まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲を選曲しました(苦笑)。古今東西のポップ・ソングをエピソード、歌詞の和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。みなさんの音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの情報や思い出話などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌 (So Long, Frank Lloyd Wright)」サイモン&ガーファンクル(1970)

 おはようございます。

 今日はサイモン&ガーファンクルのフランク・ロイド・ライトに捧げる歌 (So Long, Frank Lloyd Wright)」です。

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So long, Frank Lloyd Wright
I can't believe your song is gone so soon
I barely learned the tune
So soon
So soon

I'll remember Frank Lloyd Wright
All of the nights we'd harmonize till dawn
I never laughed so long
So long
So long

Architects may come and
Architects may go and
Never change your point of view
When I run dry
I stop awhile and think of you

Architects may come and
Architects may go and
Never change your point of view

So long, Frank Lloyd Wright
All of the nights we'd harmonize till dawn
I never laughed so long
So long    So long
So long    So long   So long
("So long already, Artie!")
So long   So long

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さよなら、フランク・ロイド・ライト
信じられないよ あなたの歌がこんなに早く消えてしまうなんて
やっと曲を覚えたのに
こんなに早く こんなに早く

 

忘れないよ フランク・ロイド・ライト
夜明けまで一緒にハモった夜のことを
こんなに長く笑ったことはなかった
こんなに長く こんなに長く

 

建築家はあらわれ
建築家は消えてゆくかもしれない
あなたの考え方は絶対に変えないで
創作のアイディアが枯れてしまったら
ちょっと立ち止まってあなたのことを考えるよ

 

建築家はあらわれ
建築家は消えてゆくかもしれない
あなたの考え方は絶対に変えないで

 

忘れないよ フランク・ロイド・ライト
夜明けまで一緒にハモった夜のことを
こんなに長く笑ったことはなかった
こんなに長く こんなに長く
さよなら さよなら、、、

(もう長すぎるよ、アーティー

さよなら さよなら、、、

 

           (拙訳)

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 フランク・ロイド・ライトアメリカを代表的する建築家で、建築に興味のない僕でさえ名前を知っているくらいですから、ご存知の方は多いでしょうね。日本では帝国ホテルや自由学園明日館、旧山邑家住宅などを設計していて、親日家であり、日本の古典美術の有名なディーラーという一面もあったようですから、なおさら日本で知名度が高いのかもしれません。

 

自由学園明日館

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 なぜ、ポール・サイモンフランク・ロイド・ライトを歌にしたかというと、相方のアート・ガーファンクルコロンビア大学建築学を学んでいたことがあって、ライトのことを敬愛していたからのようです。あるとき、ライトが設計した家を見たアートがポールに彼の曲を書いてみたらと提案した、という話があったとも言われています。

 

 1969年11月の彼らのカーネギーホールでのライヴ盤でもこの曲をやっています。

”アーティはコロンビア大学で建築を学んでいて、去年の夏のある日、彼が僕にフランク・ロイド・ライトの曲を書いてくれないかとたのまれた。僕はフランク・ロイド・ライトのことは何にも知らなかった。にもかかわらず、僕は彼にフランク・ロイド・ライトの曲を書かせようとはしなかった”なんてことを言っているようです。

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 しかし、曲者(?)のポールは素直にライトのことを歌にせず、ガーファンクルのことを重ねたのではないかと、聴き手に勘ぐらせるような内容にしています。

 

 まず、<あなたの歌>とか<夜明けまで一緒にハモった>とか、ライトが歌い手という設定になっています。なのに、<建築家はあらわれ、建築家は行ってしまうかもしれない>なんてフレーズが出てきて、こちらは完全に煙に巻かれてしまいます。

 

 実は、この曲が収録されたアルバム「明日に架ける橋」のレコーディングと、アート・ガーファンクルが俳優業を始めることになった映画「キャッチ22」の撮影が重なったため、レコーディングが大幅に滞り、ポールに多大なストレスを与えていたと言われています。

 

 彼らのプロデューサーで、S&Gの3人目のメンバーとも言われているロイ・ハリーはこう語っています。

「わたしは裏切られた気分だった。たぶんポールも最初は腹を立てていたと思う。だが同時に悲しい気持ちもあったんじゃないかな。それは彼が書いていた曲にもあらわれている」

(「ポール・サイモン 音楽と人生を語る」)

 ハリーが指している曲は「ニューヨークの少年」と、この「フランク・ロイド・ライトに捧げる歌」なのです。

 

 熱心なファンの人たちはポールがアートに愛想を尽かした歌だと解釈し、エンディングで聞こえる"So long already, Artie!"、はポールがアートに「もう、さよならだ」と言っていると思っていたようです。

 (しかし、実際の声の主はロイ・ハリーで、彼らがエンディングで歌う" So Long"のコーラスが延々と続いたため”もうすでにSo Longだよ”と言ったのです)

 

 この曲の歌詞自体、So Long の文字通りの「すごく長い」と、もうひとつの「さよなら」という、二つの意味を実に巧みに使って、歌詞のどこまでが「すごく長い」で、どこからが「さよなら」なんだ?って僕も訳しながら考え込んでしまいました。

 

 ポールがこの曲でガーファンクルのことを歌っていたことに、ガーファンクル本人は気づいていなかったようで、何年か経ってからポールから教えられたようです。

 

 曲を書いた時にはそこまでの意図はなかったにせよ、結果的に、S&Gの解散を予兆する歌になってしまった、というのも不思議なものです。

 

 

 

 さて、僕がこの曲にすごく惹かれるのは、ボサノヴァっぽいコード感とメロディです。でも、カーネギー・ホールでの演奏の方がもっとボサノヴァ感がありますね。「明日に架ける橋」のアルバムのレコーディングでは、それをあえて少し抑えたのでしょう。

 

 「インスピレーション」(ポール・ゾロ著)という本のインタビューでは、この曲はナイロン弦のギターで書いたけれど、ブラジル音楽に親しむ前なのでああいうコードは知らなかったはずだから、自分でもどうやって書いたか不思議だとポール・サイモンは語っています。

  ただし、ネットを見ると他のインタビューで、彼はアントニオ・カルロス・ジョビンを多分聴いていた頃に書いたとも語っているようで、僕はさすがにボサノヴァをまったく聴かずに、こんな曲は書けないだろうと思います。

 時に”Architects may come and  Architects may go and Never change your point of view”のところは、かなりジョビンですし。

 

 ということで、最後はボサノヴァとしてアプローチしたカバー・ヴァージョンを。

 

 ジャズ・サックス奏者ポール・デズモンドがS&Gのレパートリーを取り上げたアルバム「明日に架ける橋」(1969)に収録されていたもの。

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 最近のものですが、こちらもいいです。アメリカのシンガー・ソングライター、マディソン・カニンガム、2018年の録音のようです。

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