まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「恋人たちのクリスマス(All I Want For Christmas Is You)」マライア・キャリー(1994)

 おはようございます。

 今日はクリスマス・ソングの大人気曲をあえてピックアップ。


Mariah Carey - All I Want For Christmas Is You (Official Music Video)

  この曲が発売されたとき、ちょうど僕は発売元のレコード会社の洋楽部の宣伝マンとして関わっていました。

 ほんとに、飛ぶように売れるというのはこういうことか、と思うくらいCDが売れました。宣伝マンとしても一切苦労した覚えはありません(苦笑。

   テレビドラマ「29歳のクリスマス」の主題歌になったということが大きかったですね。あと、1994年の日本はバブルは終わったとはいえ、今では考えられないくらいクリスマスで大盛り上がりしていました。クリスマスに予定がないなどと言うと”罪人”を見るかのような目で見られた、そんな時代です(なんか、辛かったなあ、、)。

 そのムードとこの曲がまたドンピシャだったんですね。この曲が入ったアルバム「メリークリスマス」は当時の日本の洋楽アルバムの売上記録を作ったはずです。

 今では本国アメリカでもクリスマスの定番になっていますが、当時はそれほどではありませんでした。だいたい、この曲はシングルカットされませんでしたし。世界で一番最初にこの曲が大ブレイクしたのは日本だったと言っていい思います。 

 

  さて、このブログはポップスの裏方に言及することが多いのですが、今回もこの曲をマライアと共作したウォルター・アファナシエフと言う人にスポットを当てます。

 

  彼はマライア以外も数多くのアーティストを手掛け、プロデューサーとして、セリーヌ・ディオンが歌った映画「タイタニック」の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」でグラミー賞を受賞している、1990年代を代表する大ヒットプロデューサーです。

  彼は名前からわかる通りロシア人ですが、ブラジル生まれというポップ・ミュージックの世界では珍しいプロフィールの持ち主です。

 1980年頃サンフランシスコに渡りキーボーディストとして活動を始め、ジャズ・バイオリニスト、ジャン・リュック・ポンティのバンド・メンバーになったことからチャンスがひらけ、その後、80年代を代表するプロデューサー、ナラダ・マイケル・ウォルデンのキーボーディストとして採用され、数々のレコーディングを経験し、共同プロデュースもするようになります。

  ナラダは元々は超絶的な技巧を持つスーパー・ドラマーとして有名でしたが、80年代には打ち込みのダンス・ポップで数々の大ヒットを飛ばしました。

    ウォルターはそこでドラムのプログラミングを始めとする打ち込みをマスターしたようです。

    腕の立つキーボーディストでありながら、ドラム・プログラミングにも長けているというのは、大変珍しいことで、彼が重宝された大きな理由でもあったのだと僕は思います。

 

  そして、ナラダがマライアのデビュー・アルバムの何曲かをプロデュースしたときに、現場でのウォルターの素晴らしい仕事ぶりを見たレコード会社(ソニー)のトップが、マライアのアルバムの中の1曲のプロデュースを彼に任せることにします。

  それが、マライアのセカンドシングル「Love Takes Time」です。


Mariah Carey - Love Takes Time

 

   マライアはアマチュア時代から現在まで一貫してオリジナル曲は自分が誰かと共作するスタイルをとっています。

 このことが、彼女が息長く活躍できた隠れた要因になったと僕は思っています。

 1990年代以降、R&Bシンガーはヒップホップのトラックに合わせて歌う手法が現れ、現在はそれが完全に主流です。ビヨンセなんかそうですよね。

 マライアはセカンド・アルバムから、トラックメイカーとの共作をやっていましたから、そういう時代になってもすぐに対応できたわけです。そして、その都度旬のクリエイターと共作することで、自分自身も自然にアップデートできたのです。

 これが、例えばホイットニー・ヒューストンのような、用意された楽曲をいかに自分らしく歌いこなすかが魅力である”ザ・シンガー”の場合、柔軟に自身をアップデートするのはやはり難しかったんだと思います。

 ここにマライアとホイットニーより長きにわたって活躍できた要因があるはずです。同様に、共作により自身をアップデートしピークを延ばし続けている最高の成功例はマドンナでしょう。

 

 脱線してしまいました。話を戻します。

 セカンド・アルバムからウォルターとも共作を始め、息も合い結果も伴ったということで、彼女曲作りのメイン・パートナー、そして共同プロデューサーになりました。 

   

    ウォルターがピアノを弾くそばに彼女が座って、時には彼がイメージするコードに合わせて彼女がフレーズを口ずさみ、時には彼女の思いついたメロディをきっかけにして彼が発展させるという風に、まさにキャッチ・ボールをしながら曲を作っていったようです。

 かつて、大ヒット作曲家や、大ヒット・プロデューサーというのは独創的な自分の”音世界”を持ち、その世界にシンガーを取り込むようにして作品を作っていたわけですが、1990年代ごろから、そのアーティストの個性をより強めてくれるために”チームワークができる”作曲家、プロデューサーが求められるようになっていきました。

 現代最高のヒットメイカー、マックス・マーティンはその最たる人ですが、ウォルター・アファナシエフはその先駆けだったと言えます。

 ”アーティストとの共作で力を発揮できる”というのは現代のヒット・プロデューサーの必須条件でもあるのです。

 

 

 さて、二人の作品で最も売れた曲が「ヒーロー」と「ワン・スイート・デイ」ですから、そのちょうど間の時期にあたる「恋人たちのクリスマス」は彼らの全盛期に作られたものだと言っていいでしょう。

  ウォルターのリズミカルなピアノに合わせて、マライアがフレーズを口ずさんでゆく、そうして出来上がったそうです。シンプルな曲なので、彼らの他の曲に比べてそんなに手間はかからなかったようです。そのシンプルさがかえって世界中で人気になった要因だろうとウォルター本人は分析しています。

  彼いわく、ロックンロールっぽい、フィル・スペクターっぽいイメージだったそうです。確かにピアノの左手のリフはクリスタルズの「ダドゥ・ロン・ロン」でお馴染みのパターンですね。

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  それに、「メリー・クリスマス」にはスペクターの「クリスマス」もカバーも収録されています。

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  それから、マライアが書いた歌詞についてウォルターは、アップ・テンポのクリスマス・ソングでポジティブなラブ・ソングというのは今までになかったから、それもよかったんじゃないかと言っています。そう言われると確かに、そうですね。

 

 追記:この記事の翌日(12/17)、この曲が発売から25年目にしてついに全米NO.1になったというニュースが流れました。今はストリーミングが中心ですから、何か話題があれば過去の曲も新曲同様にヒットチャートの上位に入るのが普通になっているんですね。

 


Justin Bieber, Mariah Carey - All I Want For Christmas Is You (SuperFestive!) (Shazam Version)

 

All I Want for Christmas Is You

All I Want for Christmas Is You

  • アーティスト:マライア・キャリー
  • 出版社/メーカー: Columbia
  • 発売日: 2013/01/14
  • メディア: MP3 ダウンロード
 

 

 

恋人たちのクリスマス (Album Version)

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