まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「アップ・オン・ザ・ルーフ(Up on the Roof)」ドリフターズ(1962)

 おはようございます。

 今日はキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンの名曲の一つ、ドリフターズの「アップ・オン・ザ・ルーフ」です。


the drifters - up on the roof

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When this old world starts getting me down
And people are just too much for me to face
I climb way up to the top of the stairs
And all my cares just drift right into space
On the roof, it's peaceful as can be
And there, the world below can't bother me
Let me tell you now


When I come home feeling tired and beat
I go up where the air is fresh and sweet 
I get away from the hustlin' crowds
And all that rat race noise down in the street 
On the roof's the only place I know
Where you just have to wish to make it so
Let's go up on the roof 


At night, the stars put on a show for free
And, darling, you can share it all with me
I keep-a tellin' you-a
Right smack dab in the middle of town
I found a paradise that's trouble-proof 
And if this world starts getting you down
There's room enough for two up on the roof

 

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このいつもの世界にうんざりして

人に会うことも ただつらくなってしまったら

僕は梯子のてっぺんまでのぼるんだ

そうすれば、心配事は全部 夜空に吸い込まれていく

屋根の上は これ以上ないくらいおだやかさ

そこにいれば 眼下に広がる世界は僕のじゃまはできない

今は、言わせておくれ

 

つかれて打ちのめされた気分で家に帰ってきたら

空気が新鮮でやさしい場所へのぼってゆくのさ

せわしない人波と 競争社会の騒音からのがれて

屋根の上はたった一つの場所さ

そこじゃあ、君がこうしたいと願うだけでいいんだ

屋根にのぼろうよ

 

夜になれば 星たちのショーをただで見れるよ

そして、ダーリン、それを僕と二人だけで楽しめるんだ

この話を続けるよ

街のまさにど真ん中に

心配無用の楽園を見つけたよ

もしこのいつもの世界が君を落ちこませたら

二人には十分な場所があるんだ 屋根の上なら    (拙訳)

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 昨日このブログに登場したロバート・ジョンがカバーした「ライオンは寝ている」で有名なトーケンズ(最初のころはニール・セダカが在籍していました)に若い頃夢中になったのがキャロル・キングです。

 彼女は大学時代にジェリー・ゴフィンと出会い、彼が作詞でキャロルが作曲するというかたちでチームを組みました。そして曲を作りながら仲も深まっていった二人は結婚し、彼女は妊娠します。そのとき彼女はまだ17歳だったそうです。

 生活のために、二人で作った曲をなんとかお金に変えたいと考えていた彼女は、知り合いだったニール・セダカに偶然再会し、彼の紹介で彼が契約している音楽出版社”アルドン・ミュージック”を紹介してもらうことになります。

 

 アル・ネヴィンズとドン・カーシュナーという二人が経営しているから”アルドン”と名付けられたその会社は、コニー・フランシスの曲が全米1位の大ヒットになり勢いに乗っていました。

 

 アメリカの黄金期のポップスの多くが、ニューヨーク、ブロードウェイ1619番地にある”ブリル・ビルディング”という建物の中の会社のソングライターたちによって書かれたということは、ポップス・ファンには知られるようになっていますが、アルドン・ミュージックはブロードウェイ1950番地にあったのですが、こちらの建物にも同様の会社がたくさん入っていました。

 キャロル・キングたちソングライターは、その会社の”キュービクル”と呼ばれていた小部屋に一日中つめこまれ、どの歌手にどんな曲を書くのかという”お題”を与えられて、毎日曲を書いていました。

 

 
「私たちは毎日、ピアノと椅子、そして運が良ければ作詞家のための椅子スペースがギリギリある場所に押し込められていました。そこに座って作曲をしていると、隣の部屋の誰かが自分と同じような作曲しているのが聞こえてくるの。次から次へといろんなソングライターが演奏するから、そのプレッシャーは本当に凄まじかったわ」
 (キャロル・キング  songfacts)
 
 そんな苛烈な環境のなか、キャロルとジェリーはヒットを作り出していきます。
 最初の大ヒットはシュレルズの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」(1960年全米1位)でした。


NEW ° The Shirelles — Will You Still Love Me Tomorrow ᴴᴰ (1960)

 この曲のアレンジ譜を書いたのもキャロルだったそうですが、参考にしたのがプロデューサー/ソングライター・チーム、ジェリー・リーバー&マイク・ストーラーがプロデュースしたドリフターズの「ゼア・ゴーズ・マイベイビー」。ストリートのR&Bにクラシック的な弦や管楽器を組み入れる手法にキャロルもジェリーも夢中になったそうです。

 そして、翌1961年から、ジェリーとキャロルの憧れでもあるリーバー&ストーラーのプロデュースするドリフターズに、彼らは楽曲提供するようになり、この「アップ・オン・ザ・ルーフ」もその1曲でした。

 

 この曲を書いたときのことを、ジェリー・ゴフィンはこう語っています。

「キャロルは車の中でこのメロディを思いついたんだ。アカペラで。僕は”a place to be alone”というのはどう?と言うと、彼女は'My secret place’と答えた。それで、この曲はもともと'My secret place'と呼ばれていたんだ。そして僕は”いや、それはよくないよ。'Up on the Roof'はどう?って言った。それはイメージとして、たぶん、『ウエストサイド物語』からきたんだ」

         (Rolling Stone  2017年2月) 

 ちなみに、彼らが毎日通っていたアルドン・ミュージックはニューヨークのブロードウェイにありましたから、『ウエストサイド物語』のミュージカル版が当時、まさに会社のすぐ近くの劇場で上演されていたそうです。

 

 

 この曲は全米5位まであがるヒットになりますが、シンガーとしてのキャロル・キングにとっても重要な曲になります。

 キャロルはボーカリストとしてレコーディングはいくつも経験していましたが、自分が主役としてお客さんの前で歌ったことはほとんどありませんでした。そんか彼女をソロ・シンガーとしてパフォーマンスすることを後押ししたのがジェイムズ・テイラーでした。

 

 彼は「アップ・オン・ザ・ルーフ」がお気に入りでライヴでカバーしていましたが、あるときピアノでライヴをサポートしてくれていた彼女に、自分のライヴでこの曲を歌うように彼女にリクエストしたのです。

 そして、ライヴが始まるとジェイムズはMCでじっくりと彼女のことを観客に紹介して場をあたためて、そのおかげもあって彼女が歌い終わると拍手と喝采が止まなかったそうです。

「ソロパフォーマーとしての就任式は、思いやりと雅量のある友人による親切な送り出しによって、大成功を収めたのだった。」

 (「キャロル・キング 自伝」)

 この経験によって培われた自信は、直後に制作された名作「つづれおり」での彼女の歌いっぷりにも大きな影響があったのではないかと僕は思います。

 

  1970年リリースのアルバム「ライター」に収録された、彼女のセルフ・カバー。


Carole King:-'Up On The Roof'

 

ジェイムズ・テイラーは1979年にようやくカバーをレコーディングします。

アルバム「Flag」に収録。


James Taylor - Up on the Roof (Audio)

 

 二人ともスロー・テンポにアレンジしてやっていますが、僕が個人的に気になるのは、もともとリズムのあったこの曲を、誰が最初にスローしたのか?ということなんです(どうでもいいことですよね、、)。

 はっきりとはわかりませんが、僕の調べた限りではカバーはずっと長い間リズムがあるスタイルばかりだったんですが、キャロルがセルフカバーする一年前にケニー・ランキンがスローのテンポでやっていました。これが一番古そうです。1969年のアルバム「family」に入っています(すみません、この音源の動画がありませんでした)。

 

 ただ、ケニーのヴァージョンが、キャロルに影響を与えたってことはないはずです。

 それよりももっと大きな流れ、ちょうど弾き語りのシンガー・ソングライターの時代になってきていたことが何より大きいでしょう。

 ドリフターズの時代はアメリカの社会もまだまだ前向きで、毎日が慌ただしくて疲れたらちょっと一息いれよう、くらいのイメージだったのが、この頃は世の中が混沌とし、悩みも複雑に歌もより内省的になってきた、そんな世相が反映されているのかもしれません。

 ただ、テンポを落として歌うことで、時代の変化に対応できたと言うことは、いかにこの曲が普遍的であるかを証明しているようにも思えます。

 

 

 この曲のカバーで、とても興味深いのがローラ・ニーロのヴァージョン。

 やはりスローなアレンジで歌われています。キャロルのわずか2ヶ月後の発売ですから、キャロルのヴァージョンを聴いてから作ったとは考えづらいです。

 キャロルの5才下の彼女は、ニューヨークのブロンクスに生まれクラシックやジャズの素養もありながら、街角でR&Bコーラス・グループで歌っていたというプロフィールは、キャロルと少し重なるところがあります。

 そして、キャロルより深く黒人の音楽が刷り込まれていた彼女のヴァージョンは、キャロルとの個性の違いが見事に反映されているように思えます。


Up On The Roof - Laura Nyro

  僕は「アップ・オン・ザ・ルーフ」の中でこのヴァージョンがベストだと思っています。

 その曲の成り立ちからして「アップ・オン・ザ・ルーフ」は、とてもニューヨークらしい曲なんですよね。でも、キャロルはLAに引っ越してそこで録音してしまった(別に悪くはないんですけど)。なんだかんだ言っても、屋根の上は広くて風通しが良さそうに聴こえてくるんです。

 それに対して、ローラの方はニューヨークの匂いが濃い感じがしていいんですよね。

すぐそばには街の雑踏が聴こえてくるような。これは、もう主観でしかないですが、、(苦笑。

 

 とかいいつつ最後は、キャロルとジェイムズに敬意を表して。

2010年、LAの伝説的なライヴ・バー「トゥルバドール」での二人のライヴを。


Up On The Roof

 

 

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