まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「パーフェクト・デイ」(Perfect Day)」ルー・リード(Lou Reed)(1972)

 

 おはようございます。今日はルー・リードの「パーフェクト・デイ」です。

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Just a perfect day, drink Sangria in the park
And then later, when it gets dark, we go home
Just a perfect day, feed animals in the zoo
Then later, a movie too and then home


Oh, it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh, such a perfect day
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on


Just a perfect day, problems all left alone
Weekenders on our own, it's such fun
Just a perfect day, you made me forget myself
I thought I was someone else, someone good


Oh, it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh, such a perfect day
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on

You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow
You're going to reap just what you sow

 

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ただ、申し分のない日、公園でサングリアを飲んでいる
そして暗くなったら、僕らは家に帰る
まさに完璧な一日、動物園で動物に餌をやる
それから、映画も見て、家に帰る


ああ、なんて完璧な一日
君と過ごせてよかった
ああ、なんて完璧な一日
君がただ僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる
君がいてくれるから僕はなんとかやっていける

 

ただ、申し分のない日、問題はみんなほったらかして
二人きりの週末、すごく楽しい
まさに完璧な日、君は僕自身でいることを忘れさせてくれた
僕は自分が誰か別のいいやつだって思えた


ああ、なんて完璧な一日
君と過ごせてよかった
ああ、なんて完璧な一日

君がただ僕をこの世界に繋ぎ止めてくれる
君がいてくれるから僕はなんとかやっていける

 

ただ自分がまいた種を刈り取るんだ
ただ自分がまいた種を刈り取るんだ
ただ自分が蒔いた種を刈り取るんだ
ただ自分が蒔いた種を刈り取るんだ

                      (拙訳)

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 かつては<ヘロイン中毒者>の映画で使われ、今では<僧侶のようなトイレ清掃員>の映画に使われた、当時と今では曲の解釈が激変した楽曲

 

 この「パーフェクト・デイ」はルー・リードの最高傑作と呼ばれるアルバム「トランスフォーマー」(1972年全米29位)に収録され、また彼の最大のヒットシングルである「ワイルド・サイドを歩け(Walk on the Wild Side)」(1972年全米16位)のB面にも収録されていました。

 この曲は彼の当時のガールフレンドで後に最初の妻になるベティ・クロンスタッドとの日常を描いたものだと言われています。

 ちなみに、曲の最後の”You're going to reap just what you sow”という印象的なフレーズは新約聖書のガラテヤ人(ガラテヤの信徒)への手紙の6章にある

「思い違いをしてはいけません。神は、人から侮られることはありません。人は、自分の蒔いたものを、また刈り取ることになるのです」という文からとられているそうです。

 

 いまサブスクを見ると、Spotifyでは「ワイルド・サイドを歩け」に次ぐ再生数を記録し、Apple Musicではこの曲がトップになっているのでルー・リードのレパートリーの中では一、二位を争う人気曲になっています。

 

 最初はあまり注目されなかったこの曲が突如として脚光を浴びたのが1990年代半ばのことでした。

 1995年に二組のアーティストがこの曲をカバーします。

 1980年代の超人気バンド、デュラン・デュランとイギリスのシンガー・ソングライターカースティ・マッコールです。彼女はポーグスのクリスマス・スタンダード「ニューヨークの夢」でデュエットしたり、トレイシー・ウルマンの大ヒット曲の「恋するトレイシー」のオリジナル・シンガーとしても知られています。彼女はこの曲をアメリカのバンド、レモンヘッズの中心人物、イヴァン・ダンドとデュエットしています。

 

デュラン・デュラン(全英28位) 

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カーティス・マッコール&イヴァン・ダンド(全英75位)

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 翌1996年には当時大ヒットしたイギリス映画「トレインスポッティング」にルー・リードのオリジナルが使われ、サントラにも収録されています。

 そしてこの曲の名声を決定づけたのが1997年に英国BBCが制作したルー・リード本人をはじめ、ボノ、エルトン・ジョンデヴィッド・ボウイなどすごい面々が集まったカバー・ヴァージョン。のちにチャリティ・シングルとしてリリースされるとイギリスで3週連続NO.1に輝いています。

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 実は、この曲はルー・リードがヘロインについて歌った歌だという説が発売当初から根強くあったようです(主人公がヘロイン中毒者という映画「トレインスポッティング」でもその説を前提にして曲が使われたようです)。

 

「しかし、リード本人によれば、この解釈は「笑える」とのことだ。2000年のインタビューで、彼はこう述べている。”違うよ、キミは作者、この曲を書いた人間に話しているんだぜ。この曲がヘロインの使用についてだというのは事実じゃない。キミが何が完璧だと思おうが特に異論はない。ただ、この男が考えていた完璧な日とは、女の子、サングリアを公園で飲むこと、そしてその後、家に帰る。完璧な一日とはいたってシンプルなのさ。それが僕が言いたかったことだ”」

                   (Gold  31 August 2023)

 ただ、彼女と公園でダラダラ酒を飲んで家に帰るだけの1日が完璧だなんて、まともな人間の考えじゃない、絶対”ヤク”と関係あるはずだ、なんて当時は思われたんでしょうか。

 ところが、ヴィム・ベンダース監督、役所広司主演の映画「PERFECT DAYS」(2023)ではこの曲は主題歌のように使われ、「トレインスポッティング」とは全く違うとらえかたをされるようになります。

 役所広司演じるトイレの清掃員は、自分がやるべき仕事とささやかな趣味をルーティーンのように繰り返していきます。監督のヴィム・ヴェンダースは役所演じる主人公を”禅”の僧侶のような人間としてイメージしたそうです。映画を見ていると、何もない日常こそが完璧、だと言っているようで、実際そういう考え方をする人が増えていると僕も実感しますし、僕自身もそういう考え方にどんどん傾いていっています。

 

 それにしても、”ヘロイン中毒者”の映画から”僧侶のようなトイレ清掃員”の映画へと、いうギャップはすごいですね。時代とともに、曲のとらえられ方がガラッと変わってしまう曲は少なくないですが、その極端な例の一つにこの曲はなったようです。