まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)(Happy Xmas (War Is Over))」ジョン・レノン(1971)

 おはようございます。

 今日はジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス(戦争は終った)(Happy Xmas (War Is Over))」です。

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So this is Christmas
And what have you done?
Another year over
And a new one just begun
And so this is Christmas
I hope you had fun
The near and the dear ones
The old and the young


A very Merry Christmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear


And so this is Christmas (War is over)
For weak and for strong (If you want it)
For rich and the poor ones (War is over)
The road is so long (Now)
And so happy Christmas (War is over)
For black and for white (If you want it)
For yellow and red ones (War is over)
Let's stop all the fight (Now)


A very Merry Christmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear


And so this is Christmas (War is over)
And what have we done? (If you want it)
Another year over (War is over)
And a new one just begun (Now)
And so happy Christmas (War is over)
We hope you had fun (If you want it)
The near and the dear ones (War is over)
The old and the young (Now)

A very Merry Christmas
And a happy New Year
Let's hope it's a good one
Without any fear


War is over, if you want it
War is over, now
Happy Christmas
Happy Christmas, Christmas
Happy Christmas, Christmas

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そう、クリスマスなんだ
どんな年だった?
今年も終わって
新しい年が始まる
さあ、クリスマスだ
みんな楽しんでいるといいな
身近な人も 大切な人も
年とった人も 若い人も


とっても楽しいクリスマスを
そして幸せな新年を
何の不安もない
良い年になることを祈ろう


そう、クリスマスなんだ(戦争は終わった)
弱者にも強者にも (みんなが望めば)
金持ちにも貧しい人にも(戦争は終わる)
道はとても長い(今)
そして、ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)
黒人にも白人にも(あなたが望めば)
アジアの人にもヒスパニック系の人にも(戦争は終わる)
すべての争いを終わりにしよう(今)


とっても楽しいクリスマスを
そして幸せな新年を
何の不安もない
良い年になることを祈ろう


そう、クリスマスなんだ(戦争が終わった)
今年どんなことができた?(あなたが望めば)
今年が終わって(戦争は終わる)
新しい年が始まる(今)
だから、ハッピー・クリスマス(戦争は終わった)
楽しんでいるといいな(あなたが望めば)
身近な人も 大切な人も(戦争は終わる)
年とった人も 若い人も (今)


心からメリー・クリスマス
そして、あけましておめでとう
何の不安もない
良い年になることを祈ろう


戦争は終わった、みんながそれを望むなら
戦争は終わった、今
ハッピー・クリスマス
ハッピー・クリスマス、クリスマス
ハッピー・クリスマス、クリスマス

                      (拙訳)

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ジョン・レノン「ハッピー・クリスマス」ぷりんと楽譜

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 ジョン・レノンはこの曲についてこう語っています。

「<ハッピー・クリスマス>はヨーコと二人で書いた。「戦争は終わる、あなたがそう望むなら」と歌っている。メッセージは今も変わらない。ミサイルの発射ボタンを押す人間と同じくらい、自分たちにも戦争への責任があるという考えだ。誰かがやってくれるとか、自分にはどうすることもできないとか思っている限りは、いつになっても自分で物事を動かせるようにはならないんだ」

(「ジョン・レノンオノ・ヨーコ プレイボーイ・インタヴュー1980完全版」)

 

  この曲は1971年の12月にリリースされていますが、そのわずか2ヶ月前にこのシングルがリリースされています。「イマジン」。

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  世界に平和を訴えかけるアーティストとしてのジョン・レノンを象徴する2曲が、ほぼ同じ時期に作られ発売されていたことになります。

 

 ジョン・レノンをあまりに神格化してしまうことには、僕は少し危惧のようなものを感じてしまうのですが、この2曲を同時期に書いたというのは、まさに”神がかっている”と言わざるをえません。

 

 しかし、「イマジン」はリアルタイムでも全米3位と大衆に認知されましたが、「ハッピー・クリスマス」のほうは、十分なプロモーションはされず、クリスマス・ソングは対象外とするアメリカのビルボード誌の当時の規則のため、ヒット・チャートには入っていません。それに加え、本国のイギリスでは、彼の音楽出版社(ノーザン・ソングス)と権利関係を巡ってモメたため、発売が1年後になってしまっています。

 この「ハッピー・クリスマス」は、発売当時は多難なスタートを切っていて、時間をかけてじっくりとスタンダードになっていったわけですね。

 

   この曲が発売された1971年というと、ベトナム戦争が泥沼化していき、それに反対する声がどんどん大きくなっていった時期でした。

 ベトナム戦争に反対する象徴的な歌として名高いマーヴィン・ゲイの「ホワッツ・ゴーイン・オン」もシングルが同じ年の1月、アルバムが5月にリリースされています。

 

 ジョン・レノンも「イマジン」が発売される7ヶ月前、1971年の3月にこのシングルをリリースしています。「パワー・トゥ・ザ・ピープル」。

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 ”権力をすべての人に”と訴えかけるこの曲について彼はこうコメントしています。

「あの曲はタリク・アリとの会話から生まれた。彼はイギリスでは「革命家」として知られる存在で、『レッド・モール』という雑誌を編集していた。そこで僕は、彼の言っていることについて書くべきだと思った・・・だから、この曲はうまくいかなかったんだ。僕は自分の頭でしっかり考えていたわけではなかった。半分眠ったような状態で、タリク・アリとその仲間たちから気に入られたいと思いながら書いたんだ」

(「ジョン・レノンオノ・ヨーコ プレイボーイ・インタヴュー1980完全版」)

 

 タリク・アリとはパキスタン生まれの作家、政治活動家で、1968年にロンドンの米国大使館前で行われた反戦抗議デモにおいて指導的役割を演じた人物です。

 彼が編集していた雑誌『レッド・モール』で、ジョンとタリク、それに政治活動家のロビン・ブラックバーンの3人で対談を行っていて、それは「ジョン・レノン 音楽と思想を語る」という本で読むことができます。

 そのインタビューの翌日にジョンがタリクに電話してきて、彼らの運動のために歌を書いたと言って歌ってくれたのが、この「パワー・トゥ・ザ・ピープル」だったといいます。

 しかし、ジョンが語っていたように、反戦運動に激しく触発されながらも、曲を自分の頭でしっかり考えて作っていなかったという思いがあったとするなら、彼は何をおいても創作家ですから、やはり自分の頭で自分の言葉で歌を作りたいという方向に意識がいくはずでしょう。

 そして、それを行動に移し、結実したのが「イマジン」であり、「イマジン」での創作者としての達成感を受けて、よりリラックスした形で生み出すことができたのがこの「ハッピー・クリスマス」だったのではないかと思います。

 

「パワー・トゥ・ザ・ピープル」〜「イマジン」〜「ハッピー・クリスマス」という流れは、反戦、平和主義の考えが、彼の中でクリエイティヴなものとして消化されていった過程のように僕には感じ取れるような気がします。

 

 それから、この曲についてのトピックを付け加えるとすると、プロデュースをフィル・スペクターがやっているということでしょう。1970年のジョンのシングル「インスタント・カーマ」から彼は制作に加わっていました。

 

 この曲のレコーディングを見学したリチャード・ウィリアムズという音楽ライターはこう書いています。

「スペクターにこのクリスマスの曲を演奏してみせたとき、彼は即座に1961年のパリス・シスターズのヒット曲「忘れたいのに」から取ってきたものだねと言った。この曲はテディ・ベアーズ時代のヒット後、彼の初ビッグ・ヒット曲だったから、彼も知っているはずだ。スペクターに言い当てられて、レノンは自分の新曲がよけい好きになった。」

 (「音の壁の向こう側 フィル・スペクター読本」)

 

 ちなみに、フィル・スペクターがプロデュースしたパリス・シスターズの「忘れたいのに」はこんな曲です。

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 自分の代表曲に似たコードの曲だということに加え、クリスマス・ソングだということでフィル・スペクター本人も気分が高まったことでしょう。彼が自身の最高傑作だと(たぶん)自負しているのはクリスマス・アルバム「クリスマス・ギフト・フォー・ユー」ですから。

 

 音楽的な相性でいえば、ジョンよりジョージ・ハリスンの方がずっとフィル・スペクターに合っていたように思いますが、ジョン&フィルのコンビの最高傑作はこの「ハッピー・クリスマス」だと僕は思います。

 そして、フィル・スペクターサウンドクリスマス・ソングはその後、現在に至るまで数多く作られることになりますが、そのルーツは本家スペクターの「クリスマス・ギフト・フォー・ユー」だけじゃなく、この「ハッピー・クリスマス」も多大に貢献しているんじゃないかと僕には思えます。

 

 それでは、最後にマルーン5によるカバーを。

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パリス・シスターズ「I LOVE HOW YOU LOVE ME」収録

The Essential: Phil Spector

マルーン5のカバーを収録

 

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