まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「失うものなく(NOTHING TO LOSE)」クロディーヌ・ロンジェ(1968)

 おはようございます。

 今日はクロディーヌ・ロンジェの「失うものなく」を。


Nothing To Lose (The Party/Soundtrack Version)

 

 ”失うものなんてない もし私たちが賢明なら

  虹色の空を期待なんかしていない 今すぐには

 

    失うものがない それは楽しいことかもしれない

 太陽の下で一生を過ごせるとは言っていないわ

 そうなるかもしれないけど

 

 あなたと私はともに見てきたはず

 時間がなし得ることを

 叶わない夢を築こうとしても

 お互いを傷つけるだけでしょう

 

    何を失えるっていうの?

 私たちは世の中の酸いも甘いも知っているわ

    永遠について話す前に待ちましょう

 いつか、もしかしたら、、

 

 失うものはなく 得るものはたくさん

 もし愛がここにとどまることにしてくれたなら

 

 あなたと私はともに見てきたの

 時間がなし得ることを

 叶わない夢を築こうとしても

 お互いを傷つけるだけでしょう

 

    何を失えるっていうの?

 私たちは世の中の酸いも甘いも知っているわ

    永遠について話す前に待ちましょう

 いつか、もしかしたら、、     ”   (拙訳)

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Nothing to lose
If we are wise
We're not expecting rain-bow colored skies...
Not right away

Nothing to lose
It might be fun
No talk of spending life-times in the sun...
Although we may

Both you and I have seen
What time can do
We'll only hurt ourselves
If we build dreams that don't come true

What can we lose?
We know the score
Let's wait before we talk of ever-more...
One day we may

Nothing to lose
So much to gain
If love decides to stay

Both you and I have seen
What time can do
We'll only hurt ourselves
If we build dreams that don't come true

What can we lose?
We know the score
Let's wait before we talk of ever-more...
One day we may

 

*********************************************************************************

 

 この曲はブレイク・エドワーズ監督、ピーター・セラーズ主演という”ピンク・パンサー・シリーズ”のコンビで制作されたコメディ映画「パーティ」の劇中歌でした。

 クロディーヌ・ロンジェがこの映画にメインキャストとして出演し、この曲をギターで弾き語っています(サントラ盤に収録されたのは女声コーラスによるもので、彼女が歌っているものはシングルのみでのリリースでした)。 


Claudine Longet - Nothing to lose (from The Party movie)

 ピーター・セラーズはインド人という設定なんですね。

    異邦人である彼が、未知のハリウッドのセレブなパーティの中でトラブルを巻き起こすという映画です。

 映画自体は、リアルタイムではそれほどヒットはしませんでしたが、今ではカルト的な人気があるそうです。

 

 

 さて、この映画の音楽を手がけ、「失うものなく」を作曲したのはヘンリー・マンシーニです。

ブレイク・エドワーズヘンリー・マンシーニのコンビといえばピンク・パンサー・シリーズももちろんですが、「ティファニーで朝食を」(1961年)が有名ですね。

 そういえば、この映画でも劇中でギターの弾き語りのシーンがありましたね!もちろん、歌っているのはオードリー・ヘプバーンで曲は「ムーン・リバー」。


Breakfast at Tiffany's (3/9) Movie CLIP - Moon River (1961) HD

 

 「パーティ」で弾き語りシーンを入れようと決めたときに、エドワーズ監督の脳裏に

オードリーの姿が浮かんだかどうかは定かではありませんが、可憐な雰囲気の女性がギターを弾きながら、歌い上げるのではなく語るように歌う感じが共通していて、どちらもすごく心が和むような気がします。

 

 「ムーン・リバー」は名曲中の名曲として世界中に知られていますが、こちらの「失うものなく」は”知る人ぞ知る”という範疇にあるわけですが、Spotifyを見ると、彼女のレパートリーの中でダントツに再生数が多いので、時間をかけて広がってきているようです。

 

 カルトなドタバタ・コメディ映画じゃなく、ロマンティックなラヴ・ストーリー、せめてラヴ・コメディでこの曲が使われていたら、もう少し知名度が上がっていたようにも思えます。

 ヘンリー・マンシーニ本人は、この映画の観客の反応について

「これがコメディのために良い曲を書いたときに僕がもらう反応なんだ。誰も音符のひとつも聴こうとしない」

 と語っていたそうです。

 マンシーニの自伝を読んでも

「『パーティ』という映画は、控えめな成功で終わったとしても、今なお見る価値のある映画だ。映画の中のピーターが素晴らしい、いつもの通り」

 と自分の音楽には一切ふれていません。自分の音楽への反響があまりなかったからかもしれませんね。

 

 興味深いのは、この曲の歌詞をドン・ブラックが書いていること。

 彼は、ジョン・バリーと組んで007シリーズの曲の歌詞をいくつか書いていますが、

マイケル・ジャクソンの「ベンのテーマ」の歌詞も彼によるものでした。

 映画「ベン」もネズミが人間を襲うというカルトなパニック映画で、「ベンのテーマ」の曲の美しさとのギャップが激しかったわけですが、”カルト映画の美曲”の歌詞を書かせたら、彼に並ぶものはいないのかもしれませんね。

 

 この曲の歌詞は、抽象的で様々な解釈が可能なように思いますが、特に

「失うものはない もし、私たちが賢明であるなら」

 という歌詞は、考えさせられるものがあるように思います。

 

 「失うものはない」というと、大体の場合は、人がどん底に落ちて一文無しになって、そこから開き直ってがんばろうとするときに、自分に言い聞かせるようなフレーズだと思うのですが、この曲の場合はそうではないですよね。

 何を失ったかどうかというのは、自分の気持ちの持ちようや物の見方でいくらでも変わるもの。

 すぐに何かいいことを期待せずに、あせらず、時間に身を委ねて待ちましょう。そんな歌のように、僕には聴こえます。

 

 ランディー・ニューマンが書いた冬の名曲。

popups.hatenablog.com

筒美京平の曲も歌っています。

popups.hatenablog.com

 この曲と同じくドン・ブラックが作詞した”カルト映画から生まれた名曲”

 

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