まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます

「ノーバディーズ・フォルト(Nobody's Fault)」ベニー・シングス(2021)


 おはようございます。

 今日はベニー・シングスの「ノーバディーズ・フォルト」です。

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Hey, it’s nobody’s fault

We’re getting old

And time keeps pushing on

To the end of the road (my darling)

Hey, what can you say

It’s better this way

It’s time to sing your song

So I’m letting you go

 

Wait till it’s over

Wait till it’s done

No more talking

Nowhere to run

Wait till it’s over

Wait till it’s gone

No more talking

It’s all said and done

 

Hey, I understand

It’s not the end

This life’s not what you wanted

And we all got to grow

Hey, it’s nobody’s fault

We’re getting old

And time keeps pushing on

To the end of the road (my darling)

 

Wait till it’s over

Wait till it’s done

No more talking

Nowhere to run

Wait till it’s over

Wait till it’s gone

No more talking

It’s all said and done

 

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ヘイ、誰のせいでもないよ

僕らは年をとるし

時間は前に進んでゆく この道の終わりまで

ヘイ、君に何が言えるんだい

これでいいんだよ

君は自分の歌を歌う時なんだ

だから、僕は君を行かせるんだ

 

終わるまで待って

終えるまで待って

これ以上話すことはないよ

逃げる場所はない

終わるまで待って

行ってしまうまで待って

これ以上話すことはないよ

話し尽くしたし やるだけのことはやったんだ

 

ヘイ、わかっているよ

これは終わりじゃない

この人生が君が求めていたものじゃなかったんだ

僕らはみな成長してゆく

ヘイ、誰のせいでもないよ

僕らは年をとるし

時間は前に進んでゆく この道の終わりまで

 

 

終わるまで待って

終えるまで待って

これ以上話すことはないよ

逃げる場所はない

終わるまで待って

行ってしまうまで待って

これ以上話すことはないよ

話し尽くしたし やるだけのことはやったんだ   (拙訳)

 

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 ベニー・シングスはこの曲を作るときに、自分のスタジオで自らが弾いたピアノとベースを元にビートを作り上げ、そこに言葉を載せてみたのだそうです。

 

「一つのセンテンスから何かひらめくんじゃないかと思って、わけのわからない言葉を

載せてみたんだ」

 その流れで”Nobody's Fault”と言う言葉が出てきたのかもしれません。

「合理的な言葉に思えるけど、誰かが”Nobody's Fault”(誰のせいでもない)と言った

ら、それは何かひどいことが起きているということなんだよ」

 

                      (THE LINE OF BEST FIT)

 

 僕はこの曲の歌詞を訳していた時は、”二人が別れるのは誰のせいでもないんだよ”という文字通り、恋の終わりの歌だと思いましたが、

 "Wait till it’s over  Wait till it’s done  No more talking  Nowhere to run"

 (終わるまで待って 終えるまで待って これ以上話すことはないよ

  逃げる場所はない)

  というフレーズの意図がわからなかったのですが、彼のコメントを読むと、コロナ渦の世の中のことを重ね合わせている言葉じゃないかと思えてきました。あくまで推測ですが。そうすると、このフレーズはすごく腑に落ちます。

 

 曲調は、彼の好きなスティーリー・ダンを彷彿させるタッチがあります。

 しかし、決定的な違いがあります。

 サウンドです。スティーリー・ダンは高いレベルの演奏と高音質をつきつめたバンド演奏ですが、ベニーはローファイ(ゆるい音質とでもいいますか)で打ち込みトラックをベースにしています。

 

 

 

 1970年代後半から1980年代始めくらいのポップスの高音質サウンドに慣れ親しんでいた僕のようなオールド・ファンが、Spotifyなどで新しいポップ・ミュージックを聴いた時に気づくのは、

 

 ポップスは、ハイファイなバンド・サウンドから、ローファイなHIPHOPトラックに

”乗り物”を変えていた

 という現実です。

 

 R&Bはかなり前にHIPHOPのひとつのジャンルへと吸収されてしまいましたが、ポップスも大きく影響を受けていたんだなあ、とあらためて思います。

 

 実際に、今のポップスのクリエイターの多くは、自然にHIPHOPを他のジャンルと同じように自然に聴いてきた人たちばかりなんですよね。

 ベニー・シングスも最初はHIPHOPトラックから音楽制作を始めたといいます。

 

 

 ”ポップス大国”(だと勝手に僕が思っている)日本の場合、打ち込みでの楽曲制作が当たり前になっても、ポップスの場合は打ち込みで”擬似バンドサウンド”を作るのが主流だったのですが、いよいよ”トラック”が主流になってきたかなという感があります。

 

 音楽としての構造が、歌の伴奏をする、じゃなく、トラックに歌をのっける、なんですね。

 

 よく、最近の曲はいいメロディがなくなった、といった声が(僕を含めた)中高年層からありますが、音楽の乗り物が”バンド・サウンド”から”HIPHOPトラック”に移行してきた時点で、それは衰退する運命だったのかもしれません。

 

 沢田研二から、槇原敬之BUMP OF CHICKENまでプロデュースした木﨑賢治さんが「プロデュースの基本」という本の中でこういうことを書いています。

 

「ポップ・ミュージックはメロディの時代からサウンドの時代へ、そしてサウンドの時

代から世界観の時代へと変わってきた気がします」

  

 まずは”耳に残るメロディ”がシーンの舵を取り、メロディのパターンがある程度出尽くすと、斬新で印象的なサウンドがそれに取って代わって主役になった、しかし、どちらも出尽くしてしまった、今の時代のポップスは、総合的にそのアーティストらしさ、をいかに出すかということが大事になってきたということなのかもしれません。

 

 しかし、ポップ・ミュージックの構造が大きく変わったとはいえ、昔と変わらずに大事なものは”体温”のようなものだと、僕は思います。

 

 自分にとっていいポップスを聴くことは、例えるなら、ちょうどいい温度(体温よりちょっとだけ高め)のお風呂に入るような感じなんですよね。

 心や体の”こわばり”がほどけてゆくような。

 緊張しているときは、想像力は働かないですよね、ネガティヴな妄想は働いても。

 ”こわばり”がほどけ、リラックスすることで、想像力は自由に飛び回り、自分の人生に対してちょっと前向きになれる、それが醍醐味なんですよね

 

 ベニー・シングスの曲には、そういうちょうどいい温度をいつも感じるんです。

 トラック主体の音楽なのに、いつも人間味があります。

 

 この曲ではトム・ミッシュがゲスト参加しています。曲の終わりで彼の弾くギター

が、またさりげなくいい効果を出しています。

 

 最後にこの曲が入っている彼の新作「MUSIC」から「SUNNY AFTERNOON」を。


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