まいにちポップス(My Niche Pops)

令和初日から毎日、1000日連続で1000曲(せんきょく)を選曲(せんきょく)しました。。。古今東西のポップ・ソングのエピソード、洋楽和訳、マニアックなネタ、勝手な推理、などで紹介しています。キャッチーでメロディアスなポップスは今の時代では”ニッチ”なものになってしまったのかなあとも思いますが、このブログを読んでくださる方の音楽鑑賞生活に少しでもお役に立てればと願っています。みなさんからの追加情報や曲にまつわる思い出などコメントも絶賛募集中です!text by 堀克巳(VOZ Records)

「幸せの黄色いリボン(Tie a Yellow Ribbon Round the Ole Oak Tree)」トニー・オーランド&ドーン(1973)

 おはようございます。

 今日はトニー・オーランド&ドーンの「幸せの黄色いリボン」です。

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I'm comin' home, I've done my time
Now I've got to know what is and isn't mine
If you received my letter telling you I'd soon be free
Then you'll know just what to do
If you still want me, if you still want me

Whoa, tie a yellow ribbon 'round the ole oak tree
It's been three long years, do you still want me?
If I don't see a ribbon round the ole oak tree
I'll stay on the bus, forget about us, put the blame on me
If I don't see a yellow ribbon 'round the ole oak tree

Bus driver, please look for me
'Cause I couldn't bear to see what I might see
I'm really still in prison and my love, she holds the key
A simple yellow ribbon's what I need to set me free
And I wrote and told her please

Whoa, tie a yellow ribbon 'round the ole oak tree
It's been three long years, do you still want me?
If I don't see a ribbon round the ole oak tree
I'll stay on the bus, forget about us, put the blame on me
If I don't see a yellow ribbon 'round the ole oak tree

Now the whole damned bus is cheerin'
And I can't believe I see
A hundred yellow ribbons round the ole oak tree
I'm comin' home


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僕は家に向かっている 刑期を終えたんだ

確かめなくちゃいけない 

僕がまだ持っているものと 失ってしまったものを 

僕がもうすぐ自由になると書いた手紙を 君が受け取っているなら

やることはわかっているよね

もしまだ君が僕のことを求めているなら

もしまだ君が僕のことを求めているなら

 

あの古い樫の木に黄色いリボンを巻いてくれ

3年も経ってしまったけど

君はまだ僕のことを求めてくれるかい?

もしあの古い樫の木にリボンがなかったら

僕はバスから降りないよ

二人のことは忘れよう

僕のせいにしていいんだ

もしあの古い樫の木に 黄色いリボンがなかったなら

 

運転手さん どうか僕の代わりに見てくれないか

僕には自分で見ることに耐えられそうもないから

僕はまだ牢屋にいるのと一緒さ

愛する人が 開く鍵を持っているんだ

ただ黄色いリボンだけが 僕を自由にしてくれる

僕は手紙に書いて 彼女にお願いしたんだ

 

あの古い樫の木に黄色いリボンを巻いてくれ

3年も経ってしまったけど

君はまだ僕のことを求めてくれるかい?

もしあの古い樫の木にリボンがなかったら

僕はバスから降りないよ

二人のことは忘れよう

僕のせいにしていいんだ

もしあの古い樫の木に 黄色いリボンがなかったなら

 

バス中みんなが歓声を上げている

信じられない光景さ

100枚もの黄色いリボンが、あの古い樫の木にまわりに

僕は家に帰るんだ、、、

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 今もTVCMで耳にしますし、中高年層(!)には山田洋次監督、高倉健主演の映画「幸福の黄色いハンカチ」と同じ題材の曲であることも知られている、ポップ・クラシックです。

 

 この曲の作者は最初リンゴ・スターのためにプレゼンしたそうですが、当時のアップル・レコードの責任者は、”人にこんな曲を聴かせるなんて恥ずかしい、木にリボンをつける歌なんて馬鹿げているし、自分自身を恥ずかしく思え、こんな曲はあなたたちのキャリアを台無しにするから、二度と誰にも聴かせないほうがいい”などと、

 想像を絶するほどの”酷評”をあびせたそうです。

 

 ところが、この曲は全米1位になったどころか、イギリス、オーストラリアなど10カ国で1位、アメリカとイギリスでは1973年の年間チャートでも1位をとり、2018年のビルボード誌の特集では60年の歴史の中で史上46位にランクされるほどの、特大ヒットになりました。

 作者はL・ラッセル・ブラウンとアーウィン・レヴィンの二人。ブラウンはフォー・シーズンズのプロデューサー、ボブ・クリューに気に入られ作曲家の道に進んだ人で、レヴィンはフィル・スペクター・プロデュースの「ブラック・パール」(チェックメイツ・リミテッド)をフィルとトニ・ワインと共作している人です。

 

 ブラウンはこの曲を書いたときのことをこう語っています。

 

 「曲を書く前の夜、”リーダーズ・ダイジェスト”の記事を読んだんだ。それは人の興味を引くもので、半ページの長さだった。ピート・ハミルが書いていて、こう始まるんだ 

 ”グリニッジビレッジのパブで聞いた話だ、それは、長い間言い伝えられてきた、南北戦争中にアンダーソンビル刑務所から帰ってきた兵士についてのもので、彼は駅馬車の運転手に、南軍の刑務所に3年間入った後、自分が帰るという手紙を自分の彼女に書いたと話した。

 町の外れに大きな樫の木があった。もし彼女が彼に駅馬車から降りて欲しければ、ハンカチを木につけておいてほしいと、彼はその話を運転手や他の馬車の客たちに話していた。彼はつらくて見ることができない、と言った。そして彼らが木の前に着くと、木はハンカチでいっぱいになっていた" その話は、僕をゾクゾクさせたんだ。

 次の日の朝、私は車でパートナーの家に行き、曲を作る前にこの話をしてもいいかと尋ねました。彼は聞きたくなかったんだけど、僕がしつこく言ったら、彼は "じゃあ、手短に言え "と言った。それで 急いで話したら、彼は”ラリー、首と腕がゾクゾクがしてきた。 早く、もう一回話してくれ”と言ったんだ。それで僕は、もう一度話した。 彼は "その話は好きだけど ハンカチは鼻水がついてるじゃないか。気持ち悪いよ。

 僕は”じゃあ、どうすればいい?”と訊くと、彼は”ハンカチをリボンに変えよう。その方がきれいだ”。僕が”いいじゃないか”と言うと、彼は”駅馬車は古いね、バスにしよう”

僕は”いいね。タイトルはどうしようか、アーウィン?”。すると、今はなき偉大なアーウィン・レヴィンはこう答えたんだ。”'Tie A Yellow Ribbon Round The Ole Oak Tree'にしたら君はどう思う?”ってね。僕は彼をじっと見て言ったんだ”最高だよ”って」

   (Gary James' Interview With Songwriter

 

 そして、ブラウンはギターを手にすると、まるで”自分が自分の名前を知っているくらい”すらすら”と一番のAメロとサビが出てきたそうです。すると、アーウィンが2番とエンディングを作り、ものの15分で曲が出来上がったそうです。

 そして、彼らにとっては完成直後にハイタッチをするほどの会心作だったわけですが、最初に聴かせた相手(アップル・レコードのA&Rチーフ)にコテンパンに言われてしまったわけです。

 

 ハンカチがリボンに変わったのは、音楽的にハマりが良かったからかなと思っていたのですが、”鼻をかむからきたない”という理由だったんですね、、。

 

 ちなみに、ブラウンが読んだリーダーズ・ダイジェストの記事は、日本にも縁がありファンも多かったジャーナリスト、コラムニストのピート・ハミルが1971年にニューヨーク・ポストに書いた記事が再録されたものなのだそうです。

 

 さて、この曲を歌っているトニー・オーランドはニューヨーク、マンハッタン出身で、最近このブログに登場したキャロル・キングやロバート・ジョンと同じようにドゥ・ワップ・グループに夢中になり、自らグループを結成し活動していました。

 そして、キャロル・キングの所属していた”アルドン・ミュージック”のドン・カーシュナーに気に入られ契約し、ソロ・シンガーとして活動を始めます。

 

 興味深いのは、彼のデビュー曲「Talkin' About You」と2作目「Half Way To Paradise」がキャロル・キング&ジェリー・ゴフィンの作品でキャロルのアレンジ、3作目「Bless You」がバリー・マン&シンシア・ワイル作でキャロルのアレンジという、キャロル・キングが制作にガッツリと入っていることです。

 4作目「Happy Times」では、キング&ゴフィンにワイルが加わって曲を書き、そのあろシュレルズの「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロウ」までカバーしています。

 この中では「Bless You」の出来が良く、チャートでも全米15位と一番いい成績を残しています。


Tony Orlando -- Bless You

 

  その後彼は、このブログではおなじみのクライヴ・デイヴィスの目にとまり、CBSレコードの出版部門の副社長の職につき、ジェイムズ・テイラーローラ・ニーロなどと仕事をしたほか、バリー・マニロウの「恋はマジック(Could It Be Magic)」の最初のヴァージョンのプロデュースを手がけます。

 

  そして彼は、友人のプロデューサーで、元トーケンズのハンク・メドレスと彼のパートナーのデイヴ・アペルから、歌の仕事を受けます。チェックメイツ・リミテッドの「ブラック・パール」を作ったトニ・ワインとアーウィン・レヴィンが書いた「恋するキャンディダ(Candida)」で、ハンクは絶対に売れると思っていたのです。

 (ちなみに、ハンクとデイヴ・メドレスはこの後、ロバート・ジョンに「ライオンは寝ている」をカバーさせてヒットさせています)

 

 仕事を引き受けたものの会社の重役である手前、彼は自分の名前を表に出さないことにし、リリース先のベル・レコードの重役の娘のミドル・ネームである”ドーン(Dawn)”という名義で発売しました。


Tony Orlando & Dawn - Candida (Audio)

 この曲は全米3位の大ヒットになります。

 そして、これをきっかけに彼は歌手に復帰し、女性メンバー二人をメンバーに加えて”ドーン”を正式に結成し、次のシングルを制作します。それが「ノックは3回(Knock Three Times)」。これが、全米1位と、前作以上のヒットになりました。

 曲を書いたのは「幸せの黄色いリボン」同様、L・ラッセル・ブラウンとアーウィン・レヴィン。面白いのは、この曲はゴフィン&キングの「アップ・オン・ザ・ルーフ」(ドリフターズ)のような、都会のアパート暮らしの詩情を描こうとして作ったのだそうです。

 

 アパートの真下に住む女性に恋した男が、答えが”YES"なら天井を3回ノックしてくれ、という歌です

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 しかし、その後は曲を出すたびにどんどんセールスが落ち、彼らは解散を考え始めます。そこで、ハンクとデイヴから連絡があり、提案されたのがこの「幸せの黄色いリボン」だったのです。

 メンバーのテルマはすでにテンションがかなり下がっていたのでしょう、TVで見たい映画が放送されるのでそれを見てから遅れてスタジオに行ったそうです。そしてスタジオにつくとレコーディングは終わっていたのだそうです(ほとんどトニー・オーランドのソロ曲みたいになっているのはそのせいなんですね)。

 トニー本人も最初曲を聴いた時に”古臭い”と思ったそうです。

しかし、結果は特大ヒットになり、再び彼らは息を吹き返すことになったのです。

 

 キャロル・キングニール・セダカ、このトニー・オーランド、プロデューサーのハンク・メドレス、そしてロバート・ジョン、みんなニューヨークやその近辺で生まれ育った人たちですが、全員が若い頃ドゥ・ワップに魅了されていました。

 そんな人たちが、さまざまなかたちで力を合わせながら、1960年代から70年代のポップスに大きく貢献していたんですね。

 

幸せの黄色いリボン

幸せの黄色いリボン

  • Arista/BMG Heritage
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1973年リリースの大ヒット曲

popups.hatenablog.com

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