まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「男の世界 (Lovers Of The World)」ジェリー・ウォレス(1970)

 おはようございます。

 洋楽には日本独自ヒットが数多くありますが、その中でも最大のヒット曲はなんとこれなんです。ジェリー・ウォレスの「男の世界」。

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All the world loves a lover
All the girls in every landom and
To know the joy of loving is to live in the world of
MANDOM

There’s a someone who’s waiting for you
Soon the world will be yours for a toy
The music starts to play
Night will turn to day
The darkness disappears
When the one you love is near
You’re in MANDOM

All the world loves a lover
All the girls in every landom and
To know the joy of loving is to live in the world of
MANDOM

There’s a place that is waiting for you
A world where the best in life is free
Where time is always spring
Happiness is king
The dreams you dream come true
When the one you love loves you
You’re in MANDOM

All the world loves a lover
All the girls in every landom and
To know the joy of loving is to live in the world of
MANDOM

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世界中の人が恋人を愛してる
あらゆる国のすべての女の子
愛する喜びを知るってことは、
マンダムの世界で生きるということさ


あなたを待っている人がいる
もうすぐ世界は遊び場としてあなたのものになる
音楽が流れ
夜が昼に変わり闇は消える
愛する人が近くにいるとき
あなたはマンダムにいる

世界中の人が恋人を愛してる
あらゆる国のすべての女の子
愛する喜びを知るってことは、
マンダムの世界で生きるということさ


あなたを待っている場所がある
人生最高のものがタダで手に入る世界
そこでは時はいつも春
幸せが王様
あなたの夢みたことは叶う
愛する人があなたを愛してくれるなら
あなたはマンダムにいる

世界中の人が恋人を愛してる
あらゆる国のすべての女の子
愛する喜びを知るってことは、
マンダムの世界で生きるということさ

     (拙訳)

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 オリコンの洋楽シングル歴代売り上げランキングというデータを見てみると、

 

1位 ビューティフル・サンデー(ダニエル・ブーン)

2位 トゥ・ラヴ・ユー・モア(セリーヌ・ディオン&クライズラー・カンパニー)

3位 恋人たちのクリスマスマライア・キャリー

4位 オールウェイズ・ラブ・ユー(ホイットニー・ヒューストン

5位 サウンド・オブ・サイレンス(サイモン&ガーファンクル

 そして続く6位がこの「男の世界」なんです。ちなみに、7位「フラッシュダンス」(アイリーン・キャラ)、8位ラスト・クリスマス(ワム)、9位「ダンシングシスター」(ノーランズ)と続きます。 

 

 この「男の世界」の違和感がハンパないですよね。もちろん「ビューティフル・サンデー」も今の時代から見たら???ですけど、一応世界的なヒットでした。

 しかし「男の世界」は間違いなく日本人の中高年層しか知らない歌でしょう。

 

 「ギャツビー」などを展開している会社”マンダム”が、男性化粧品シリーズ「マンダム」を初めて発売したときのTVCMソングがこの「男の世界」でした。

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「男の体臭」というキャッチコピーがすごいですね。今の世の中では最も嫌われるものでしょうけど。。

 ちなみにこのCMの監督は大林宣彦さんだったそうです。

 

 当時僕は小学校低学年。「アゴに何かついてるよ」〜えっ、と言って思わずアゴを触る〜「う〜ん、マンダム」。みんなやってました(苦笑。それだけすごいインパクトのあるCMだったんですね。

 チャールズ・ブロンソンのようなハリウッドスターが日本のCMに出るということも画期的なことでした。

 

 調べてみると「マンダム」は男性向け整髪料などを作っていた「丹頂」という会社が、資生堂の男性化粧品「MG5」の影響で経営危機に陥ったために「MG5」に対抗するために生み出された起死回生の商品だったそうです。

 

 「丹頂」は大阪の会社ですから大阪電通、そしてホリプロの系列のホリ企画がCMを制作したようです。

  当時ホリプロはまだスターの数が足りなかったため、外国のスターを使ったCMを数多くやっていました。

 ホリプロの堀 威夫氏はこう回想しています。

「あれはブロンソンの画(え)のうしろに、マンダムって歌を作って流そう、というアイディアを出したんですよ。そのアイディア自体は斬新なものでもなんでもなくて、確かフィフス・ディメンションが航空会社のCMをレコードで出して大ヒットしていたでしょう。あれをそっくり日本でもやってもいいんじゃないかっていうことでやったら、大ヒットしたんですよ」

            (湯川れい子「熱狂の仕掛け人」)

 *フィフス・ディメンションの曲は「ビートでジャンプ(Up,Up&Away)」でTWAのCMで使われていました

 

 そして、ビートルズを招聘したプロモーターとして有名な永島達司氏を介してUAレコード社長から紹介されたシンガーがジェリー・ウォレスでした。

 ジェリーはミズーリ州出身のシンガーで、1952年にデビューし,、1958年に「How The Time Flys」(全米11位)、1959年には「Primrose Lane」(全米8位)をヒットさせています。

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   1960年代半ば以降はカントリー・チャートでそこそこのヒットをコンスタントに出していましたが、だんだんセールスを落としていき、マンダムのCMの頃はアドバンス(レコード会社からの印税前払い金)も止まっていた状態だったそうです。

 

  当時のレコード会社の担当の方はこう語っています。

「シングルは最初の何日かは食いつきが悪かった。ジャケットも当初ブロンソンの写真は使えず、かといってジェリー・ウォレスの写真使っても全く意味がない(笑)。で、アメリカのモニュメント・ヴァレーの写真に「男の世界」というタイトルを乗せたジャケットにしたんです。でも営業所なんかから「ブロンソンを出してくれ」って声もあって。何か問題があったらその一枚を外せばいいやと(笑)。これで一気に火がついた。1日に2万枚とかね」

 (「洋楽マン列伝2」)

 これが最初のジャケットだったようです。

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 そして、タイトルも「マンダム〜男の世界」に変えています。

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 ここで謎なのがこの曲の作者です。堀威夫氏もレコード会社の担当だった佐藤恒夫氏もインタビューでは触れていないんですよね。

 クレジットは表記は、作曲HOWARD CAIN 作詞MATT CAIN。この著作者名でJASRACに登録されているのは「男の世界」しかありませんから、間違いなくこのCM用のペンネームでしょう。

 ネットのニュース・メディアでこの曲の作者が音楽プロデューサーのロビー和田氏だと伝えているものがありました。確かに彼はハーフで海外で育ち語学が堪能で、もともと自作自演のシンガーで、ソングライターとしてもホリプロ和田アキ子のデビュー曲「星空の孤独」を作曲していますから、けっこう信憑性はありそうですが、どうなんでしょう。

 

 さて、このCMの大ヒットで「丹頂」は倒産の危機から復活しただけではなく、翌1971年には社名自体を「マンダム」に変えています。

 ウィキペディアによると、「MANDOM」は元々は”MAN  DOMAIN(男の領域)”という意味だったそうです(MAN KINGDOMの略だと思っていました、、)。しかし、時代の変化とともに”HUMAN&FREEDOM"とコンセプトを再解釈させています。

 

 今年話題になったSF小説「三体」で、凍眠して目覚めた未来の世界には女性しかいないように見えたが実は女性化した男性だった、なんていう設定があって、その前触れとして現在の日本や韓国の男性アイドルが引き合いに出されていました。

 確かに「マンダム」のCMのチャールズ・ブロンソンに象徴されるような”男臭い世界”がまた人気になることはもうないのかもな、と思ったりします。

 

 そして、この曲を歌ったジェリー・ウォレスのアーティストとしての流れが大きく変わります。

   この曲の翌年、1971年にレコード会社を移籍したことをきかっけにカントリー・チャートを賑やかせるヒットを連発し始めるんですね

  もちろん、遠い日本での大ブレイクがアメリカに直接影響を及ぼすことは全くなかったと思います。ただし、彼の”運命の潮目”を変えるきっかけになったと僕には思えるのです。

 どんな人の人生にも浮き沈み、潮の満ち引きのようなものがありますが、それが極端に現れるのが芸能の世界です。どんな形でも”ヒット”が一度生まれると、まるで磁力が働くかのように売れ始めるのです。

 ジェリー・ウォレスにそんな磁力をもたらしたのが「男の世界」だったのだと僕は思います。

 それでは最後に、1972年にカントリー・チャート1位(ポップ・チャート38位)になった彼の代表曲「If You Leave Me Tonight I'll Cry」を。

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日本の歴代洋楽ヒット ベスト10入りした楽曲

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