おはようございます。
今日はキャロル・キングの「イッツ・トゥー・レイト」です。
Stayed in bed all morning just to pass the time
There's something wrong here, there can be no denying
One of us is changing
Or maybe we just stopped trying
And it's too late baby now it's too late
Though we really did try to make it
Something inside has died
And I can't hide and I just can't fake it
It used to be so easy living here with you
You were light and breezy and I knew just what to do
Now you look so unhappy and I feel like a fool
And it's too late baby now it's too late
Though we really did try to make it
Something inside has died
And I can't hide and I just can't fake it
There'll be good times again for me and you
But we just can't stay together, don't you feel it too
Still I'm glad for what we had and how I once loved you
But it's too late baby now it's too late
Though we really did try to make it
Something inside has died and I can't hide
And I just can't fake it
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朝の間ずっと、ベッドの中で時をやり過ごした
何かよくないものがここにはある、
それは否定できない
私たちのどちらかが変わったのか
もしかしたら、二人ともあきらめてしまったのか
だから遅すぎるのよ、ベイビー、もう遅すぎたの
たとえ、二人が本気でなんとかしようとしたって
心の中の何かが死んでしまって
私はそれを隠せない、ごまかすことができないの
あなたとここで暮らすのはとても心地よかった
あなたは明るくさわやかで、
私は何をやったらいいかわかっていた
今のあなたは不幸せそうで、
私は自分がバカみたいに感じるの
だから遅すぎるのよ、ベイビー、もう遅すぎたの
たとえ、二人が本気でなんとかしようとしたって
心の中の何かが死んでしまって
私はそれを隠せない、ごまかすことができないの
私とあなたにとっていい時がまたやってくるでしょう
だけど、二人はもう一緒にいられない、
あなたもそう思わない?
あなたと過ごし、あなたを愛したことを
今もうれしく思うわ
だけど遅すぎたのよ、ベイビー、もう遅すぎるの
たとえ、二人が本気でなんとかしようとしたって
心の中の何かが死んでしまって
私はそれを隠せない、ごまかすことができないの
(拙訳)
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発売から今年で50周年になる名作「つづれおり」からのシングルで、1971年に5週連続全米NO.1 、年間チャート3位(1位はスリー・ドッグ・ナイト「喜びの世界」2位はロッド・スチュワート「マギー・メイ」)という大ヒット曲です。
「つづれおり」の多くの曲はキャロル・キング本人が詞曲ともに手がけていますが、彼女の前夫で作詞のパートナーだったジェリー・ゴフィンが3曲(うち2曲がかつて他のアーティストに提供したもののセルフ・カバーなので書き下ろしは1曲)、あと、トニ・スターンという女性作詞家が2曲歌詞を書いていて、そのうちの1曲がこの「イッツ・トゥ・レイト」でした。
ニューヨークで生まれ育ち、ニューヨークで職業作家として 活動していた彼女が、心機一転ロサンゼルスに移ったことがこの「つづれおり」というアルバムが生まれる大きな要因となりました。
当時、キャロルが所属していた会社のロサンゼルス支社長だったレスター・シル(フィル・スペクターを見出しバックアップした人でもあります)から、彼女の曲作りのパートナーとして紹介されたのがトニでした。レスターとつながりのあったトニの知り合いが彼女の詩をキャロルに見せ、それを彼女が気に入ったのです。
生粋のNYっ子のキャロルに対して、トニは生粋のLAっ子、こんがり日焼けした姿でビーチまでオープンカーで走らせるような、まさにカリフォルニア・ガールで、キャロルがロサンゼルスという土地に馴染むのにも大きな助けになったそうです。
キャロルはトニの歌詞についてこう書いています。
「トニは”歌のフィーリングをもった詩”を書く人で、読むと自然とメロディが生まれてくるのだ」
「これまで何年も、ジェリーが彼独特の言葉や身振りで表現しようとする方向性を、解説し翻訳し理解して、彼の意図するメロディを造り出してきた私にとって、トニの明晰な指示は開放的だと感じた。メロディの方向性を無言で示す彼女のやり方は、私に、彼女のアイディアを試しながら自分のアイディアを発掘しようという勇気を与えた。ジェリーなしでヒット曲をかけるのかまだ不安だったが、トニと私の間に流れる気楽な空気は、消えた自信を再発見する重要なステップになった」
ジェリー・ゴフィンとの曲作りは基本的に彼の意図を探りながら作ってゆく受動的なものだったのが、トニとの作業はもっと自由で、自発的な方向に彼女を導いていったんですね。
「私はジェリーの才能、豊かな知性、技術、実績に圧倒されて、自分の詞を人に見せるなど絶対にできなかったのだ。書きかけで終わっているものも多い。長い間ジェリーと共作し彼の作品の完成度の高さを知り尽くしている私は、作詞の途中で手を止め「別に書かなくても」と思ってしまうのだ。
もしかしたら私一人でも作詞できるかもしれない、と最初にひらめいたのは、トニの曲作りへの好意的なアプローチを見た時だった。」
結果的にトニは、「つづれおり」で多くの曲の歌詞をキャロル本人が書く方向に彼女を導いた影の貢献者だったのかもしれません。
トニの歌詞からキャロルが自然にメロディが出てくるのは本当だったようです。トニはレポート用紙に歌詞を書き溜めると頻繁にキャロルの家に行くと
「彼女はその紙を持って、ピアノの譜面台に置くと、1時間か最大でも1時間半くらいで、彼女はメロディを考えたわ」
(UCR 2021April 14)
作業時間が短かっただけじゃなく、出来上がった時にはアルバムで聴くことのできるものとかわらない完全な形だったそうです。「イッツ・トゥ・レイト」もそうだったといいます。
ちなみに、トニのほうは「イッツ・トゥ・レイト」の歌詞を20分以内に書き上げたのだそうです。
ジェイムズ・テイラーがジョニ・ミッチェルと付き合う前につきあっていたのがトニ・スターンで、彼女がジェームズが別れたことをもとにこの歌詞を書いたとする説もあるようですが、トニはそういう”自伝的に”書いたことはいっさいない、と否定しています。
”Stayed in bed all morning just to pass the time”というフレーズが浮かんだら、一気に他の言葉や、ストーリーが生まれていったと語っています。
そして、その歌詞がキャロル・キングの心情や感性と自然にシンクロしたんでしょうね。「イッツ・トゥー・レイト」を聴くと、まるで彼女が歌詞を書いたかのように聴こえます。
ただ、考えてみると、パートナーのジェリー・ゴフィンに対してずっと”受動的”だったキャロル・キングには、相手の男に”もう遅いのよ”と言い切るような歌詞は書けなかったと思います。しかし、ジェリーから距離を置き自立し始めたこの時期の彼女には、すごくしっくりくるものがあったんじゃないかと思います。
前に引用した文章の中で、キャロルはトニについて
彼女のアイディアを試しながら自分のアイディアを発掘しようという勇気を与えた。
という言葉がありました。
トニ・スターンはキャロルが”自発的に”曲を書くようになるきかっけになったわけですが、それは彼女がキャロルのメロディを引き出すような歌詞を書いたということだけじゃなく、やはり女性だったことは大きいんじゃないかと僕は思います。
ジェリーは「つづれおり」にも入っている「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」のような恋する女性の切ない気持ちや、「ナチュラル・ウーマン」のような大きな視点の女性詞も書ける人でしたが、この時代はもっと等身大でリアルな心の声を語る”シンガー・ソングライター”の時代になってきていました。
男性が書く女性詞では、もはや限界があったのかもしれません。
曲も演奏も群を抜いて素晴らしいと評価されている「つづれおり」ですが、もうひとつ、他の人のために曲を書き続けてきた彼女が、自分の内面の声を自然に説得力のあるかたちで歌にする、という大きな”モデル・チェンジ”を達成することができなければ、時代を象徴するような大ヒットにはならなかったと思います。
「つづれおり」の前年にリリースされた彼女の最初のソロアルバム「ライター」はトニが2曲歌詞を書いた以外は全部ジェリー・ゴフィンが歌詞を書いていました。
前にも書きましたが、ジェリー・ゴフィンへの依存から脱却したことが「つづれおり」を成功させた、最大の要因の一つだと僕はとらえています。
ジェリーは素晴らしい作詞家で僕もすごくリスペクトしていますが、このタイミングでは、キャロルの”自立”が最も大事なことだったのです。
そして、キャロルから”自発的なもの”を引き出した貢献者がトニ・スターンであり、その代表が「イッツ・トゥ・レイト」だったのだと思います。
この曲くらいになると、さすがにものすごい数のカバーがあるのですが、R&B系のアーティストもたくさんとりあげています。
その中で僕がカッコいいなと思ったのは、”ブルースの女王”とも呼ばれたデニス・ラサールが1972年に発売したヴァージョンです。
こちらを最後にどうぞ。
追記:日記ブログはじめました。よかったらのぞいてみて下さい