まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛のメモリー」松崎しげる(1977)

 おはようございます。

 今日は松崎しげるの「愛のメモリー」です。

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「愛のメモリー」の楽譜はこちら

 

 1977年は、歌謡曲、フォーク全盛の時代から、もっと洗練された洋楽的な音楽が台頭してきた年で、年の後半に原田真二が登場してシーンを一変させるわけですが、その前に大橋純子「シンプル・ラブ」、尾崎亜美「マイ・ピュア・レディ」やこの曲があったことは強く印象に残っています。

 

 発売から47年も経つのですが、例えば筒美京平作品とは、またちょっと違う、独特の普遍性を持つ歌のように僕には思えます。そして、松崎しげる以外誰が歌ってもピンとこない、歌手と代表曲という組み合わせとしては、日本最高のものなんじゃないでしょうか。

 なんか妙に思い入れのある言い方になりましたが、実は当時僕は中学一年生、お小遣いをもらってこのシングル盤を買いに走ったことを、今でもよく覚えているんです。

 

 13歳の小僧のくせにこういう歌に夢中になったの?と思う人もいるでしょうが、この曲は三浦友和が出ていたグリコのチョコレートのCMで使われていて、その映像とすごくハマっていたんですね。こんなカッコいい男になりたいと、中一の僕は切に願っていたんでしょう。(今YouTubeで見ても、この時代の三浦友和草刈正雄のカッコ良さは、その後の数多のイケメン俳優たちでも太刀打ちできないレベルなんじゃないかと思います。空気感というか風格というか、、)

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 この曲はもともと1976年にスペインのマジョルカで開催される「マジョルカ音楽祭」参加のために制作されたそうです。ヨーロッパの音楽祭向きのスケールの大きな曲を作ろうというになり、作詞をたかたかし、作、編曲を馬飼野康二に依頼し。シンガーとして松崎しげるが選ばれたという経緯があったようです。洋楽というと英米というイメージが強いですが、この時代はヨーロピアン・ポップスも日本では人気があったんですね。

 ちなみに真偽はわかりませんが、この音楽祭の審査員はフランシス・レイポール・モーリアミシェル・ルグラン、そしてデヴィ夫人もいたという記述もありました。

 松崎はスポーツ報知(2020年9月8日)のインタビューでこう語っています。

「スペイン=情熱。情熱的なラブソングを作ろうというコンセプトだった。実は曲は30分くらいで、できちゃったんです。コンセプトがそのままメロディーになっていて、ギターとベースとドラムだけでこんなにスケールの大きい曲が作れるんだと思いましたね」

 このブログで提唱している、名曲、大ヒット曲はあっという間にできることが多い、という事例がまた一つ増えましたね(笑。ただ、作詞は難航したようです。

 

 「たかたかしさんの考えがスタジオではまとまらなくて、家に帰って万葉集を見たんですって。ドキッという恋文というか、恋の歌が多い万葉集をイメージしながら、あの曲は生まれたんです。男と女の一夜、朝のカーテンの揺れと窓に吹く風、入ってくる日差し…男がぱっと目が覚めて、なんて素晴らしいんだ、と。歌にするともっともっと膨大なメッセージがある。こういう歌を自分は欲していたんだと感じました」

 

 たかたかしは「情熱の嵐」、「恋の季節」、あと僕の大好きだった「薔薇の鎖」など西城秀樹の歌詞を数多く書いた人です。

 馬飼野康二西城秀樹の「傷だらけのローラ」の作・編曲を手掛けていて、彼は「愛のメモリー」とともに、70年代の自作の中で最も気に入っている作品だと語っています。

「マイナー調でヨーロッパっぽい哀愁を帯びたメロディで僕が好きな世界観ですし、詞も大人のムードが出てますよね」   馬飼野康二 JARAC 作家で聴く音楽)

 

 二人にこの曲を発注したレコード会社の担当者は、ひょっとしたら西城秀樹っぽさを少しイメージしていたのかもしれませんね。

 

 当初この曲は「愛の微笑み」というタイトルで、音楽祭にもその曲名でエントリーしています。その時の映像がありました。ラストのサビがスペイン語になるところがポイントです。

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 結果、見事2位(マジョルカ音楽祭のWikipediaでは3位になっています)に輝きますが、日本のレコード会社で発売してくれるところがなかったそうです。難しくて簡単に口ずさめない、という評価もあったようですが。

 そこで、なんとかしようと思った彼は、以前CMソングを歌ったことのあるグリコのアーモンドチョコレートのCM担当者を自ら訪ねてこの曲の売り込むと、ちょうどCMの撮影が半分くらい終わった段階で曲を探していたらしく、担当者がこの曲のサビを気に入って、使われることになったそうです。

 歌手自ら売り込んでタイアップを決め、それが生涯の代名詞の曲になるなんて、本当にドラマチックな展開ですね。

 

 ちなみに彼が以前に歌っていたグリコのCMソングが「私の歌」(作詞:喜太条忠 作曲:都倉俊一)。「愛のメモリー」と松崎しげるが奇跡のような組み合わせになったせいで、彼の他のレパートリーが目立たなくなってしまいましたが、この曲はもっと再評価されるべき名曲だと僕は思います。

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 最近では韓国の音楽番組に出演して「愛のメモリー」を歌って大人気になった、なんてニュースが入ってきました。確かにこのドラマティックで熱い曲と彼の歌唱は、韓国でウケそうです。それにしても老いても(失礼!)この声量、トム・ジョーンズに匹敵しますね。

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 なんと愛のメモリーを12ヴァージョン(!)も収録したCD。

「愛のメモリー」の楽譜はこちら

 

 愛のメモリー」の翌年にマジェルカ音楽祭で3位入賞したのがこの曲。

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  日本のポップスがどんどん洗練されていった1977年を代表するヒット曲

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