まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ケアレス・ウィスパー (Careless Whisper)」ワム!(1984)


 おはようございます。

 今日はワム!の「ケアレス・ウィスパー」を。


George Michael - Careless Whisper (Official Video)

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I feel so unsure
As I take your hand and lead you to the dance floor
As the music dies, something in your eyes
Calls to mind the silver screen
And all its sad good-byes

I'm never gonna dance again
Guilty feet have got no rhythm
Though it's easy to pretend
I know your not a fool

Should've known better than to cheat a friend
And waste the chance that I've been given
So I'm never gonna dance again
The way I danced with you

Time can never mend
The careless whispers of a good friend
To the heart and mind
Ignorance is kind
There's no comfort in the truth
Pain is all you'll find

I'm never gonna dance again
Guilty feet have got no rhythm
Though it's easy to pretend
I know your not a fool

I should've known better than to cheat a friend
And waste the chance that I've been given
So I'm never gonna dance again
The way I danced with you

Never without your love

Tonight the music seems so loud
I wish that we could lose this crowd
Maybe it's better this way
We'd hurt each other with the things we'd want to say

We could have been so good together
We could have lived this dance forever
But no one's gonna dance with me
Please stay

And I'm never gonna dance again
Guilty feet have got no rhythm
Though it's easy to pretend
I know your not a fool

Should've known better than to cheat a friend
And waste the chance that I've been given
So I'm never gonna dance again
The way I danced with you

(Now that you're gone) Now that you're gone
(Now that you're gone) What I did's so wrong, so wrong
That you had to leave me alone

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すごく不安なんだ

君の手を取って ダンスフロアに連れてゆきとき

音楽が止むと 君の瞳の何かが 

映画のスクリーンを思い起こさせるんだ

悲しい別れのシーンたちを

 

もう二度とは踊らない

罪の意識で、脚でリズムが取れないんだ

ごまかすのはたやすくても

君はバカじゃないから

 

ちゃんとわかっておくべきだった

友だちをだまして あたえられたチャンスを棒に振ってしまうよりも

だから、もう二度と踊れない

君と踊ったようには

時間は繕ってはくれない

親友の軽率なささやきは

心にしてみたら

知らないことの方が、親切なんだ

真実には慰めなんてなくて

見つかるのは痛みだけ

 

もう二度とは踊らない

罪の意識で、脚でリズムが取れないんだ

ごまかすのはたやすくても

君はバカじゃないから

 

ちゃんとわかっておくべきだった

友だちをだまして あたえられたチャンスを棒に振ってしまうよりも

だから、もう二度と踊れない

君と踊ったようには

 

今夜は音楽がうるさく思える

この人混みを消せたらいいのにと願うよ

たぶん、この方法が良かったんだ

でなきゃ 言いたいことを言い合って傷つけ合うだけだから

二人は一緒にもっとうまくやれたのに

二人はこのダンスを永遠に続けられたのに

だけど、誰も僕とは踊ってくれないだろう

どうか、行かないで

もう二度とは踊らない

罪の意識で、脚でリズムが取れないんだ

ごまかすのはたやすくても

君はバカじゃないから

 

ちゃんとわかっておくべきだった

友だちをだまして あたえられたチャンスを棒に振ってしまうよりも

だから、もう二度と踊れない

君と踊ったようには

 

今はもう君は行ってしまった

僕がしたことは、大変な、大変な過ちだったから

君は僕をひとりっきりにしなきゃいけなかったんだ   (拙訳)

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 17歳の時に思いついたサックスのフレーズに徹底してこだわり続けたジョージ・マイケル 

 

 この曲をジョージ・マイケルが書いたのは1981年、彼がまだ17歳から18歳になるという、まだ大変若かった頃のことです。

 当時、彼は建設現場、レストランのDJ、映画館の案内係など、いろんな仕事をしていたそうです。

 

「『ケアレス・ウィスパー』を書いたのは、ベル・エアにDJをやりに行く途中だった。僕はいつもバスや列車や車の中で書いていた。」

「『ケアレス・ウィスパー』については、正確に時と場所を覚えている。そんなのってほんとに妙だし、口にするとなんだかロマンチックだけど、どこで浮かんできたか、自分がバスのどこに座っていたか、その次にどんなことをしたか、とかすべてをはっきりと覚えている。バスの車掌にお金を渡してた時、こんなライン、サックスの「ダーダ、ダーダ、ダーダ、ダーダ」ってラインを思いついたんだ。車掌があっちに行って、僕は頭の中で書き続けた。全部頭の中で完成させたのさ。3ヶ月ぐらい頭の中でずっと練っていたんだ。」

 (「自伝 裸のジョージ・マイケル」)

 

 そして、彼は相棒のアンドリューのところに行きそのメロディーラインを聞かせ、アンドリューがそれにギターのコードを合わせながら、曲を一緒に作って行ったそうです。メロディーはほとんどジョージが書き、歌詞は共作したそうです。

 

 歌詞の背後にある物語はジョージの実体験が反映しているところがあるようです。

 彼はもともと眼鏡をかけて太った少年で容姿にコンプレックスを持っていて、その頃憧れていた女の子が、何年か後に彼がディスコで歌う姿を見て好きになり付き合いだしたそうですが、その頃彼には前から付き合っていた相手がいたそうです。

 

「『ケアレス・ウィスパー』の発想は、この最初の女の子が2番目の女の子を知ってしまうというものだった。実際はそうならなかったけど」

 (「自伝 裸のジョージ・マイケル」)

 

 実際に彼は二股をかけていて、実際にはバレなかったのですが、バレたという想定の歌詞にしたわけです。罪悪感と怖れはあったのでしょう。ちなみに、彼はそのあと、また別の女の子とつきあいはじめ、その憧れていた女の子とは別れることになったそうです。

 背景となる実体験があったからこそ、曲に説得力も加わったのだと思いますが、それ以上に僕が興味を持ったことは、商業音楽としてこれほど巧みでパワーのあるメロディーを17歳で書いたということと、イントロのサックスのキラー・フレーズも曲の大切な一部として書かれていた、という事実です。

 

 この「ケアレス・ウィスパー」には、最初に録音された別ヴァージョンが存在し、発売もされています。


George Michael - Careless Whisper (Special Version)

 プロデューサーはジェリー・ウェクスラー。スタジオはアラバマ州のマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオ。アレサ・フランクリンの才能を覚醒させ、R&Bの老舗アトランティック・レコードの名作を数多く生み出したラインナップなんです。

 

 このアイディアは当時ワム!のマネージャーだったサイモン・ネピアベルの発案だったそうです。彼はTレックスヤードバーズなどを手がけた、イギリス音楽シーンの伝説的人物です。

 マッスル・ショールズの凄腕ミュージシャンたちで、バックの演奏を録音し、LAから有名なサックス奏者を呼んだそうですが、ジョージは気に入らなかったそうです。

 サイモンはこう回想します。

「LAからきたサックス奏者は、完璧にそのパートを演奏しているように見えるんだけど、その度にジョージが言うんだ”いや、まだちょっと違うんだ”そして彼は、トークバック(録音中に演奏者と会話するための)のマイクに頭を下げて、また辛抱強くそこのパートハミングするんだ”そのところでちょっとだけ上の音に引き上げるんだ、わかるかい?だけど、やりすぎはダメだ”」 (Skrufff)

 

 あとでサイモンはジェリー・ウエクスラーに、サックスの演奏が本当に違っているのかたずねたそうです。

「ジェリーは答えたんだ”間違いない!”こういうことは前にもあったよ。あのサックス奏者がどうしてもつかめない、ちょっとしたニュアンスがあるんだ。君や僕にはそれが何なのかわからなくても、それがヒット曲にするきっかけになるかもしれない。ポップ・レコードの成功というのは、あまりにもはかなく、信じられないほど予測不可能だから、せっかちになるようなリスクを冒すことはできないんだ」(Skrufff)

 

 ジェリーにもジョージがこだわるポイントはどこなのかわからない、しかし、辛抱強くそれに付き合うことから、ヒット・レコードが生まれる可能性があることを経験上知っている、ということなんですね。

 

 その後、ニューヨークからも売れっ子サックス奏者を呼びますが、彼もやはりうまくいかず、サックス抜きのままバックトラックだけを完成させたそうです。

 

 しかし、演奏自体もよくないと考え、ジョージがいつも使っているメンバーと友人のサックス奏者であらためてこの曲をレコーディングし、それが大ヒットしたヴァージョンになったというわけです。

 ジョージの友人のサックス奏者の演奏について、サイモンはこう語っています。

「彼はたぶん、正しくない指の使い方で演奏して、それがジョージが求めていた独特なフィーリングを与えたんだよ。あのアメリカのプレイヤーはただあまりに上手すぎて、それを出せなかったんだ」

 

 17歳のときにバスの中でふと浮かんだサックスのフレーズのフィーリングの細部にまでジョージが徹底してこだわったことが、大ヒットにつながったということ、

そして、ポップスというのはただ歌詞と曲が良ければいいのではなく、アレンジ、アレンジもただ上手ければいいのではなく曲にピッタリ合っていること、というのが”命綱”なのだということを、この「ケアレス・ウィスパー」の2つのヴァージョンを聴き比べることでわかると思います。

 

 後に、ジョージは若くて未熟な時代に書いたこの曲がアーティストとしての自分を定義するようなものになってしまったことに正直とまどっている、と語り、自分ではあまり評価していないようでした。

 そういう意味では貴重な後年、2008年のライヴを最後に。


George Michael - Careless Whisper (25 Live Tour) [Live from Earls Court 2008]

 

 

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