まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛の放浪者(安らぎを求めて)<Wherever I Lay My Hat(That's My Home)>」ポール・ヤング(1983)

 おはようございます。

 今日はポール・ヤングの「愛の放浪者(安らぎを求めて)」を。


Paul Young - Wherever I Lay My Hat (That's My Home)

 

 ”瞳を見れば 君が泣きそうだってわかる

     僕のせいなのかい? もしそうなら

   涙はとっておいてくれ 僕にはそんな価値もないって知っているだろ

 

     だって僕はいつもさまよっているタイプの男

  帽子を置いたところが 僕の家なんだ

  いいかい、それが僕の家なんだ

 

     君は恋をして たまたまそれを失った 僕のせいで

  もしそうなら 君にはわかってほしい

   僕は恋するにはふさわしくないのさ、わかるだろ

 

   だって僕は腰が落ち着かないタイプの男

   帽子を置いたところが 僕の家なんだ

   それが僕の家なんだ

  

  君はいつも言っていた 僕は君の恋人なんだと

  どうしたらいいんだろう 君にわかってもらうには

 

     だって僕は女の子に色目を使うタイプの男 みんな知ってるよ

  だけど愛しては立ち去って、心を傷つけて 裏切ってゆく

     どこに行ってもそうなのさ

 

        僕は一つのところにいられないタイプの男だって知ってるだろ

   帽子を置いたところが 僕の家なんだ

         帽子を置いたところが 僕の家なんだ

   そんな生き方が好きなんだよ

 

    ひとりきりじゃいられない  時にはそんなこともある そんなこともあるさ

    愛していないなんて言っていない

          ただ自分のやりたいようにやりたいんだ 

    それが僕のやりたいことなんだ”         (拙訳)

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By the look in your eye
I can tell you're gonna cry
Is it over me?
If it is  Save your tears for
I'm not worth it, you see

For I'm the type of boy
Who is always on the roam
Wherever I lay my hat
That's my home
I'm telling you, that's my home

You had romance
Did you break it by chance over me?
If it's so
I'd like for you to know
That I'm not worth it, you see

For I'm the type of boy
Who is always on the roam
Wherever I lay my hat
That's my home that's my home

 

You keep telling me
You keep telling me I'm your man
What do I have to do to make you understand?

For I'm the type of guy
Who gives girl the eye
Everybody knows

But I love them
And I leave them
Break their hearts
And deceive them everywhere I go

Don't you know that I'm the type of man
Who is always on the roam
Wherever I lay my hat
That's my home
Wherever I lay my hat
That's my home   That's my home
And I like it that way


You know
I can't make it all alone
Sometimes it's the way
That's the way

I'm not saying  I'm not saying
I don't love you
Just gotta do what I want to do
That's what I want to do

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 なんとも身勝手で都合のいい歌詞ですが、この曲は1983年に全英チャートを3週トップを続け、無名だったポール・ヤングを一躍スターの座に押し上げました。

 

 1980年代前半は、R&Bのテイストの強い白人アーティスト、”ブルー・アイド・ソウル”と呼ばれていましたが、が活躍した時期でもありました。そのムーヴメントを彼と共に牽引したのがワム!であり、カルチャー・クラブでしたが、彼の場合はもう少し玄人好みなところがあったように思います。

 この最初のヒットの時に彼はすでに27歳で、かなりの下積みもありました。

 1977年  ”ストリートバンド”というグループに在籍していたときに出した「トースト」という曲が、ラジオで面白がられてオンエアされ小ヒットになったこともありました。

 これが不思議な歌で、ラップとも語りとも識別のつかないボーカルに、”トースト”というコーラスが入る、いわゆるノベルティ・ソングです。


Streetband - Toast

 その後彼は”Qーティップス”というバンドに加入しています。Q-Tipsは古いR&Bの影響をストレートに表現したバンドで、その後のイギリスの”ブルー・アイド・ソウル”ブームの先駆けになっていました。


Q-Tips - Some Kinda Wonderful

 そしてQ-Tipsのレーベルとの契約が終わると、マネージャーの希望を受け入れてソロとして活動することにして、デビューを果たします。しかし、先に出した二枚のシングルはまったくチャートにも入らなかったのですが、三枚目に出したこの「愛の放浪者」で突然大ブレイクしたわけです。

 

 ちなみに、この曲はカバーで、オリジナルはマーヴィン・ゲイ。1962年の大ヒット曲「スタボン・カインド・オブ・フェロウ」が収録された同名アルバムの収録曲で、ポールは1969年のマーヴィンのシングル「Too Busy Thinking About My Baby」のB面として記憶していて、14歳の頃友達の家でそのレコードをかけていたそうです。まったく売れなかった、ほぼ誰も知らないに等しいカバー曲だったわけです。

 

 ちなみに作者はのちにテンプテーションズの「ジャスト・マイ・イマジネーション」や「パパ・ワズ・ア・ローリンストーン」などを書く、バレット・ストロングとノーマン・ホイットフィールド、そこにマーヴィン本人が加わっています。

 

 アルバム制作中にシンプルなコードの曲をやりたかった彼はこの曲を思い出し、あらためてレコード屋に行き買い直します。


Wherever I Lay My Hat (That's My Home) (Remastered 2017)

 

 ”女ったらしの無責任野郎”(?)の歌ですから、軽快なサウンドで楽しく”笑って許してもらおう”としている感じがオリジナルからは伝わってきます。

 

 しかしポールは繰り返し聴くうちに気づくことがあったそうです。

「でも、最初は楽しく始まるんだけど、主人公はやっていることに空虚さがあることに気づいているんだ。それをとりいれて、ヴォーカルにはよりメランコリックさを加えることにしたんだ」             

                                        (The Guardian)

  そして一緒にアレンジをつめていたキーボーディストの発案で、ベーシストを呼び、この曲を象徴するようなイントロのベースのフレーズが生まれたそうです。

 そして、それまではフィル・スペクター風でかつスウィング感のあったアレンジを大幅に変えることにしたそうです。

 

 アップ・テンポをスロー・ダウンし、アレンジを明るいものから暗いものに変える、普通なら真逆な、売れない方向への転換だと思うのですが、この曲の場合それが功を奏したわけです。

 

 これは、”女ったらしの無責任野郎”は明るくごまかすよりも、少し思いつめた様子で自分でもどうにもならないんだと訴えたほうが、受け入れてもらえるということなんでしょうか?、、、

 

 

 

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