まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「夏の日の恋(Theme from a Summer Place)」パーシー・フェイス(1959)

 おはようございます。

今日はイージー・リスニングの最高峰、パーシー・フェイスの「夏の日の恋」を。

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  21世紀に入ったらさすがに頻度はぐっと減ったように思いますが、ある年齢以上(?)の方なら、必ずどこかで耳にしてきた曲でしょう。

 例えば旅行先の中庸なホテルのロビーとか、さまざまな施設の「待合室」とか、積極的に音楽を聴く必要はないけれど、全くの無音だとちょっと気まずい空気になりそうな場所。そういった”どこか”で低い音量で品良く流れてくるんです、この曲が。

 その最たる場所はエレベーターでしょうか。一昔前の百貨店のエレベーターとこの曲の相性はぴったりです。

 知らないもの同士が、かなり近い距離でつかのま同じ時間を過ごすエレベーターは、完全な無音はけっこう気まずいものです。思わず唾を飲み込んだ音が響いたりして。

 

 こういう音楽を一般的にイージー・リスニングとかムード音楽と呼びますが、エレベーター・ミュージックという言い方もあるようで、それには深く頷いてしまいます

 

 村上春樹の小説でこの曲が何度か出てきたことがあるなと思って、ネットで調べてみると「 ねじまき鳥クロニクル」と「女のいない男たち」でした。

 

「彼はアイロンのスイッチを切ってアイロン台の上に立て、『夏の日の恋』をテープにあわせて口笛で吹きながら、奥の部屋の棚をごそごそと探していた。
僕はその映画を高校のときにガールフレンドと二人で見た。トロイ・ドナヒューとサンドラ・ディーの出ていた映画だ。リヴァイヴァルで、たしかコニー・フランシスの『ホーイ・ハント』と二本立てだった。『避暑地の出来事』、僕の記憶によればそれはあまりぱっとしない映画だった。でも十三年後にクリーニング店の店先でそのテーマ音楽を聴いていると、その頃のいいことしか思い出せなかった」

(「ねじまき鳥クロニクル」)

 

 「夏の日の恋」は「避暑地の出来事(Summer Place)」という映画のテーマで、このブログに添付した動画には、その映画のシーンが使われています。映画は、リゾート地のホテルを舞台に、かつて報われない恋をしたもの同士が再会して、その子供達がまた恋に落ちて、、、という内容のようです。

 

 パーシー・フェイスはカナダのトロントで生まれ育った人です。日本のウィキペディアによると、彼はピアニストを目指していたのですが、18歳の時に妹の服にマッチから火がついてしまったときに、それを手で消したため大火傷を負い、ピアニストを断念し指揮者を目指すようになったそうです。

 カナダ放送協会の専属編曲家、指揮者として活躍したのち、1940年にアメリカの放送局の指揮者として呼ばれたことを機に、アメリカに移住することになりました。

 そして、「カーネーション・コンテンティッド・アワー」や「ザ・コカ・コーラ・アワー」といった番組の指揮者として活躍しました。

 

 そして、” パーシー・フェイス&ヒズ・オーケストラ”として1944年からレコードをリリースを発売しています。

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 1950年頃からコンスタントにヒットチャートの上位に入るようになりますが、最初の大ヒットは1952年リリースの「デリカード」。全米NO.1になっています。

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 そして、その翌1953年には「ムーラン・ルージュの歌」で再び全米1位に輝きます。

この曲は映画「赤い風車」の主題曲で、マントヴァーニが先にリリースしイギリスで1位になりましたが、アメリカではパーシー・フェイスのヴァージョンのほうが10週連続1位、1953年のビルボード年間シングル・チャートでも1位になる大ヒットになっています。

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 そして、パーシー・フェイスにとって2曲めの年間シングル・チャート1位(9週連続1位)になったのが、この「夏の日の恋」でした。ちなみに、年間シングルチャート1位を2曲持つのは、他にプレスリービートルズだけだと言いますから、すごいことなんですね。

 エレベーターでよく流れるBGM、として認知してしまっていますが、リアルタイムではいわば特大のヒット・ポップスだったわけです。

 

 ちなみに、この曲の発売は1959年の11月でした。秋から冬という時期だったんですね。映画の公開との兼ね合いもあったのでしょうが、夏の曲は夏のリリースするばかりが能じゃない、と言いますか、夏を恋しく思う時期に出すのものありなんでしょうね。E,W&Fの「セプテンバー」が12月に9月のことを思い出す歌だったように。

 

 この曲を聴きながら思うのは、こういう曲がヒットチャートの1位を独走する世界というのは、今僕が生きている世界とあまりにもかけ離れているということです。

 

 かなり年をとっている(?)僕ですら生まれる前です。記憶が届かないわけで、当時の映画やTV番組と重ね合わせてイメージするしかありません。しかし、そこには今の時代にはない類の”至福感”というものがあるのはわかります。

 「ねじまき鳥クロニクル」の主人公が、「夏の日の恋」を聴きながら、その頃のいいことしか思い出せない、と言う感じも何かわかるような気がします。

 人間には、時間とともに記憶を自分のいいように編集、脚色していくことで、心を保ってゆくようなシステムがあるものですが。

 

 古い音楽をさかのぼって聴くという行為は、今の時代に失われてしまったものを探しに行くことなのかも、と思えてきます。特に、多くの場合、何らかの至福感をもたらしてくれるもののようです。

 若い人たちが、生まれる前の時代のシティポップを聴くという行為にも、それは当てはまるような気がします。

 

 最後は、パーシー・フェイスが亡くなった1976年に発表された「夏の日の恋'76」を。時代を反映してディスコ風のアレンジになっています。

 

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