まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。(現在は不定期で更新中)古今東西のポップ・ソングのエピソード、和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ(NIche)”なものになってしまったのかもしれませんが、みなさんの毎日の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればうれしいです。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出なども絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Moonlight 」Yo-Sea (2023)

 

 おはようございます。今日はいま僕が一番”声が好きな”ヴォーカリスト、Yo-Seaの「Moonlight」です

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 You-Sea(ヨー・シー)は沖縄、北谷出身のシンガー/ソングライター。幼少期に母親が家や車でよく音楽をかけていたそうで、小野リサホイットニー・ヒューストンスティーヴィー・ワンダーユーミン山下達郎、サザンなどが記憶によく残っているとインタビューで語っています。

 その後HIPHOPにハマり、そこから自分で音楽で食べていきたいと考えるようになり、沖縄のトラックメイカー、NGONGOに連絡をとり、音楽制作を一から学んだそうです。

 デビューシングル「I think she is」

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 Yo-Seaの曲の作り方は、打ち込みのビートとコードの乗った”トラック”を聴きながら、それに合わせてその場で歌いながらメロディを生み出してゆくという方法で、そういう作り方をする人を”トップ・ライナー”と呼びます。

 

 ビートに合わせてラップをするような方法で、歌を作るわけですね。

 

 日本では曲は作詞家と作曲家が作るというイメージが今も強いと思いますが、HIPHOPがポップミュージックの中の主流となった1990年代以降はアメリカではこういう曲の作り方がメイン・ストリームですし、21世紀以降は海外の多くの国で主流になっています。K-POPも基本このスタイルで作られています。

 

 日本でもこういうスタイルは定着してきています。僕はソニー・ミュージックパブリッシングでスタッフを長い間やらせてもらっていたのですが、20年近く前から海外のトラックメイカーやトップライナーと日本人をコラボさせて曲を制作する試みを積極的にやっていて、僕も制作現場に数多く立ち会わせてもらいました。

 

 作詞、作曲家が作る音楽とトラックメイカーとトップライナーが作る音楽の最大の違いは何か、とたずねられたら、僕は”リズム””ビート”ですと答えます。

 

 作詞、作曲家の作る音楽のリズムを決めるのは編曲家でした。曲作り後の工程ですね。

 これと逆にトラックメイカーとトップライナーの作る音楽は、真っ先にリズム、ビートを決めるわけです。その後コード、メロディ、歌詞という順番で作られていきます。

 

 今のポップミュージックの主役は”リズム”なんです。

 

 ヒップホップが大衆に広まったことにより、ポップミュージックにおいてもリズムが主役になっていき、ヒップホップの作り方でポップ・ミュージックが作られるようになっていったわけです。

 もちろん、音楽制作のテクノロジーの進化がそれを一気に推し進めたわけですが。

 ラップはビートとリリック(言葉)の音楽ですが、今日本で流行っているヒップホップと無関係そうな音楽、たとえばアニソンもそうですが、打ち込みで作られる音楽はみな、ビートと歌詞が最重要視される、というのは必然というか、時代の流れと考えられるでしょう。

 

 ちょうど、この「Moonlight」のプロデューサー、トラックメイカーのMatt Cab(マットキャブ)がこの曲の作られた経緯をショート動画でアップしていて、とてもわかりやすいです。

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 それから、作詞、作曲家は本人が音痴でも作品作りにほとんど影響はないんですけど、トップライナーは歌えないとダメなんですね。

 歌がうまくて、メロディのインプットが豊富にある、そういう人がトップライナーに最適だと僕は思います。

 Yo-Seaの場合は、歌声は抜群ですが、それに加えて幼少期に母親の影響で聴いたという洋楽邦楽のインプットが間違いなく生きているはずです。

 だから、「Moonlight」のキャッチーなメロディもすぐに浮かぶのでしょう。

 

 ビートと歌詞が主役の時代になっても、相変わらずヴォーカルの声質やメロディ、アレンジで聴いてしまう僕がこの曲にハマったのは当然なのかもしれないですね。。。

 

 ご本人はその作業を「メロディを下ろす」という面白い表現をしていて、以前から風呂場で即興でメロディを考える習慣があったそうで、レコーディングもかなり即興に近い形で行われるようです。

 この人は素晴らしい声質のシンガーであるだけじゃなく、トップライナーとしての能力もとても高い人なのだろうと僕は思います。

 

「こういうコードがヒットするとかそういうことはまったく考えないですね。なので僕は、トラックをいただいた際も、きちんとは聴かないようにしているんですよ。最初の入りが素晴らしかったらこれはもう良いトラックだって思えるので、1回2回聴いて、極力フレッシュな状態でレコーディングに臨むようにしています」

 

「事前に考えることは何もなくて。1回目のセッションで確実にメロディを下ろして、そこからプロデューサーの方と話して、3回くらい録って、いいところの構成を見つけてきてひとつにしていく。で、次は歌詞を考えます。」

   (PIA SONAR MUSIC FRIDAYインタビュー 2023 9/29)

 以前は歌詞もその日に作ってしまっていたそうですが、「Moonlight」が収録されたアルバム「Seo of Love」では、家でじっくり歌詞を考えることにしたそうで、その理由の一つをこう語っています。

 

「色々あるんですけど、敢えてひとつ挙げるとしたら、藤井風さんの作品から受けた影響が大きいです。日本語で、その人にしか出せない言葉で、リアルな感情を伝えているという点にすごく感銘を受けましたし、個人的にも藤井風さんの音楽に“救われた”という感覚があって。「自分もこういう音楽を作りたい」と思うようになりました」

(Spincoaster 2023 09.15)

 

 彼は藤井風のバックコーラスのメンバーだったんですね。NHKで放送され話題になった「Tiny Desk Concert Japan」でも彼の姿を見ることができます

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