まいにちポップス(My Niche Pops)

令和元年初日から毎日更新中〜1日1ポップス。エピソード、歌詞の和訳、謎解き、マニアックな捜査、勝手な推理、などで紹介していきます。text by 堀克巳(VOZ Records)

「愛ある別れ(If You Leave Me Now)」シカゴ(1976)

 おはようございます。

 今日はシカゴの「愛ある別れ」です。

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If you leave me now
You'll take away the biggest part of me
Ooh no, baby, please don't go

And if you leave me now
You'll take away the very heart of me
Ooh no, baby, please don't go
Ooh girl, I just want you to stay

A love like ours is love that's hard to find
How could we let it slip away
We've come too far to leave it all behind
How could we end it all this way
When tomorrow comes and we'll both regret
The things we said today

 

A love like ours is love that's hard to find
How could we let it slip away
We've come too far to leave it all behind
How could we end it all this way
When tomorrow comes and we'll both regret
The things we said today

 

If you leave me now
You'll take away the biggest part of me
Ooh no, baby, please don't go

Ooh girl, I just got to have you by my side
Ooh no, baby, please don't go
Ooh mama, I just got to have your lovin'

 

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もし、君が今僕と別れてしまうなら

君は僕の一番大事な部分を持ち去ってしまうことになるんだ

ベイビー、どうか行かないで

 

もし、君が今僕と別れてしまうなら

君は僕のまさに心の真ん中を持ち去ってしまうことになるんだ

ベイビー、どうか行かないで

 

僕たちのような愛は なかなか見つけられない愛なんだ

どうして手放すことなんてできるだろう

二人は今までたくさんのことを経験してきた

どうしてこんな風に終わらせられるだろう

明日が来れば 二人とも今日言ったことを

後悔することになるよ

 

もし、君が今僕と別れてしまうなら

君は僕の一番大事な部分を持ち去ってしまうことになるんだ

ベイビー、どうか行かないで

ただそばにいてほしいんだ

ベイビー、どうか行かないで

ただ君の愛が欲しいんだ

                 (拙訳)

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  世界で一番利用者が多いという"Spotify"では、人気曲の上位5曲とその再生回数が表示されるのですが、ロック・クラシックのアーティストの人気曲がちょっと意外なことがあって興味深いです。例えば、ビートルズだと「ヒア・カムズ・ザ・サン」がダントツ1位だし、ストーンズだと「黒くぬれ!」が「サティスファクション」を引き離して1位です。

 

 シカゴの人気ナンバーワンはこの「愛ある別れ」で、これは順当ですね。2位の「素直になれなくて」のほうが1位かな、と僕は予想していましたけど。3位が「君こそすべて」、その次のやっと「長い夜」だ。

 ホーンセクションを生かした”ブラス・ロック”のバンドではなく、ラヴ・バラードのバンドとしての認知がはるかに大きいのは間違いないですね。

 

 この「愛ある別れ」は彼らにとって初めての1位になっただけではなく、いまいち彼らの人気がなかったイギリスでも彼らにとって唯一のNo.1になり、カナダ、オーストラリアなど他の国でも1位になりました。

 

 ブラス・ロックからバラードへとバンドのイメージを大きく変える”潮目”となった曲なんですね。

 その中心的役割を担ったのが、曲を作り歌っているピーター・セテラです。

 

 シカゴ出身の彼は、十代から自身のバンドで演奏活動をしていましたが、ある日シカゴの前身バンド”ザ・ビッグ・シング”のライヴに感銘を受けて、自身のバンドを辞めて”ザ・ビッグ・シング”に参加します。

 

 自分のバンドでは曲も作っていましたが、”ザ・ビッグ・シング”には、ジャズやクラシックの素養があり、ブラス・セクションとのアンサンブルも考えながら曲を書けるロバート・ラムというすごい才能がいましたから、彼は主にベースと、いくつかの曲でボーカルを担う、という役割でした。

 彼のボーカルの魅力が最初にアピールされたのは、ご存知「長い夜」でした。

 

 ソングライターとしては、セカンドアルバム「シカゴ(シカゴと23の誓い)」の最後に収録されていた「約束の地へ (Where Do We Go From Here)」が最初の彼の作品でした。

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 そして彼の曲で最初にヒットしたのが「愛のきずな(Feelin' Stronger Every Day )」(1973年全米10位) でした。ピーターの曲をベースに、バンドのトロンボーン奏者ジェームズ・パンコウが曲のブリッジ(展開部)と歌詞を書いたそうです。

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 ロバート・ラムはこの曲が成功したことで、ピーターがソングライターとしての自信を持ったのではないかと言っています。

 

 その次のヒットしたピーターの作品が「渚に消えた恋(Wishing You Were Here)」 (1974年全米11位) 。この曲のコーラスにはビーチ・ボーイズのアル・ジャーディン、カール・ウィルソン、デニス・ウィルソン、ブルース・ジョンストンが参加していますが、これは彼らのファンだったピーターのリクエストだったそうです。

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  そして「愛ある別れ」。「ザ・ベスト・オブ・シカゴ 40周年記念エディション」のライナー・ノーツでロバート・ラムはこう語っています。

「ある時ピーターの家に行ったら、彼は「じつは書き溜めた曲があるんだが、この中で使えるものはあるかな?」と聞いてきた。それまで彼はまだソングライターとしてはシカゴの中では大きな存在になっていなかった」

 

 ヒットは出すようになってはいても、バンドがどの曲をやるかはロバートがイニシアチヴを持っていたんですね。

  

   「愛ある別れ」はストリングスをサイモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」を手がけたジミー・ハスケルが手がけ、それまでのシカゴのサウンドとは大きく異なっていました。

 そして、印象的なアコギはテリー・キャスではなく、プロデューサーのジェイムズ・ウィリアム・ガルシオが弾いています。彼はもともとロサンゼルスでセッション・ミュージシャンもしていた人です。テリーが弾くためのガイドとして録音したのだそうですが、出来が良くこれでいいんじゃないかということになったようです。

 そのためか、テリーはその後のライヴでこの曲をやりたがらなかった、という話があります。

 

「愛ある別れ」の大ヒットをうけて、レコード会社からはピーターのバラード路線を望まれたようですが、バンドはピーターをメイン・ヴォーカルの地位に置きながらも、曲作りに関してはバンド・メンバーが偏りなく手がけるようなかたちで、折り合いをつけていきました。

 

 しかし、その後バンドのセールスは落ちてゆき、その打開策として招かれたデヴィッド・フォスターは、ピーターを重用することで「素直になれなくて」などの大ヒットを生み出します。

 ただ、これでバンド内の亀裂は決定的になったようで、ピーターはバンドを辞めソロとして活動をしています。

 

 のちのインタビューで、ピーターはシカゴの昔の曲は辛くて聴くことができないと語っていたことがあります。また、自分はジャズやクラシックの影響は一切受けていないロックンロール好きのミュージシャンだとあえて語っているインタビューもあって、これは暗にシカゴは自分の本来の姿とは違ったのだと言いたいように受け取れます。

 

 1960年代終わりから70年代初めというのは、ポップ・ミュージックには激しい逆風が吹いていた時代でした。日本でも大滝詠一は自分の中の”ポップス”を封印してはっぴいえんどに加わりました。

 

 ピーター・セテラは1970年代半ばから、ようやく自分が本来好きなシンプルなポップス、ロックでヒットを出せるようになったのに、それによってバンド・メンバーとの軋轢が生じることになったわけで、それは悩ましいことだったのでしょう。

 

 名曲が生まれ大ヒットになったのに、バンド自体はハッピーになれなかった。音楽のビジネスは本当に難しいものですね。

 

 最後にシカゴの前身の”ザ・ビッグ・シング(The Big Thing)”の音源がYouTubeにありました。ロバート・ラムの曲らしいですが、時代的にまだポップスの要素がありますね。ブラスが加わった”サンシャイン・ポップ””バロック・ポップ”という雰囲気です。

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