まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「Mr.サマータイム(ミスター・サマータイム)」サーカス(1978)

 おはようございます。

 今日はサーカスの「Mr.サマータイム」を。


Mr. サマータイム - サーカス

 

 この曲は1978年のカネボウの夏のキャンペーンソングとして大ヒットしました。

 この頃は、資生堂カネボウの2大化粧品会社のCMソングというのが、”最も売れるCMタイアップ”としてしのぎを削っていました。

 

 同じ時期の資生堂のCMソングは矢沢永吉の「時間よ止まれ」。

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 この2曲は両方ともオリコン1位になり、セールスも拮抗していましたが、やや「Mr.サマータイム」のほうが売れたと記憶しています(「時間よ止まれ」が好きだった当時中学生の僕は悔しく思ったものです)。

 この曲をはじめとして1978年79年あたりの日本のポップスの”洋楽っぽさ”にはあらためて驚かされます。

 ただ、この曲の場合は、洋楽のカバーではあるのですが。

 

 原曲はフランスのシンガーで作曲家のミッシェル・フュガンが自身のグループ”ビッグ・バザール”を率いて1972年に発表した「愛の歴史(Une Belle Histoire)」という曲で、フランスでは80万枚を超える大ヒットを記録し、当時日本でもフランシス・レイピエール・バルーに並ぶソングライターとして紹介されていました。


Michel Fugain & le Big Bazar - Une belle histoire (1972)

 

 僕が関心を持ったのは6年前に大ヒットしたこの曲に、夏の歌詞をつけて化粧品会社のCMに使うという”アイディア”で、誰のアイディアかは調べてもわかりませんでした。

 

 しかし、サーカスのメンバーがTVに出演したときのインタビューで、この曲はもともと「Mr.メモリー」というタイトルでレコーディングを進めていたところ、カネボウのCMの話が現れて、カネボウ側から「Mr.サマータイム」に変えて欲しいというリクエストがあったと語っていた、という情報が見つかりました。

 

 「愛の歴史」をカバーするアイディアと、夏の歌にするアイディアは出どころが別だったようですね。しかし、その2つのアイディアを合わせたことによって、紛れもなく”化学反応”が生まれたわけです。

 

 また、この曲をリリースしたのは、日本のポップスを洋楽色の強いものへと変化させてゆく原動力となった”アルファ・レコード”。

 そして、この曲のディレクターは、荒井由実の「ひこうき雲」の担当で、ユーミンの音程を徹底的に直したことで知られる有賀恒夫氏が、ここでも音程に関して厳しくメンバーを鍛えたそうです。また、この曲をアレンジしたのは日本のジャズ界の第一人者前田憲男で、彼が相当高度なコーラス・アレンジを作り、そこでも相当鍛えられたそうです。そういった音源としてのクオリティーの高さが、このヒットをしっかり支えていたように思います。

 

 さて「時間よ止まれ」派だった僕は、長い間彼らの音楽はちゃんと聴かないままここまで来たのですが、今回プロフィールを追ってみると興味深いことがいくつかありました。

 

 まず、中心メンバーである叶正子は、サーカス以前に「ピーマン」という女性3人組グループでヤマハポプコンをきっかけにデビューしています。そして、当時キャンディーズが盛り上がってきた影響か、アイドルっぽい方向にいくことを強いられたようで、グループは解散したようです。

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 その後、サーカスを結成、1977年に一度デビューし、シングルをリリースしているのですが、AB面共南佳孝作詞、作、編曲によるものでした。A面は南の1976年リリースのアルバム「忘れられた夏」に収録されていた「月夜の晩には」のカバーでした。

 このときの彼らの謳い文句では「ママス&パパス」が引き合いに出されていました。

  B面の「二人の帰り道」もなかなかいい感じで、こちらのほうが、今の”シティ・ポップ”ファンにはフィットしそうです。

 

 このときの男性メンバー二人が音楽性の違いもあって次々に辞めてしまい、かわりに叶の弟2人がそれに入れ替わるように加わることになったようです。そして、ABBAマンハッタン・トランスファーみたいな方向を目指すことになり、作られたのが「Mr.サマータイム」だったわけです。

 

 そして「Mr.サマータイム」が収録されたファーストアルバム「サーカス1」には吉田美奈子の「夢で逢えたら」(大瀧詠一)と「ケッペキにいさん」、洋楽ではボズ・スキャッグス「二人だけ(We're All Alone)」、バリー・マニロウ「恋はマジック」、サマンサ・サング「愛のエモーション」(ビー・ジーズ作)など、なかなか興味深い曲がカバーされていました。

 

 そして、次のシングル「愛で殺したい」も、「Mr.サマータイム」同様、ミッシェル・フュガン&ビッグ・バザールのカバーでした。


愛で殺したい/サーカス  けんちゃん ☆


Michel Fugain - Chante comme si tu devais mourir demain [vidéo - HQ audio]

 

 アレンジは「Mr.サマータイム」と同じく前田憲男。彼は1977年に細野晴臣らティン・パン・アレイとともにブラジル音楽に挑んだ「サマー・サンバ」というアルバムを作っていますが、その片鱗が感じられる本格的なアレンジで、これは相当な意欲作だったと思います。

 (ちなみに、ラテン、サンバ調のヒット曲ということでは「勝手にシンドバット」がこの翌月、「モンロー・ウォーク」が翌年のリリースでした)

 

 日本語詞はなかにし礼。彼はもともとフランス語の曲の日本語詞も数多く手がけています。原題は「明日死んでしまうくらいのつもりで歌え」という意味らしく、どちらも生死がタイトルになっているわけですが、「愛で殺したい」というのは原詞のニュアンスとはかけ離れたものですね。

 なかにしは、同じ年の前半に”娼婦”という”リスクの高い”言葉を使った「時には娼婦のように」が大ヒットしていたので、その手応えをもとに確信犯的に「殺したい」を使ったのかもしれません。

 ただ当時、僕はまだ中学生のガキでしたが、まだ1曲しか知られていないグループの2作目に使うのは、「殺したい」という言葉はちょっとキツすぎるんじゃないのかな、などとエラそうに心配しながらテレビを見ていた記憶があります。

 

 結局「愛で殺したい」はヒットしませんでしたが、その翌年、爽やかな路線の「アメリカン・フィーリング」(坂本龍一編曲)でまた、彼らは復活することになります。

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サーカスの最新ベスト

 

「Mr.サマータイム」収録のオリジナル・アルバム

こちらがオリジナル曲「愛の歴史」

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