まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「From The Start」レイヴェイ(Laufey)(2023)

 おはようございます。

 夏休み限定復活も今日でひとまず最後です。

 夏らしく心地よいボサノヴァで、レイヴェイの「From The Start」を。

youtu.be

Don't you notice how
I get quiet when there's no one else around?
Me and you and awkward silence
Don't you dare look at me that way
I don't need reminders of how you don't feel the same


Oh, the burning pain
Listening to you harp on 'bout some new soulmate
"She's so perfect," blah, blah, blah
Oh, how I wish you'll wake up one day
Run to me, confess your love, at least just let me say


That when I talk to you
Oh, Cupid walks right through
And shoots an arrow through my heart
And I sound like a loon
But don't you feel it, too?
Confess I loved you from the start


What's a girl to do?
Lying on my bed staring into the bluе
Unrequited, terrifying
Lovе is driving me a bit insane
Have to get this off my chest, I'm telling you today


That when I talk to you
Oh, Cupid walks right through
And shoots an arrow through my heart
And I sound like a loon
But don't you feel it, too?
Confess I loved you from the start

 

Confess I loved you
Just thinking of you
I know I've loved you from the start

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気がつかないの?
まわりに誰もいないとき、私は静かになるの
私とあなたと気まずい沈黙
そんな目で私を見ないでよ
あなたが同じ気持ちじゃないって思い出したくもない


ああ、灼けつくような痛み
あなたが誰か新しい運命の人のことをくどくど喋るから
”彼女はもう完璧なんだ” とか、なんとか
ああ、いつかあなたが目を覚ましてくれればいいのに
駆け寄って愛を告白して、せめて私にこう言わせて


あなたと話していると
キューピッドが通り過ぎて
私の心に矢を放つの
私はバカみたいよね
だけどあなたも感じないの?
告白するわ、最初から愛しているって

 

女の子はどうすればいいの?
ベッドに横たわり 哀しい夜空を見つめる
報われない恋なんて、ゾッとするわ
愛が私をちょっとおかしくさせるのよ
この胸の内を吐き出さなきゃ 今日あなたに言うわ

 

あなたと話していると
キューピッドが通り過ぎて
私の心に矢を放つの
私はバカみたいよね
だけどあなたも感じないの?
告白するわ、最初から愛しているって

 

愛していたと告白してよ
あなたを想うだけで
そうよ、私は最初からあなたを愛しているの

                    (拙訳)  

 

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 1950年代後半に南米ブラジルで生まれたボサノヴァが、その誕生から70年近く経って極北の国アイスランドの女性シンガーのよって歌われ世界中で大人気になった、それだけでもものすごく興味深いことに思えます。   

 

 僕がこのブログで英詞を検索するときに使う”GENIUS"が、アーティスト自らが歌詞について解説するYouTubeチャンネルを始めていて、この曲も取り上げています。

 

 その中で、レイヴェイ本人は、この曲に共鳴する人が多かった理由として、人々があまり耳にしたことのない、長い間ポップミュージックの最先端じゃなかったボサノヴァやジャジーなグルーヴを取り入れているということと、誰もが経験したことのあることをあからさまに表現した歌詞、の二つがある、と実に的を得た分析をしています。

 

 特に歌詞のテーマについてはこう語っています。

「中学とか高校のときに、好きな友達がいて、でもその友達が他の誰かを好きだと話しているのを聞いているときの気持ちは、なんとも言えない沈んだ気持ちになるよね。私はいつも自分をすごく守っていて、自分が誰かに対してどう感じているかを正直に表現する勇気がなかったから、その気持ちを歌にして告白することにしたの」

 

 ジャジーな曲にあえて「blah, blah, blah、、(とか、なんとか、、)」という現代風な言い回しを入れたところを本人は気に入っていたり、小さい頃からエラ・フィッツジェラルドに憧れていて、エラが得意とするスキャットを自分もいつかやってみたいと思っていた、などと語っていて、

 今どきの話し言葉を歌詞に入れたり、逆に最近の音楽ではめったに聴けない”スキャット”をあえて入れたりと

 ただ懐かしいスタイルのジャジーボサノヴァをやるのではなく、新鮮に耳に入ってくる”仕掛け”もちゃんと考えてあったようです。

 

 僕の若い頃は、次の流行るサウンドはこれだ!これがトレンドだ!というものを必死に追いかけたものですが、今は違うんですね。膨大なポップミュージックのアーカイヴの中からアーティスト自身が特に気に入ったものをあとランダムに選び、ときにはいくつかのジャンルをミックスさせ、新たな命を吹き込む、その”命の吹き込み方”が一番大事になっているんですね。

 それをあらためて思い知らせらたのが、この「From The Start」でした。

 

 

  レイヴェイ(本名: レイヴェイ・リン・ヨンスドッティル)は1999年4月23日、アイスランドレイキャビックで生まれで、父がアイスランド人、母が中国人です。幼少期からピアノやチェロを始め、2009年15歳でチェロのソリストとしてアイスランド交響楽団と共演を果たす。2014年、アイスランド版 「Got Talent」 のファイナリストまで進出しています。

 2020年4月、デビューSG「Street by Street」をリリース - アイスランド国営放送のラジオで1位を獲得しています。

www.youtube.com

 2020年9月、彼女がビリー・アイリッシュの「My Future」のカヴァー動画をSNSにアップしたところ、ビリー本人がリポストしたことで大きな反響を呼びました。

www.youtube.com

 

 2022年8月、デビューアルバム『Everything I Know About Love』をリリースし、ビルボードオルタナティヴ・ニューアーティスト・アルバムのチャートで1位を獲得。

 2023年9月、この「From The Start」を含むセカンド・アルバム『Bewitched』をリリース し、ビルボード・ジャズ・チャートで1位を獲得、2024年2月の<第66回グラミー賞>で『Bewitched』が「Best Traditional Pop Vocal Album賞」を受賞しています。

 

 彼女のウェブサイトのプロフィールにはこういう一文があります。

「音楽家としての私の目標は、ジャズとクラシック音楽をよりアクセスしやすい形で私たちの世代に届けることです」

 

 自分の好きなもの、学んできたもの、得意とするものが、見事に合致した目標だなあと思います。

 彼女の成功は一過性のものではないと僕は確信しました。

 

 

グラミー受賞作品『Bewitched』に新曲4曲を追加収録した最新デラックスAL『Bewitched: The Goddess Edition』

 

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