まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「ラスト・クリスマス( Last Christmas)」ワム! (1984)

 おはようございます。

 今日はクリスマスの定番曲「ラスト・クリスマス」を。


Wham! - Last Christmas (Official Video)

 

  ” 去年のクリスマス 君に僕のハートを贈った

    だけど次の日には 君はそれを捨て去った

          今年は 涙を流さないように

     誰か特別な人にあげることにするよ

 

         一度噛まれたら 二度目は用心するものさ

   君に近づかないようにしたけど 君から目が離せないんだ

   教えてベイビー、僕に気づいてるの?

   もう一年たつんだ 驚きはしないけど

 

        "メリー・クリスマス” ラッピングもして贈ったんだ

   ”I Love You”ってカードをつけて 本気さ

     でも今じゃ自分がバカだったってわかったよ

        もし君がキスしてきても またからかってるってことなんだ

 

   去年のクリスマス 君に僕のハートを贈った

    だけど次の日には 君は心なく言いふらした

         今年は 涙を流さないように

    誰か特別な人にあげることにするよ

 

  退屈そうな目をした友人たちでいっぱいの部屋

  僕は君とその氷のような心につかまらないように隠れている

  神様、あなたは頼りになる人だと思っていたよ

  僕?僕は悩みを聞いてあげるただのお人好しさ

 

  燃えるような気持ちで恋人をまっすぐに見る

  男はバレないように行動したのに 彼女は彼の心を引き裂いた

  僕は本当の愛を見つけたから 君はもう僕をからかえないさ

 

   去年のクリスマス 君に僕のハートを贈った

    だけど次の日には 君はそれを捨て去った

         今年は 涙を流さないように

    誰か特別な人にあげることにするよ

 

        燃えるような気持ちで恋人をまっすぐに見る

  男はバレないように行動したのに 彼女は彼の心を引き裂いた

       たぶん来年は誰か きっと特別な誰かに贈るよ  ” (拙訳)

 

 

********************************************************************************

Last Christmas, I gave you my heart
But the very next day, you gave it away
This year, to save me from tears
I'll give it to someone special

Last Christmas, I gave you my heart
But the very next day, you gave it away
This year, to save me from tears
I'll give it to someone special (special)

Once bitten and twice shy
I keep my distance but you still catch my eye
Tell me baby do you recognize me?
Well it's been a year, it doesn't surprise me

"Merry Christmas" I wrapped it up and sent it
With a note saying "I Love You" I meant it
Now I know what a fool I've been
But if you kissed me now I know you'd fool me again

Last Christmas, I gave you my heart
But the very next day, you gave it away
This year, to save me from tears
I'll give it to someone special (special)

Last Christmas, I gave you my heart
But the very next day, you gave it away
This year, to save me from tears
I'll give it to someone special (special)

 

A crowded room, friends with tired eyes
I'm hiding from you and your soul of ice
My God, I thought you were someone to rely on
Me? I guess I was a shoulder to cry on


A face on a lover with a fire in his heart
A man undercover but you tore him apart
Now I've found a real love, you'll never fool me again


Last Christmas, I gave you my heart
But the very next day, you gave it away
This year, to save me from tears
I'll give it to someone special

 

A face of a lover with a fire in his heart (I gave you my heart)
A man under cover but you tore him apart
Maybe next year
I'll give it to someone, I'll give it to someone special

 

Writer/s: George Michael

********************************************************************************

 

  4年前、2016年のクリスマスに、この曲を作詞作曲し、歌っていたジョージ・マイケルが亡くなったというニュースが世界中に流れました。

 彼はたくさんのヒット曲を持つ、まぎれもないスーパースターですが、「ラスト・クリスマス」の超ロングセラー・ヒットと、クリスマスに彼が亡くなったということが重なって、彼のアーティストとしてのイメージはこの曲に集約されつつあるような印象があります。

 

 ワムがの相棒であるアンドリュー・リッジリーがジョージと一緒にジョージの両親の家に行った時にこの曲は作られたのだそうです。

 

「僕たちは軽く食事をして、テレビを見るでもなくつけっ放しにして一緒にリラックスして座っていた。ほとんど気づかないうちに、ジョージは一時間くらい二階に姿を消していたんだ。そして、彼が下に戻ってくるとまるで金を発見したかのように興奮していて、ある意味ではその通りだったんだけど」

 

「僕たちは彼の昔使っていた部屋に行ったんだ。僕たちが子供の頃にラジオ番組やジングルの真似したものを録音するのに何時間も費やした部屋さ。彼はキーボードやインスピレーションがひらめいたときにレコーディングできるものを部屋に残しておいていたんだ。そして彼は「ラスト・クリスマス」の魅力的で切ないあの一節を歌ってくれたんだ。それはまさに驚きの瞬間だったよ」

 

「ジョージは音楽の錬金術を行い、クリスマスのエッセンスを音楽へと蒸留させた。そこに裏切られた愛の物語を語る歌詞を加えたのは見事な技量だったし、よく彼がそうしたように、僕の心を震わせたんだ」

                       (Smooth Radio)

 

 このブログで取り上げた数多くの名曲と同様に、この曲も短時間で書き上げられたものだったんですね。

 

 ポップでキャッチーでロマンティックな、まさにスタンダードなメロディーですが、歌詞をあらためて読むと、深く傷つけられながらも未練を感じている男の子の”切なさ”が描かれています。

 

 全盛期はセクシーなスーパースターというイメージもあった彼ですが、自伝などを読むと、十代の頃は地味で常にコンプレックスに悩んでいる少年だったようで、この歌詞のように女性に裏切られて混乱する葛藤するような心情は、若い頃”リア充”だったような男性には決して書けないものなのかもしれません。

 

 ちなみに、

Last Christmas, I gave you my heart But the very next day, you gave it away”の

 

 "gave it away”なんですが、「不要なものを手放す」ような意味があるので、

世に出ているほとんどの和訳は「捨てた」「放り出した」となっていて、僕もそんな風に理解していたのですが、今回、あらためて調べてみると”give away”には”秘密を暴露する”という意味があるそうで、なんだかそちらに惹かれてしまいました。

 

 彼女は”あの男からこんなものもらって打ち明けられちゃったの”とまわりにバラしちゃったんじゃないかと、妄想してしまったのです。

 ただフラれただけじゃなくて、何か気持ちを踏みにじられる行為があったんじゃないかと。

  ということで、2番の歌詞には僕の妄想が反映されています、、すみません。

 

 

   さて、この曲のレコーディングはジョージ一人でやっています。他にいたのはエンジニアだけ。時期は真夏でしたが、アシスタントがスタジオに紙の輪っかを繋げた飾り付けをしていたそうです。ドラムマシーンとシンセサイザー、とクリスマスのベルの音というシンプルな編成ですが、ジョージが全部一人でやると言い張って、大変苦労したとエンジニアのクリス・ポーターは語っています。

「ジョージはミュージシャンではなかった。彼はどんな楽器のトレーニングも受けていなかったんだ。骨の折れる作業だった、だって彼は文字通り、2本か3本の指でキーボードを弾いていたんだから」                                                      (the guardian)

 

 技量に問題はあったとしても、自分の音楽を誰にも邪魔されず自分自身で作り上げたいという執念が強かったんですね。

 今はPCソフトがありますから、一人で全パートを録音するのは普通ですが、この時代では珍しいことでした。トッド・ラングレンとかプリンスとかはいましたが。

 

 それから、”クリスマス”というロマンティックなイベントに憧れながらも、傷つきやすい心でそれを見つめている視点は、サーフィンもできないのにサーファー・ガールたちに憧れて見つめていたブライアン・ウィルソンの視点に重なるようにも僕には思えます。

 

 ポップスは、その視点が”影から光を見る”ときに、その輝きと切なさが最も発揮される、というのが僕の持論でもあります。

 

 そう考えると、ジョージ・マイケルという人は、まさにポップスの申し子のひとりだったんだなあと思います。

 底抜けに明るい曲も歌うのに、どうしようもなく孤独な切なさが彼にはいつもつきまとっているようです。

 

 ブライアン・ウィルソンには”夏”が永遠にとりついたように、ジョージ・マイケルには”クリスマス”が永遠にとりついたのかもしれません

(昨年、2019年には彼の楽曲がたくさんフィーチャーされた映画「ラスト・クリスマス」が公開されました)

 

 ワム!のPR担当でジョージと仲の良かったゲイリー・ファーロウはこう回想しています。

「ジョージはほんとうにクリスマスをとても得意にしていたんだ。毎年クリスマスになると、車に入りきれないほどのプレゼントを積んでやってくるんだ。彼はまるでサンタみたいだったよ。彼は僕の娘のローレンの名づけ親で、そのことを彼は真剣にとらえていたんだ」

                     (George Michael 「Bare」)

 

f:id:KatsumiHori:20201209134341j:plain