まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「ホテル・カリフォルニア (Hotel California) 」イーグルス(Eagles)(1976)

 おはようございます。

 今日はイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」です。

www.youtube.com

 

On a dark desert highway
Cool wind in my hair
Warm smell of colitas
Rising up through the air
Up ahead in the distance
I saw a shimmering light
My head grew heavy and my sight grew dim
I had to stop for the night


There she stood in the doorway
I heard the mission bell
And I was thinkin' to myself
"This could be Heaven or this could be Hell"
Then she lit up a candle
And she showed me the way
There were voices down the corridor
I thought I heard them say


"Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
Plenty of room at the Hotel California
Any time of year (Any time of year)
You can find it here"


Her mind is Tiffany-twisted
She got the Mercedes Benz, uh
She got a lot of pretty, pretty boys
That she calls friends
How they dance in the courtyard
Sweet summer sweat
Some dance to remember
Some dance to forget

 

So I called up the Captain
"Please bring me my wine"
He said, "We haven't had that spirit here
Since 1969"
And still those voices are callin'
From far away
Wake you up in the middle of the night
Just to hear them say

 

"Welcome to the Hotel California
Such a lovely place (Such a lovely place)
Such a lovely face
They livin' it up at the Hotel California
What a nice surprise (What a nice surprise)
Bring your alibis"


Mirrors on the ceiling
The pink champagne on ice, and she said
"We are all just prisoners here
Of our own device"
And in the master's chambers
They gathered for the feast
They stab it with their steely knives
But they just can't kill the beast

 

Last thing I remember, I was
Running for the door
I had to find the passage back
To the place I was before
"Relax," said the night man
"We are programmed to receive
You can check out any time you like
But you can never leave"

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暗く荒れ果てた砂漠の中のハイウェイを走っていると

ひんやりした風が髪を撫で
コリタスの生温かい匂いが
空気の中を立ち上ってくる
遠く前方に ちらちらと光が見えた
頭が重くなり、視界がぼやけてきた
今晩はどこかに泊まらなければ

 

そこの入り口には女性が立っていて
礼拝の鐘が聞こえた
オレは内心思った
「ここは天国かもしれないし、地獄かもしれない」
それから彼女はキャンドルに火を灯し
オレを案内してくれた
廊下の向こうで声がして

オレには彼らがこう言ったように思えた

 

ホテル・カリフォルニアへようこそ
なんて素敵な場所
なんて素敵な外観
ホテル・カリフォルニアにはたくさん部屋があるので
一年中いつだって  見つけることができますよ」

彼女の心はティファニーに夢中で
メルセデス・ベンツに執着している
まわりには彼女が友達と呼んでいる

かわいい、かわいい男の子たち
甘い夏の汗を流しながら

中庭で踊る彼らの姿

思い出すために踊る者もいれば

忘れるために踊る者もいる

 

それで、ホテルのキャプテンに電話をかけた
「僕のワインを持ってきてくれ」
彼は言った、「ここではそういったお酒(スピリット)は切らしています。1969年以来」
まだその声がする とても遠くから

夜中に起こしてくるのさ

ただこう言ってるのを聞かせるために

 

ホテル・カリフォルニアへようこそ
なんて素敵な場所 なんて素敵な外観

彼らはホテル・カリフォルニアで楽しんでいる
なんて素晴らしい驚き アリバイ作りもできますよ」

 

鏡張りの天井に映る
氷に浸したピンクのシャンパ

そして彼女は言った
「私たちはみんなここでは囚人なの 自業自得よ」
ここの主人のプライベートルームで
彼らは宴をするために集まっている
彼らは鋼のようなナイフをご馳走に突き刺すけれど
獣を殺すことはできない

 

最後にオレが覚えているのは、
ドアに向かって走っていたこと
元いた場所に戻るなければいけない

「落ち着いて」と夜警が言った
「私たちはあなたを受け入れるようにプログラムされています。
あなたはいつでもチェックアウトできますが
決して離れられないでしょう」

                   (拙訳)

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「ホテル・カリフォルニア」の楽譜はこちら

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 ドラッグから”ホラー”までさまざまな解釈をされている歌詞のきっかけはスティーリー・ダン

 

 1970年代を代表するロック・クラシックスです。

 日本でもシングル盤が40万枚以上売れたそうですから、かなりの大ヒットです。僕は中学に入ってちょうど洋楽を聴き始めたタイミングでしたが、ラジオであまりに耳にしすぎるので、かえって自分から聴こうという気がなくなったほどでした(苦笑。

 

 曲はバンドのギタリストであるドン・フェルダーがドラムマシーンに合わせてギターのコード進行を入れたシンプルなデモを作り、それをバンドのメイン・ソングライターであるドン・ヘンリーグレン・フライに渡し、彼らが仕上げたと言われています。歌詞についてはほぼドン・ヘンリーが書いたようです。

 

 曲のベーシックを作ったドン・フェルダードン・ヘンリーの歌詞を絶賛しています。

On a dark desert highway(暗い砂漠のハイウェイ)のところであなたは絵が浮かび、Cool wind in my hair(ひんやりした風が髪を撫でる)であなたはそれを感じ
Warm smell of colitas(生温かいコリタスの匂い)であなたはそれを匂うことができるんです」

 (YouTube  Don Felder Explains How The Eagles Wrote Hotel California)

 

 確かに、視覚から入り、触覚(皮膚感覚)、嗅覚と続けることで、聴いている人をその世界の中に一気に引きこむというテクニックが巧みに使われているんですね。

 しかし、忘れてはいけないのは、その前にリスナーはポップソングとして異例な長さの50秒にも及ぶギターのイントロを聴いているわけです。

 じわじわと聴覚で世界観に引き込んでいき、そこから視覚、触覚、嗅覚と畳み掛け、五感ならぬ”四感”で物語を感じるわけです(残る味覚も、曲中のfeast(ご馳走)という言葉でうっすらとは感じられます(苦笑))。

 

 ドン・ヘンリーはこんなふうに語っています。

「まあ、いつも言っていることだけど、それは無垢から経験へと向かう旅のことなんだ。カリフォルニアについてだけではなく、アメリカ全体についてのことさ』

アメリカン・ドリームの暗い裏側についての話なんだ。行き過ぎやナルシシズムについて。音楽業界のことでもある。さまざまなことについてさ……それには百万通りの解釈が可能なんだ」

                (CBS NEWS    2024年2月29日)

 

 ボブ・ディランビートルズの歌詞が、作者の意図を超えさまざまな解釈をされることがよくありますが、この曲も長年にわたっていろんな解釈、深読みをされてきました。

 昨日このブログで紹介しました「パーフェクト・デイ」のルー・リードもそうですが、アーティストは歌詞の意味について質問され、説明するのをすごく嫌がります。ドン・ヘンリーもこの曲の歌詞について質問されることにうんざりしていたようです。

 

 歌詞は”音楽を構成する要素”でもありますから、単に意味だけじゃなく、韻や響きだったり、感覚的な要素もかなり強く反映されるわけで、理路整然とは説明できるものではないからでしょう。

 歌詞の解釈に「謎の余白」がある歌の方がずっと長く生き残っている、50年近くポップミュージック追いかけてきた僕にはそんな風に思えます。

 

 でも、歌詞の謎解きというのは、ファンの楽しみの一つでもありますし、ポップソングは聴き手が勝手に解釈して楽しむものという大前提がありますので、アーティスト側も、どう解釈しようがご自由に、というスタンスを取るのかもしれません。

 

 まずこの曲の歌詞の意味として、麻薬、ドラッグの使用を反映したものであるとずっと言われ続けています。

 当時のアメリカのロック・バンドはドラッグとのつながりが強く、特にイーグルスも常用していることで有名でしたので、そういう曲だと推測されるのが当然だったとも言えます。

 例えば、冒頭に出てくる”コリタス”は砂漠に生息する、ドン・フェルダーによるとファンキーな匂いがする植物なのだそうですが、当時のイーグルスのメキシコ人のマネージャーが、メキシコではコリタスは大麻の意味だとメンバーに言ったことから、コリタスは大麻の意味いうのが定説になっています。

 また、The Beastという言葉はヘロインやヘロイン中毒者を指すスラングだったと指摘されている方もいました。

 ドン・ヘンリーは麻薬に関するスラングを意図的に歌詞に入れたのは間違いないでしょう。麻薬はアメリカン・ドリームのダークサイド、行き過ぎた面を示すのに、象徴的な要素であるのは間違いないですから。ただ、麻薬はこの歌の主役ではないですね、いきすぎたアメリカンドリームの裏側を描くために<必要不可欠な小道具>だったのだと僕は考えます。

 

 それから、ドラッグとは関係ありませんが、この曲の歌詞で特に有名なフレーズに

So I called up the Captain "Please bring me my wine"
He said, "We haven't had that spirit here Since 1969" 

 

 ワインを持ってきてくれとフロントに電話したら、「1969年以降 スピリット(蒸留酒)は切らしています」と言われるという件があります。

 スピリット(spirit)は”酒”と”精神”の両方をかけているのが明確です。1969年は、ウッドストックがあり、ヒッピー文化とロックのエネルギーが爆発したエポックメイキングな年です。

 それ以降、ロックや若者の文化は退廃してしまった、あの”熱”はすっかり消えてしまった、ということなのだと解釈できます。

 ちなみに、正確にはワインは蒸留酒ではないわけですが、そういう指摘をするのは野暮です。どこにも破綻のない歌詞は、特にロックにおいてですが、魅力を感じないように僕は思います。

 

 ちなみに、グレン・フライはこの曲の歌詞についてこう語っていたそうです。

「ドン(ヘンリー)と私は、スティーリー・ダンの(ドナルド)フェイゲンと(ウォルター)ベッカーが歌詞で見せた勇気を尊敬していたんだ」と、グレン・フライは「ホテル・カリフォルニア」の歌詞の手法について聞かれたとき、スティーリー・ダンについて言及しました。「彼らは歌詞で大胆なことをやってのけた。『ホテル・カリフォルニア』では、ヘンリーと僕はすべての意味を説明する必要のない歌を書こうと話し始めた……そして、変わったものにするために、少し変わっていることをやる、言い換えれば歌詞のすべてが完全に意味をなさなくてもそれでいいということなんだ。結局、僕たちが達成したのは完全な曖昧さということで、そこに人々は、僕たちの想像をはるかに超えた解釈をしているのさ」

                ( IN THE STUDIO WITH REDBEARD)

 オレたちは、あえて説明不可能な曖昧な歌詞を書こうとして書いたんだから、細かく質問してくるなよなって気持ちが伝わってきますね(苦笑。

 それにしても、スティーリー・ダンの影響というのは面白いです。実際にこの2バンドはともに、当時のアメリカ西海岸のロックシーンを牛耳っていた凄腕マネージャー、アーヴィン・エイゾフのマネージメント下にいましたので、互いに意識し合う関係でした。

 ちなみに、この曲の”They stab it with their steely knives”

というフレーズの”Steely"という形容詞はスティーリー・ダンを念頭にわざと使ったものなのだそうです。

 

 僕があらためてこの歌詞を読んで思うのは、言葉遊びがとても多いということです。

Tiffany-twisted”とかMercedes Bends”(Mercedes Bentzをわざと誤表記しています。最近の歌詞サイトはBentzとしているものも多いですが、、)

 グレンの言う通り、わざと説明不能なおかしな歌詞にしようとしている感じはします。

 

 心情的には、当時「呪われた夜」「イーグルス・グレイテスト・ヒッツ 1971-1975」で破格の成功を手にした彼らがそれを味わいながらも、同時に成功についてまわってくる、さまざまな人間の<ダークサイド>を目の当たりした気持ちが色濃く現れているんじゃないかと思います。

 音楽業界で華やかな宴に酔いしれながらも、そこからは逃げ出せない恐怖や閉塞感も強く感じている、そんなニュアンスを感じます。

 ですから、この曲は、<行き過ぎたアメリカン・ドリームの闇>をリアルに糾弾するものではなくて、あくまでも寓話的に皮肉ったり風刺する作品として受け止めた方がいいように僕は思います。

 

 興味が尽きない歌詞なのは間違いないですが、歌詞が聴き取れないたくさんの日本人があれだけこの曲に夢中になったわけですから、サウンド、メロディ、ヴォーカル、演奏、それだけでもすごく魅力的なものなのは間違いないわけです。いや、歌詞が聴き取れなかったからこそ、日本人は哀愁感のあるギターやメロディ、ボーカルに、叙情的なロマンチズムをより拡大させて聴き入っていたのかもしれません。歌詞が聴き取れなかったからこそ、日本ではより大ヒットしたという説を僕は唱えようと思います。

 

 この歌詞の世界、ちょっと軽めのホラーですから(笑。歌詞が聴き取れたら日本人のこの曲に対する印象もけっこう変わったようにも思います。

 

 実際、本国アメリカでは、TVシリーズアメリカン・ホラー・ストーリー」の5シーズン「ホテル」(2015)のエピソード1で「ホテル・カリフォルニア」を実に効果的に使っています。レディ・ガガが主演しているドラマなんですが、おぞましい事件が起こるホテル・コルテスは、チェックインできてもチェックアウトできないんですよね。止まっている客は殺されちゃう。ドラマのラストでこの曲が使われ、曲の最後のフレーズを効果的に聴かせる演出になっています。

 この曲の最後のフレーズはこれでした。

You can check out any time you like
But you can never leave 

 

 チェックアウトできるけど、ここから離れられない、と言うことです。しかし、チェックアウト(Check out)はスラングで「死ぬ」と言う意味があるそうで、<一度チェックインしたら、死ぬまで出れない>、このドラマではまさにそういう意図でこの曲は使われていたのです。

 時代を経て、この名曲はドラッグの歌からホラーの歌へと解釈が変わったのか、なんて僕は思ったりもしました、、、。

  

 

 この曲の、オフィシャルのライヴ映像を最後に。

www.youtube.com

 

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「ホテル・カリフォルニア」の楽譜はこちら

 

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