まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛はすべての人に(Love Comes to Everyone)」ジョージ・ハリスン(1979)

 おはようございます。

 今日は僕がジョージ・ハリスンの曲の中で一番好きな「愛はすべての人に」です。

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Go do it,
Got to go through that door,
There's no easy way out at all . . .
Still it only takes time
'Til love comes to everyone.

For you who it always seems blue
It all comes, it never rains
But it pours,
Still it only takes time . . .
'Til love comes to everyone.

There in your heart . . .
Something that's never changing;
Always a part of . . .
Something that's never ageing,
That's in your heart . . .

It's so true it can happen to you all; there,
Knock and it will open wide,
And it only takes time
'Til love comes to everyone.

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    "行ってやってみるんだ あのドアの向こうへ行かなくちゃ

   簡単には抜け出せないけれど、、、

   ただ時間がかかるだけさ

      愛がすべての人のもとにやってくるまでは

 

      いつも憂鬱で、

   ものごとが悪い方向にいってしまう 

 (*降るときはいつも土砂降り)

   君へ

      ただ時間がかかるだけなんだ

      愛がすべての人のもとにやってくるまでは

 

   君の心の中には 決して変わっていないものがある

      いつだって 決して年老いることのない何かの一部が 

   君の心の中にはあるんだ

    

      それは君たち全員に、今いるその場所に 起こりうることなんだ

   ノックすれば 扉は広く開かれるさ

  ただそれは時間がかかるだけなんだ

  愛がすべての人のもとにやってくるまでは   ” (拙訳)

 

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「愛はすべての人に」の楽譜はこちら

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 ジョージ・ハリスン自身はこの曲を「とても楽観的」だと評しています。

 確かに”愛がすべての人のところにやってくる”という言葉だけだと、楽観的できれいごとだという風に聞こえなくもありません。そんなこと信じられるわけないだろ?なんて気分にもなるのかもしれません。

 ただ、その前に”ただそれまでに時間がかかっているだけさ”というフレーズがついているところが、すごくいいですよね。

 少しだけ気分が軽くなるような、ちょっとだけ信じてみようか、と思えるような。

 

 こういう時ですから、音楽がもたらしてくれる”根拠のない楽観”が、今まで以上にかけがえないものに思えてきます。

 

 

 さて、この「愛はすべての人に」は1979年に彼がリリースしたアルバム「慈愛の輝き(原題:George Harrison)」の冒頭を飾り、セカンド・シングルにもなりました(チャートには入りませんでした。信じられないことですが、、)。

 

 前作「33 1/3」から2年3ヶ月も間が空いてしまいましたが、その間彼は音楽ビジネスとのつながりは完全に絶って、カーレース観戦や映画制作をやっていました。

 ミュージック・ビジネスの枠組みに組み込まれて、売り上げを競ったり、プロモーション活動を強要されたりする、そういったすべてにうんざりしていた、と当時彼は語っています。

 またプライベートでは1977年に離婚し、78年にはずっと付き合っていたオリヴィア・トリニダッド・アリアスとの間に子供が生まれ、そのタイミングで正式に結婚しています。

  前妻のパティとは1974年には別居していて、彼女がジョージの親友であるエリック・クラプトンとすでに恋仲になっていたことはファンにはよく知られています。

 このころのジョージは、他にも「マイ・スウィート・ロード」が盗作だと訴訟を起こされたり、肝炎で長期の入院をしたり、飲酒がエスカレートして喉を悪くしたりと、まさに悪いことだらけの時期だったと言われています。

 

 「そんなときにオリヴィアと出会って、すべてが良い方向に向かいはじめた。今度のアルバムに『ダーク・スウィート・レディ』という曲があるんだけど、『きみが現れて、何から何まで助けてくれた/だめになりそうだったときに/きみは何の前ぶれもなき現れた/きみがいなかったら、ぼくはどうなっていたかわからない』という一節がすべてを物語っているよ」

                     (文藝別冊 ジョージ・ハリスン

 こちらが「ダーク・スウィート・レディ」

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 また、彼が音楽に戻ろうという思ったきっかけのひとつとなったのが、カー・レーサーのニキ・ラウダの存在で、彼が家でリラックスして音楽を聴いている時間が一番良いと言っていたのを聞いて、ニキが休日に楽しんでくれるような曲なら作れるかもしれない、と思ったそうです。

 ニキ・ラウダは3度チャンピオンに輝いた伝説的F1ドライバーですね。

 

 「慈愛の輝き」の中には、カー・レースそのものをテーマにした「ファスター」という曲も入っていますが、ファースト・シングルの「Blow Away」もニキや他の知り合いのレーサー達に楽しんでほしいと思って書いたと言われています。

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”All I got to do is to love you
 All I got to be is, be happy
 All it's got to take is some warmth to make it
 Blow Away, Blow Away, Blow Away”

 

(僕がやらなくちゃいけないのはきみを愛することだけ

 僕がならなくちゃいけないのは 幸せになることだけ

 それを実現させるには あたたかい心だけが必要さ

 イヤな気分は吹き飛ばそう 吹き飛ばそう)

 

  ヒットを作るためとかビジネスのためではなく、妻子や友人達のために”無心で”作った曲が集められたのが、「慈愛の輝き」というアルバムなんですね。

 

 本来、スピリチュアルな愛を歌う傾向の強いジョージですが、それに加えてこのアルバムには、「Blow Away」の歌詞に出てくるような <”warmth”・・・あたたかみ>が感じられて、以前の彼の作品以上に親しみが持てるような気がします。

 

 「愛はすべての人に」に話を戻しますと、この曲のレコーディングではイントロのギターをエリック・クラプトンが弾き、スティーヴ・ウィンウッドシンセサイザーとコーラスを担当しています。

 クラプトンも気に入っていたのでしょう、2005年に「Back Home」というアルバムでこの曲をオリジナルに近い雰囲気でカバーしています。

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 ちなみに、この曲を最初にカバーしたのは、ブラジルの女性シンガー、ジジ・ポッシ。最初のカバーがポルトガル語とは不思議な感じがしますが、これもなかなか良い感じなんです。


O Amor Vem Pra Cada Um

 

「愛はすべての人に」を含むアルバム「慈愛の輝き」。

慈愛の輝き

慈愛の輝き

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クラプトンのヴァージョンはこちらのアルバムに。

 

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