まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「白い渚のブルース(Stranger on the Shore)」アッカー・ビルク (Acker Bilk)(1962)

 おはようございます。

  夏も終わるなあ、と思ったらふとメロディが浮かんできて、急にブログを更新したくなりました(笑)。そのメロディはアッカー・ビルクの「白い渚のブルース」でした(僕でさえまだ生まれていない時代の曲ですが、、、)。

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「白い渚のブルース(Stranger on the Shore)」の楽譜はこちら

 

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 昔はインストの大ヒット曲ってけっこうあったんですよね。今はほとんどないですが。

 今と昔では音楽そのものもかなり違いますが、大衆の音楽の聴き方もずいぶん変わってきたからかなあ、と僕は思います。メロディより、リズムと歌詞のウェイトがずいぶん高くなったなと感じます。

 

 この「白い渚のブルース」は1962年にイギリスで最も売れたシングルで、しかもアメリカのビルボードでも年間1位という、まさに1962年最大のヒット曲だったそうです。今の感覚ではちょっと信じられないですよね。。。

 

 さて、この曲を作り演奏しているアッカー・ビルク(1929年1月〜2014年11月)は、イギリスのクラリネット奏者で、ビブラートが豊かで低音域をメインとした演奏スタイルと、口ひげ、ボーラー・ハット、ストライプ入りのウエストコートという個性的な外見で大変人気のあった人で、映画にも出ていたようです。

  彼の本名はバーナード・スタンリー・ビルクですが、彼が生まれ育ったサマセット州では「アッカー」は<友達>や<仲間>を意味する言葉で、彼のあだ名でした。きっと親しみやすいキャラだったのでしょう。

 14歳の時にそり遊びで左手の中指の先を失い、また、学校で喧嘩をして前歯を2本失ったそうですが、そんなハンデもものともせず(それが彼の演奏の特徴になったと本人は主張していたそうです)、19歳でクラリネットの演奏を始め、入隊すると軍のクラリネットを借りてレコードをコピーし始め、職務中に寝てしまったために送られた営倉(軍の懲罰施設)でも練習を重ねたそうです。そして、除隊後に彼は正式にクラリネット奏者として活動を始めました。

 彼の最初のヒットは1960年、「Summer Set」という曲が全英5位まで上がりました。

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 そして、1962年にこの「白い渚のブルース(Stranger on the Shore)」が大ヒットするわけですが、この曲は当初彼の娘の名前からとった「ジェニー(Jenny)」というタイトルで彼のアルバムに収録されていたのですが、イギリスBBCのドラマシリーズストレンジャー・オン・ザ・ショア』で使われることになり、曲のタイトルが変更されました。ちなみに、このドラマは、日曜日の午後に放送された子供向けの作品で 全5話だったそうです。

 

 そして、この曲が海を渡ってアメリカでもチャートを急上昇するや否や、歌詞がつけられボーカル・ヴァージョンも数多く生み出されます。最初に歌ったのはドリフターズでした(全米73位)。1962年は彼らがキャロル・キング&ジェリー・ゴフィン作の「アップ・オン・ザ・ルーフ」をヒットさせた年ですね。

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 そしてその翌月にリリースされたアンディ・ウィリアムスのヴァージョンが歌ものでは一番ヒットしました(全米38位)。

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歌詞はこんな感じです。

 

Here I stand, watching the tide go out
So all alone and blue
Just dreaming dreams of you

I watched your ship as it sailed out to sea
Taking all my dreams
And taking all of me

The sighing of the waves
The wailing of the wind
The tears in my eyes burn
Pleading, "My love, return"

Why, oh, why must I go on like this?
Shall I just be a lonely stranger on the shore?

The sighing of the waves
The wailing of the wind
The tears in my eyes burn
Pleading, "My love, return"

Why, oh, why must I go on like this?
Shall I just be a lonely stranger on the shore?

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ここに立って、潮が引いていくのを見つめている
あまりに一人ぼっちで寂しくて
ただあなたの夢を見ている

 

あなたの船が海へ出て行くのをじっと見ていた
僕の夢を全部連れ去って
そして僕のすべてを奪い去った

 

波のため息
風の嘆き
涙が灼けるように目にしみる
「僕の愛する人よ、戻ってきて」とひたすら願いながら

 

なぜ、ああどうして、僕はこんな風に生きていかなくちゃいけないの?
僕はただ一人きりで渚に立つよそ者じゃなくちゃいけないの?

 

波のため息
風の嘆き
涙が灼けるように目にしみる
「僕の愛する人よ、戻ってきて」とひたすら願いながら

なぜ、ああどうして、僕はこんな風に生きていかなくちゃいけないの?
僕はただ一人きりで渚に立つよそ者じゃなくちゃいけないの?

 

                      (拙訳)

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 とはいえ、僕はこの曲はやっぱりインストの方がいいなあ、と思います。特にオリジナルのクラリネットの音色とニュアンスになんとも言えない”侘び寂び”(洋楽なのに、、)感じてしまいます。

 

 アッカーの後の時代にインスト界の頂点に立った二人の管楽器奏者もこの曲をカバーしています。

 まずはポップ・ミュージックの世界で間違いなく最も売れたトランペッター、ハーブ・アルパート。1987年リリースのアルバムの「Keep Your Eye On Me」に収録されていました。

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 そして、最もアルバムが売れたジャズ・プレイヤーとしてギネスで認定されているという、ソプラノ・サックス奏者のケニーGが1999年にカバーしています。なんかデヴィッド・フォスターの曲みたいに聴こえるなあと思ったら、アルバムのプロデュースに彼が参加していました。ただ、この曲のアレンジはマライア・キャリーのバラードを数多く手がけているウォルター・アファナシエフでした。

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