おはようございます。
今日もスタイリスティックス。トム・ベルと別れた後の彼らの曲で最も有名なのが「愛がすべて」です。
the stylistics - can't give you anything but my love
If I had money I'd go wild
Buy you furs dress you like a queen
And in a chauffeured limousine
We'd look so fine
But I'm an ordinary guy and my pockets are empty
Just an ordinary guy
But I'm yours till I die
I can't give you anything
But my love
But my love
I can't give you anything
But my love
But my love
I cannot promise you the world
Can't afford any fancy things
I cannot buy you diamond rings
No string of pearls
But my devotion I will give all my life just to you girl
My devotion I will give for as long as I live
I can't give you anything
But my love
But my love
I can't give you anything
But my love
But my love
I can't give you anything
But my love
But my love...
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”僕にもしお金があれば
君を女王に仕立てるような毛皮をすぐに買うよ
運転手付きのリムジンでね
僕らによく似合うはずさ
だけど僕はただの男さ ポケットの中身は空っぽ
ただのありふれたヤツだけど 死ぬまで君のものさ
君に何もあげられない この愛以外は 僕の愛以外は
君に何もあげられないけど この愛がある 僕の愛がある
僕はできもしないことを君に約束はできない
派手なものを買う余裕もない
ダイヤの指輪や真珠の首飾りも買ってあげられない
だけど僕の愛はすべて君のために捧げる
僕の命のある限り
君に何もあげられない この愛以外は 僕の愛以外は
君に何もあげられないけど この愛がある 僕の愛がある” (拙訳)
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トム・ベルと袂を分かった彼らを新たにプロデュースすることになったのが、ヒューゴ・ペレッティとルイージ・クレアトール、通称ヒューゴ&ルイージ。従兄弟である彼らはニューヨークのブリル・ビルディングで活動し1950年代から活躍していました。
ペリー・コモやサム・クックの代表作、ビートルズのカバーでも有名なアイズレー・ブラザースの「シャウト」などのプロデュースを手がけた他、自分たちの楽団”ヒューゴ&ルイージ楽団”名義で、コーラス、インスト作品も残しています。
実はヒューゴ&ルイージはスタイリスティックスが所属していたAVCOレコーズのオーナーだったのです。スタイリスティックスはフィラデルフィアのグループだったので
トム・ベルに制作を一任したわけですが、彼が辞めたことで自分たちでやるしかないということでニューヨークでレコーディングをやることにしました。
素晴らしい実績があるとはいっても彼らはとうに50歳も過ぎた大ベテランですから、旬なサウンドを作れるアレンジャーを探す必要がありました。
そして選ばれたのがヴァン・マッコイでした。「ハッスル」の人ですね。
(ヴァンも音楽で成功するためにフィラデルフィアで活動していた時期がありました)
そして、もう一人、彼らの昔からの知り合いで素晴らしいソングライターである、ジョージ・デイヴィッド・ワイスにも声をかけます。
前任のトム・ベルはサウンドだけでなく、リンダ・クリードと組んだ楽曲そのものも優れていたわけですから、賢明な考えだったわけですが、このワイスは、日本ではあまり名前は知られていませんが、”とてつもない”名曲を書いているんですね。
まずは、彼とヒューゴ&ルイージの共作とされている、プレスリーの「好きにならずにいられない(Can't Help Falling in Love)」。
Elvis Presley - Can't Help Falling In Love (Audio)
そして、ボブ・シールと共作したルイ・アームストロングの「この素晴らしき世界(What a Wonderful World)」
Louis Armstrong - What A Wonderful World (Lyrics)
ジャズのスタンダード中のスタンダード「バードランドの子守唄(Lullaby of Birdland)の歌詞も彼が書いたそうです。
Chris Connor - Lullaby of birdland
ヒューゴ&ルイージ、ジョージ・デイヴィッド・ワイス、ヴァン・マッコイという体制で作られた最初のシングルが「Let's Put It All Together」でした。
The Stylistics - Let's Put It All Together
このやさしい感じのメロディーはワイスがメインに書いたんじゃないかと想像しますが、、。全米最高18位のまあまあのヒットになっています。
その後は明らかにパワーダウンしています。
この「愛がすべて」も、実はアメリカでは最高51位に終わり、ヒットはしていないんです。
しかし、イギリスでは3週連続1位に輝いています。
イギリスは昔から洗練されたR&Bが好きだからだろうな、と最初は安易に考えたのですが、
これには布石がありました。「愛がすべて」の前にリリースした「Sing Baby Sing」という曲がイギリスで3位まで上がるヒットになっていたのです。
これは、もはやソフト・ロック、サンシャイン・ポップのカテゴリーに入れたほうがいい曲ですね。アメリカではチャートにも入っていません。
この頃、イギリスではルベッツ「シュガー・ベイビー・ラヴ」、パイロット「マジック」、ファースト・クラス「ビーチ・ベイビー」など”ポップ・リバイバル”ともいうべき盛り上がりがあった時期で、その流れに乗った側面もあったんじゃないかと僕は考えます。
彼らはイギリスでだけは”ポップ”なイメージに少しシフトできいたのかもしれません。
「愛がすべて」は 日本でも大変人気が高く、10数年前にキムタクが出演していたCMで替え歌で使われていましたね。
R&Bの嗜好性に関しては、イギリス人と日本人が重なることはけっこうある気がします。
このあと、彼らはポップ路線で行くかと思ったら「ララは愛の言葉」のパロディかと勘違いするかのような「 Na Na Is The Saddest Word」とタイトルのバラードをリリース。イギリスでのみヒット(最高5位)しています。
Stylistics - Na Na Is The Saddest Word
そして、その次はどう考えても「誓い」の二番煎じとしか思えない「ユー・アー・ビューティフル」というバラードをリリースしますがぱっとせず、ここでやっと「愛がすべて」のようなアップテンポでキャッチーな 曲をシングル・カットします。
曲はなんと、ヒューゴ&ルイージとジョージ・デイヴィッド・ワイスの看板の楽曲、プレスリーの「好きにならずにいられない」。これをなんとダンス・アレンジにしていて、またまたイギリスだけでヒットしています(最高4位)。
The Stylistics - Can't Help Falling In Love
ちなみに「愛がすべて」はアメリカでは売れなかったのですが、この曲の数ヶ月前にリリースされた、ヒューゴ&ルイージがプロデュースしたヴァン・マッコイの「ハッスル」が、社会現象になるほどの大ヒットになっていました。スタイリスティックスが売れなくても制作陣だけは盛り上がっていたわけですね。
「愛がすべて」のエンディングには、明らかに意図的に「ハッスル」に似たリフが出てくるのですが、そう考えるとなんか皮肉だなあ、とも思ってしまいます。