かを愛しているなら

相手を自由にしてあげるんだ

 

君は人の自立した心をコントロールなんてできないんだ

愛する人を引き裂くことはできないんだ
ここでは生きていけないと 

モノがなければ幸せにはなれないと信じるよう

に永遠に条件づけられた

あまりにもたくさんの富 たくさんの命

僕たちの目に入るのは 僕たちが欲しいと思うものばかりだ

 

もし誰かが必要だったら 僕のことを呼べばいい

もし誰かが恋しいのなら 同じようにすればいい

大切なものをずっと持っていたいなら

それを何かに閉じ込めて その鍵を捨てればいい

自分の所有物にしがみつきたいなら

僕のことなど思い浮かべなくていい

 

もし誰かを愛しているなら もし誰かを愛しているなら

相手を自由にしてあげるんだ                (拙訳)

 

 

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「見つめていたい」の解毒剤?

 

 1980年代半ば、イギリスのロック・シーンのカリスマだったスティングとポール・ウェラーが共に黒人の音楽に思いっきりシフトしたことは、衝撃的であり、なによりとてもカッコよく思えました。

  この曲のMVを見ても、彼以外はすべて黒人で、プレイヤーはオマー・ハキム (ドラム)、 ダリル・ジョーンズ -(ベース)、ケニー・カークランド ( キーボード )ブランフォード・マルサリス ( サクソフォーン)とジャズ/フュージョン・シーンの凄腕ばかりです。

  これは彼がニューヨークで3週間のワーク・ショップを開いて、地元のジャズ・プレイヤーたちに広く声をかけ、一緒に演奏しながら選んだメンバーだったそうです。

 スティングはジャズの関わりをこう語っています。

「実際、僕が最初に参加したロックバンドがポリスなんだ。その前は、さまざまな種類のジャズ・グループで幅広く活動していた。最初のバンドはディキシー・ランド・トラッドのグループで、コントラバスを弾いていた。その後、メインストリーム・ジャズのグループで「グリーン・ドルフィン・ストリート」や他のスタンダード曲を学んだ。ビッグバンド、モダンジャズフュージョンジャズのグループも演奏した。だから、僕はジャズ・プレーヤーと一緒だと気分が楽なんだ」

                                                                          (Records Mirror 1985 6.23)

 

 この「セット・ゼム・フリー」はある意味、彼の代表曲「見つめていたい」と対になるようなものであるとインタビューで語っています。

 

「いろいろな意味で、この曲は「見つめていたい(Every Breath You Take)」の解毒剤になっている。あの曲は、監視や所有すること、占有すること、嫉妬など、僕たちが持っている感情について歌っているんだ。「セット・ゼム・フリー」はその反対で、もし誰かを愛しているなら、その人を放っておいてあげよう、と言っている。この曲にはイヤな面もある。かなり威勢が良くて、相手をやっつけるものなんだ。でも、僕の魅惑的で心地よい、人あたりのいい曲のほとんどは、どこかに相手をやっつけるようなところがある。でも、それは良い叱責。ポジティブな叱責なんだ! 人格形成するためのさ!」

(INTERNATIONAL MUSICIAN 1985 6.23)

 

 2007年に出た「Lyrics By Sting」という本ではこう書かれていたそうです。

「この曲は「見つめていたい」にとりついていた支配と監視という気味の悪い問題に対する解毒剤であると同時に、私が新たに手に入れた自由への賛美歌でもあった。たぶん、パートナーに対する最高の褒め言葉は、「僕は君を所有していない、君は自由だ」というものでしょう。明らかに相手を所有しようとすると、本当に意味のあるやり方で相手をちゃんと理解することなどできない。世の中にはすでにあまりにも多くの牢獄があるんだ」

 リリースしたばかりだけじゃなくも、21世紀になっても彼はこの曲は「見つめていたい」の”解毒剤”だという表現をしているんですね。

 

 「見つめていたい」というのはアメリカの音楽史上最もたくさん演奏され、放送されたろいう”最もポピュラーな曲”になっているのですが、歌詞については”ストーカー”的な視点から解釈されることが多いものでもあります。

 「見つめていたい」が自分が予想もしていなかったレベルで大ヒットして、困惑し、うんざりした気持ちが「セット・ゼム・フリー」に反映されているのは、間違いなさそうです。

 

 ちなみに、この曲の収録されたアルバムのタイトル「ブルー・タートルの夢(The Dream of the Blue Turtles)」というのも非常に印象的なものですが、その由来について彼はこう語っています。

「僕は夢を見たんだ、新しいグループを結成する最中に。ロンドンの自宅の庭の夢だった。それはとても小さな庭で、ツタで覆われた壁と、きれいな芝生と花壇があって、とてもきちんと整頓されていた。塀の中から、自分の男らしさに酔っているような巨大な青い亀が出てきた。巨大で、運動能力が高く、いかれているんだ。ヤツらは酔っ払いながらバク転をして見せびらかし始めて、僕の庭を破壊したんだ。僕にはそれがなにを意味するのかまったくわからないけど」

                (Records Mirror 1985 6.23)

別のインタビューでは、彼はそれを分析しています。

「分析してみると、4匹の青い亀がバンドで、彼らがやっていることは、私のお決まりのやり方、安全な避難所、僕の裏庭を破壊しているのだと思う。そして、地面をぐちゃぐちゃすることは、来年の作物を育てるために畑をひっくり返すことを象徴しているのだと思う」

 (TIME OUT 1985.2.23)

 

 自分がポリスを離れて、これから新しく生み出す音楽の世界を象徴するものとして、”青い亀の夢”をとらえていたのかもしれません。

 

 

 ちなみに、この「 If You Love Somebody Set Them Free 」という言葉が、ベルリンの壁に書かれていたそうです。スティングの意図とは別の解釈がなされたわけですね。

こういうことも、ポップ・ミュージックならではのことなのだと思います。

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 最後は2019年の「MY SONGS」に収録されたデイヴ・オーデによるリミックス・ヴァージョン。


Sting - If You Love Somebody Set Them Free (My Songs Version/Audio)

 

ブルー・タートルの夢

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